リバーシブルな浅知恵心
結局、俺はマンガを買えなかった、つうかリンカの分の金を先払いしちまっていたせいで金が無くて買えなかった……くそっ、なんで買いに行く前に気付かなかったんだ俺は。
仕方ねぇ、リンカから金を返してもらってから買いに戻るか………あれの最新刊が売ってるとわかってりゃちゃんと財布を確認してたはずなのに……!
そんな自分に苛立ちを感じつつに、あいつらの場所まで戻ると………なんか知らねぇ野郎四人と話しをしていた、ああ、ナンパか?
見たところ、ありゃ俺と同じ高校生っぽいな………あんな三バカに声をかけるとは可哀想な奴らだ、よっぽどナンパ連敗したんだろう。
だがこいつは好都合だな、金を返してもらってもごちゃごちゃ言われずに帰れるし、ナンパの邪魔もされないから野郎四人も大人しい、そんで色気なし三人衆も楽しくデートして色気を上げるようになるだろう、変な奴らなら黒日々が撃退するだろうから問題無し。おおっ、まさに全員幸せの三拍子ってとこか。
うっし、作戦実行。
俺はペチャクチャ話す野郎四人と三バカんとこに向かう。
「だからさー、ちょっとでいいんだって」
「ねっ、頼むよー」
「そ………そう言われても……」
近くに行くと、ヒカリは困りながら対応していた、あれか、クレーマーを相手にする店員的な感じか。
にしても野郎四人も妙に焦った顔してるような………まっ、いいか。
そして俺に気付いたリンカが声を出す。
「あっ、レンガー」
困り果てていたヒカリが目を輝かせる、悪いがこの状況を救う気ねぇぞ。
黒日々の方はほっとした表情をする、だから救う気ねぇっつぅの。
んで、野郎四人の方は完全に睨みつけて来てやがる、くっ………ケンカ売りてぇが我慢だ我慢。
俺は奴らの視線を無視して、リンカに向かって手を差し出して言う。
「リンカ、さっきのぬいぐるみ代今渡せ、マンガ買う金がねぇ」
俺がそういうと、黒日々たち三人はポカンとした顔をする、アホに磨きかかってんぞ、その顔。
「じ、じゃあ私たちも買いに行こうかなー」
ヒカリは慌てつつ笑顔で言うが、そうはいかねぇ、こいつらのナンパを邪魔してやんのは可哀想だしな。
「いや、邪魔だからここ座ってろ」
俺がそういうと、ヒカリは恨みがましくこちらを見る。はっ、ざまぁみやがれ。これはお前らの為でもあり、俺の為でもあり、こいつらの為でもあるというまさにプラスしかないことだからな。
俺はニヤニヤしながらそう思っていると
「おい」
四人のうちの一人が、俺の胸ぐらを掴んで来る。
「てめえ、女に金せびるとかどういう根性してんだ」
「性根が腐ってやがるな」
「女に対する気遣いってのを知らねぇなこいつ」
「駄目人間が」
俺は野郎四人から次々に暴言をもらう、なんで俺がこうも責められてんだよ……! つうかナンパであんなこというような奴に言われたかねぇんだが!
「店の裏に来いや、性根叩き直してやる」
せっかく俺がみんな幸せ大作戦で終わらせたろうと思ったっつぅのに……上等だこいつら…!
「ち………ちょっと…?」
ヒカリが止めようとするが、俺はその声をかき消すように話す。
「ああ、上等だ…………お前らは今、幸せロードから地獄ロードへ道を踏み外しちまったぜ…!」
俺は胸ぐらを掴む奴を睨みつけ、胸ぐらを掴む手をおもいっきり握ると、そいつは痛そうな顔をしながら手を放す。
「…来い」
一言そう言うと、野郎四人衆は歩き出す。
「レンガ、私も……!」
「テメェは黙ってヒカリ達と遊んでろ、それに今回は俺のケンカだ、テメェに出る幕はねぇよ」
「だが……!」
…黒日々は妙に心配そうな顔をする、とか思ってると、リンカやヒカリまで心配そうな顔をしてやがった………こいつらは俺を雑魚かなんかと思ってんのか? もしくは、自分たちが巻き込んでしまったとか考えてんのか?
…ったく、俺はテメェらの心配なんか微塵もしてなかったっつぅのに……俺一人悪人みてぇだろうが。
俺は頭をかきながら、黒日々達に言う。
「何アホ面でテメェらこっち見てんだ、ボケっとしてる暇あんなら俺が集めてるマンガの最新刊買っとけ、それでこの面倒ごとはチャラだ」
「でも……」
ヒカリが顔をうつむかせて小さく言う……いつもテメェは俺がケンカ行くとこ見てただろうが! あぁもうこのバカスリーどもは!
「だぁーっ! さっきからアホ面並べやがって!! いいか! 勘違いすんなよ! 別にテメェらの為に行くんじゃねぇ! 俺が好きでケンカするだけだ! 人のケンカに首突っ込もうすんなこの三バカ!」
そう言って振り返り、俺は四人の野郎の後をがに股で歩いて追う。ったく、何を心配してんだか……! さっさと終わらせて、俺を舐めたあいつらこづき回してやらぁ…!
++++++++++
レンガは怒って、四人の後を追って行ってしまった………なんで怒ったんだ…?
私がそう思うと、ヒカリはため息を吐いて言う。
「ちょっと私達が心配すると怒るってわかってたのに、失敗しちゃったなぁ…」
「…どういうことだ?」
私はヒカリにそれを問うと、リンカちゃんが代わりに言う。
「レンガは、いつも私達がしんぱいそうにすると怒ったりするんだよー」
「うん……中学の時も、私のせいで危ない先輩のとこ行こうとした時にさ、さっきみたいな態度取ったら………あんな風に怒られちゃってさ、本当、まだまだ私わかってないねレンガのこと」
ヒカリはシュンとした顔でそう言う………ああ、そうか、私達が心配そうな顔をしたからレンガは怒ったのか。
…だとしたら、私も何となくその気持ちはわかる。
私は中学の時の、一人の友人の姿を思い出す。私が戦い………いや、ケンカ、だな。それをしようとした時、彼女が泣きそうな顔をしたら、私も困ったことがある。
だから敢えて見栄を張って、私なりに彼女を笑わせようとした時もあった………きっと、あの時の私の心境と同じなのだ。
……レンガは本当、素直じゃないな、ツンデレンガなんて言われてもしょうがないじゃないか。
私はそれに気付いて、クスリと笑う。
わかったよ、レンガ。
今回、私は君のケンカの邪魔をしない。
だからちゃんと、彼女達が笑って迎えられるように帰って来るのを信じてるぞ?
…まぁ、多少大袈裟に考え過ぎてるかも知れないけどね。
自分の中で結論を出した私は、ヒカリ達に話しかける。
「とりあえず、レンガの言っていた本を探そう二人とも」
「でも……」
ヒカリは怒られた子供のように、萎縮しながら答える。
「レンガのケンカが終わった後に私達がここで黙って座っていれば間違いなく彼は怒るぞ?」
「うっ、それは確かに……」
「なら買っておこうじゃないか、もし二人が自分のせいだと思ってしまっているならきっと、それがレンガにとってはありがたいことだと、私は思うぞ?」
私がそう言うと、ヒカリは少し顔をうつむかせる………ちょっとメチャクチャなことを言い過ぎただろうか。
そう思っていると、ヒカリはちょっと笑みを見せて言う。
「…えへへ、さくやんに一本取られたかな? 確かに、レンガならその方がありがたく思うかも…」
そして、ヒカリはよぉーしっ! と言いながら立ち上がる
「それじゃ、レンガの言ってたマンガ買いに行こうリンカちゃん!」
ヒカリの元気な声にリンカちゃんは驚き、何か言葉を発しようとしていたが、ヒカリの元気がそれを許さないように言う。
「反論は聞かないよ! 一番レンガの情報を知ってるのは妹のリンカちゃんだからね!! よぉーしっ! 爆転してシュートでゲットと行こーっ!」
ヒカリは元気な声を出し、腕を高々に上げてそう言った。
言葉の意味としてはわからない部分もあったが、戸惑っていたリンカちゃんもその元気に釣られて『おーっ』と言って、元気よく腕を上げていた。
私は二人の顔を見て安堵する、良かった、二人とも元気になってくれて。
…後はレンガが負けてこないことを祈るだけだな………負けたら、学校でそれを引っ張ってやるからな?
そんなことを思い、私達は書店の方へ向かった。




