保健室の先生的保健のせんせー
「…はっ!!」
俺はガバッと起きて目を覚ます。もしかして、俺は寝ていたのか…?
辺りを見回すと、白いシーツやベッドに薬品やら体重計やらが置いてあった、この4月によく見た風景で俺はここがどこだかを理解する。どうやら、ここは保健室みたいだな。
「あらら~? 起きた~?」
気の抜けた声がしたと思うと、奥の方から茶髪のメガネつけた白衣の女がやってきた。
「…また世話になっちまったみたいだな」
「え? わたしはアナタの夜のお世話になったかどうかなんて知らないわ~?」
「意味がちげぇよ!!」
「じょーだんじょーだん」
保健の先生である、医薬野スーナはあっけらかんとそう言った。本当に先生かこいつは。
つうか、俺はなんでここにいんだっけな。
俺は少し前のことを思い出し納得する。ああ、そういやあの万里チュウカと俺はもう一人のチャイナ女の攻撃が当たりまくって気絶したんだったな。
まぁ、あんなの食らいまくったら普通は死んでるはずなんだが、この学校じゃ死のうにも死ねないらしく、バトル終了後の傷は支障ない程度まで回復するらしい…こんな不可解な現象にもバトルしまくって慣れてしまったせいか、どうせなら全快させろよって思ってしまうほどだ。
とはいえ、あんなもんわかっていても心臓に悪いことには変わりない、刃物使いと戦うのはこういう点があるから厄介だな……まぁ今回は完全に巻き込まれた感じだが。
そういや、黒日々の方はどうなったんだ? 勝ったのか?
気になった俺は、医薬野に問いかける。
「なぁ、ここに運ばれたのは俺だけか?」
「いやいや、ちゃんと君のベッドの横にいるじゃない」
俺は隣にあるベッドを見る、そこには万里チュウカと黒日々が眠っていた。
黒日々は静かに眠ってるが、万里チュウカはうなされながら眠っていた、嫌なことでも囁いてやろうかこいつに。
「あっ、しまったぁ~、君のベッドに二人共眠らせるべきだったね、失念失念、スーナ大失敗」
「てめえのその発言が教師として大失敗だよ」
「何を言うの~? 実技形式保健体育が発生したら、保健の先生冥利に尽きまくりじゃない~」
「んなもん発生したら即刻退学だアホ教師、つうか、もう一人はどうしたよ」
「ああ、万里チャイナさん? 先に起きて出ていったよ、ちなみに勝敗はダブルノックアウトで引き分け、らしいわよ~」
なるほどな、黒日々がやってくれやがったのか。引き分けにまで持ち込むたぁな……やっぱり、悔しいがこいつは強ぇ。
…結局ろくに戦えずに終わっちまったか………あんな邪魔が入らなきゃ………
……いや、あのままやってりゃ…………
俺は、万里チュウカに負けていたかも知れねぇ。
……はっ、何弱気になってんだ俺は…あり得ねぇあり得ねぇ!! 負けるなんてのはあり得ねぇ!!
俺は首を振って、ごちゃごちゃしてる頭の考えを振り払う。
「悩んでるね~、うんうん、悩みは若いうちは大切、けれど悩み過ぎもよくないよ?」
「うっせぇ、悩んでねぇよ」
「そうかな~? まぁそんなことより、今寝てるから女子生徒二人のスカートの中覗くチャンスあるけど、どうする?ちょっとハァハァして見ちゃっていいのよ~?」
「どうもしねぇよ、行き遅れのセクハラエロババア」
「変な名前で呼ぶのやめないかな~!?」
とりあえず俺は立ち上がり、ふと黒日々の顔を見る。寝顔までアホ面だな、緩みっぱなしの顔しやがって。
見ていると、黒日々は何か寝言を言い始める。
「…う~ん………レェンガ……」
人の名前を夢の中まで出してんじゃねぇよ。
「おっ~!まさか~? 恋愛系な寝言~?」
「黙ってろ行き遅れ」
「このやろ~、さっきからまだ若い二十代の私に向かって~、十代は同じ十代以上はジジイババアなのか~!!」
無駄に騒ぐ行き遅れを無視し、黒日々の寝言にも興味ねぇから教室に戻ろうとした時
「また……負けたのか~……?可哀想に~…………百連敗とは~………ムニャッ…………」
とか、黒日々は言った。
その瞬間、俺は黒日々の方を向いてこいつの両頬を掴み。
「何、人の敗北数増やしてんだテメェェェ!!!」
「ふにゃぁぁぁぁ!?」
上下に揺らして、無理矢理目覚めさせた。
「れ…レンガ、随分な起こし方じゃないか……両頬が痛いぞ……」
「テメェが悪い、例え寝言だろうがな」
その言葉の意味を黒日々はわからないような顔をするが、その理由を言う気はなかった。面倒だしな。
そして、黒日々は周りを見渡して言う。
「…ここは?」
「保健室だ、勝負はダブルノックアウトで引き分け」
「で、私が先生の医薬野スーナ、気絶したらここに運ばれるから~、今後ともよろしく~」
黒日々は控えめな感じで、はいと答える。
「あの…誰がここまで運んでくれたのですか…?」
「足原シュウトくんと保健委員の皆さんかな~、君たちバトルバッチ所有者は一回保健委員に感謝すべきかもしれないわね~」
「それがアイツらの仕事だからしゃあねぇだろ」
「傍若無人な意見だね~、負けてばかりなのに」
「う…うっせぇ」
俺は顔を背けながら言う、確かに…こればかりは否定しきれねぇな……アイツらに仕事増やさせてる一年生ナンバー1は、言いたくねぇが俺なのだから。
そして、黒日々は自分の身体をキョロキョロ見ながら言う。
「……ん? アバラや身体に痛みがあまりない…?」
「…あれ~? もしかして今まであまり戦ったことないの~?」
「こいつ、最近転校して来たばっかだからな」
「あはは~、なるほどね~、じゃあ軽く説明してあげるわ~」
行き遅れは飄々とした態度で話し始める。
「この学校は、戦いを快適にさせる為に戦闘終了すると生徒の傷を一定まで自動回復させてくれるのさ~、毎回ボロボロとか死にかけじゃ、通常の授業にも影響あるしね~」
それを聞いて、黒日々は驚く。当然だ、俺も最初に戦った刃物使いと戦った時には死んだと思ったが、見事に生きてるしな。まぁ、それもちゃんとパンフレットに書いてあったんだけどな。
ただ、その回復の出所は不明だ、噂じゃ学校の先生の誰かの能力でやっていると聞く。
「本当に摩訶不思議な学校だな……転校前に情報は聞いていたが、ここまでなんて思わなかったよ……」
「はっ……だけどな、お前は今からそういう摩訶不思議なとこで授業受けて、摩訶不思議な連中と戦うんだ、まさかもう無理だなんて言わねぇだろうな?」
黒日々はそれを聞くと、軽く笑い
「勿論、俄然やる気が出たに決まっているさ」
と、嬉しそうに言った。
そうさ、弱気になってる暇はねぇ……弱気になることが無くなるぐらいに……そういう奴らを蹴散らせるほどに強くなりゃいい。
…全く、楽しみで仕方ねぇぜ…!
そんな俺を見て、医薬野は呆れたような溜め息をつく。
「…呆れるほどヤル気満々というかなんというか……まっ、そういうヤツが多いと楽しいのはわかるし………存分に頑張りなさいな」
「けっ、お前に言われるまでもねぇよ」
俺は医薬野に適当に返答した。
そして、俺はうなされる万里チュウカを見て、つぶやく。
次は、負けねぇ。と
そんな会話をしたあと、俺と黒日々は一度教室に戻り、部員集めはまた後日にすることにして、今日は帰ることにした。