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気高き護りの町―6

「いい匂い~」

 ふわふわと辺りに湯気が上がり、それと共に広がるのは夕食のスープの香り。

 昼の休憩後、無事に旅を続けられたルイ達がその日の野営場所となる予定の地に着いたのは、月が顔を出した頃。


 現在食事の準備をしているのは、アイラとルイ。それを見守っているのは護衛として残されたデュオ。

 アイラはもちろん「お休みください」と慌てたのだが、ルイが手伝うと言って譲らなかったのだ。

 本来であればアイラと他の騎士が担当する筈だったのだが……初日の今日だけは騎士達はカイトの元に集い、会議が開かれていた。

 内容は、上位騎士メンバーの護衛する少女の正体。そう、ルイが神子であるという事実。

 本来は生まれた時から神子として育てられ、周囲は周知であるのが普通である為、異例すぎるルイを神子と予測する者はいないだろう。それが起こり得たという、事実の説明。

 今夜の説明で、共に旅する自分を守ってくれている騎士達の様子が変わるのでは、とルイは気にして、それを口にする事はないものの内心恐怖と戦いながらの食事の準備。何かしていなければ落ち着けなかった。

 神子としての自信の無さがそうさせていると、ルイ自信気づいているから落ち込みも早い。


「ルイ様? やはりお疲れになられました?」

 やはり休ませるべきか、と顔を覗き込むアイラに、ルイは慌てて大丈夫だと手を振る。

「おいしそうだから、お腹空いちゃって」

「食欲があるのは良い事ですわ。ですけれど、無理はしないで下さいね? 私とカイト様が泣きますよ」

「……カイトさん泣くかなぁ」

 ちょっと見てみたいぞ、とルイが笑えば、アイラももちろん笑顔になる。最近訪れた、ちょっとした幸せだった。

「あいつを泣かせるなら簡単ですよ、ルイ様、嫌いって言ってみて下さい」

「ええ、それはちょっと酷ですわ」

 デュオの発言に、アイラが少し苦笑いしながらそう続ければ、ルイは少し困った顔をする。

「それは言えないです、カイトさん好きですもん」

「お、大胆」

 デュオが面白そうに笑う。そこで、バサ、と何かが落ちる音。

 三人が驚いて音のしたほうを見れば。

「あ、カイトさんお帰りなさい」

「おーカイト、早かったな。無事に会議は終わったか?」

「カイト様、わかりやすすぎます。その落とした書類、ちゃんと拾って下さいませ」

 にやりと笑って鍋をかき混ぜながら、手伝いをする気がないのかアイラは呆れの言葉を口にする。その口調にはからかいが含まれていて、決してアイラが冷たい態度というわけではないのがわかった。

 書類は対して散らばったわけではない為、さっと拾い集めカイトが立ち上がれば、ぱたぱたと走り寄ったのはルイ。

「ご飯もう少しなんです」

「ええ、楽しみにしています」

 ふわりと微笑んでルイの頭を撫でるカイトの表情は幸せそのもので、アイラとデュオは顔を見合わせて笑った。


「それで? 会議はどうだった?」

「もちろん滞りなく。優秀な騎士達だしね」

 そうか、ならよかった、とデュオがちらりと目を向けた先には、数人の野営地にテントを張る騎士の姿。

 野営地に選ばれたのは、騎士が巡礼や、光の民が地方の加護を受けに行く事が多いため作られた広めの空間。周囲に結界石が用意されていて、この地だけは闇の民も不可侵な公園程の地。

 小さなものだが、小屋が一つ、その裏に小さな湖があるそこは、休息をとるには十分すぎる場所。このような場所がいくつかあるというは、頻繁に王都と周囲の町の行き来があるという証拠なのだろう。

 小屋で休むのはルイとアイラ。それに、小屋の出口と中に一人ずつ交代で、デュオとカイトが休む事になっていた。他の騎士は簡易のテントになるので、彼らは自分達が休むテントを準備しているのだ。

「丸い……」

「珍しいですか?」

 カイトとデュオが話す横で、視線の先にそのテントを捕らえたルイが不思議そうに首を傾げるのでアイラは声をかけた。

 テントは、ルイが想像した三角のものではなく、丸い円形で。

「なんだっけ、ゲル? みたい」

「ルイ様の世界ではそう呼びますの? あれが通常のテントですわ」

「楽しそう。組むの手伝ってみたいな」

「あら、大変ですのよ」

 こうしてルイがいろいろな事に興味を示すのは喜ばしいことだと、会話を終えたカイトも嬉しそうに微笑んだ。もちろん、組み立てを手伝わせたりはカイトはしないだろうが。



 食事を終えたルイは、アイラと小屋の後ろの湖で簡単に水浴びをした。お風呂に入れないだろうと覚悟していたルイは喜んでそれを受け入れたのだが、問題は湖の周囲には小屋くらいしか隠してくれるものがない事。

 一部は森の木々が隠してくれているのだけれど、それではいけないとのアイラの言葉で見張りについたのはやはりというかカイトとデュオ。もちろん二人はアイラにきつく後ろを振り向くなと言われた後で。

 ルイはカイトを信頼しきっているのか、特に何も言わずにアイラに続いて水浴びをしていたのだけれど、その信頼のせいなのか。


「この小屋はベッド二つなんですね。でも、足りないなぁ」

 小屋で休むのは、二人と見張りが交代で一人、計三人。ベッドは二つ。それに気づいたルイの一言に、カイトは顔を赤くした。

「カイトさん、私と寝ます?」

「……は!?」

 素っ頓狂な声を上げたのはアイラとデュオ。

 カイトは目を見開いた後、何かを思い出したように真っ赤な顔で俯いた。

「デュオさんはアイラさんと? あ、ほら、最初の日、暖かかったです。あの時はびっくりしたけど別に今なら……」

「る、ルイさん! あの時は、その! と言うか私が今はちょっと……っ!」

「カイト様!? どういうことですの!?」

「カイト、おま、手を出してたのか!?」

「ち、違う! 誤解で! 俺は別にっ!!」


 うろたえるカイトに、詰め寄る二人。ルイは一人だけぽかんと呟く。

「あれ、カイトさんって自分の事俺って言うんだ」

 と。


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