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見知らぬ土地―2

「こっちです!」

「痛っあ、待ってっ、くださ……っ」

 頭に響く男の声。強く腕を引かれた涙は、痛みに悲鳴を上げる。

「え? どこか怪我をされているんですか!?」

 涙の手を引いた男は慌ててその身体を戻し、涙を見た。痛みに歪む視界の端でその声の主を見た涙は、少し驚きに目を見開く。

 さらりと長すぎず短すぎない美しい金の髪に、整った顔立ち、そして薄い唇から紡がれ低すぎず高すぎず、透き通るような思わず聞き惚れてしまう声。

 何より、切れ長の目から覗く瞳は引き込まれてしまうような海を思わせる青で、息を飲んだ。

(が、外人さん? 顔は、そんなに日本人離れしてない気がするけど……)

「服の上だとわかりませんね。すみません、強く引いてしまって。走れそうですか?」

「えっと、あ、その……」

 とりあえずずるりと足を引きずって、男から顔を逸らし先ほどの熊とは反対の方に移動しようとした涙は、がっくりと膝をついた。

「駄目そうですね。すみません、戦います。隠れていてください」

「た、戦う?」

 自分でも驚く程すとんと地面に落下するように膝をついた涙は少し涙目になりながら質問したが、彼は答えず涙の腕をゆっくりと引いて自分の後ろに下がらせた。

「少し驚くかもしれませんが、必ず護りますから」

「は……い」


 半ば呆然とし、頷くや否や涙は傍にあった割と大きめの木の傍に押しやられ、一瞬だけ穏やかな笑みが向けられたが青年はその場から離れてしまう。

 ペタリと座り込んでしまい枯れた葉が手の平にちくちくと刺さって痛んだが、そんな事も忘れて涙は目の前に現れた巨大な熊に驚いて悲鳴を上げた。

「落ち着いて下さい。隠れていて!」

 青年の声が聞こえて、痛む身体を押さえつつ慌てて木に身を隠す。

 唸り声を上げるものはよく見ると全体の雰囲気は熊の様に大きく手に爪が覗くものの、頭は狼のようで口からは鋭い牙が覗き、長い尻尾が見える。尻尾がダンダンと地面を叩いて木の葉が舞った。

(違う……熊じゃない)

「なに、これ」

 つい口から出てしまう言葉。ありえない。あんな生き物知らない。そう呟きながら首をふるふると横に振ってみるが、視界からそれが消える事はない。

 青年はなにやら腰から外すと、手を大きく振った。

「あなたの相手は、私です」

 熊らしきものが悲鳴を上げた涙に向かってこようとしたところを、青年が剣を突き出し止めた。

 剣は青いような、紫のような光を放っていて、パチパチと音がする。

(……雷みたいに見えるのだけど、そんなまさか)

 涙が目を見開いて少しだけ身を乗り出してしまったその時、熊が手を振り上げる。青年に鋭い爪が向かい、思わず頭を抱えて叫んでしまう。あんなものに当たったら、人なんて、そんな恐怖が頭を支配して。

 しかし呆然と木にしがみついてそれを見ていた涙の目の前で青年はその光を放つ剣をあっという間に熊に突き刺し、刺された巨体は強く光ったかと思うと大きな肉片となってばらばらとその場に崩れ落ちた。

「……っ!」

 あまりの光景に絶句し、ひどい吐き気が涙の身体を襲う。

(そんな、そういえば薬、飲んでなかった)

 涙が必死に耐えて口元を手で覆っていると、背に暖かいものが触れた。


 手だ。


 さっきの青年が心配そうに顔を覗き込んでいて、その手は涙の背をゆっくりと撫でている。

「……ご、めんなさ」

「謝る事はありません。目の前で戦闘をしてしまい申し訳ありませんでした。立てそうですか」

 ここから離れたい。そう思い頷こうにも、胃の不快感に耐える事もできそうになく涙は無言で小さく頭を振った。

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