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テンプレを流れる。

散らかった部屋で、電気もつけずに深夜アニメを眺める。


足元には脱ぎ捨てた服。

ゴミ箱には、カップラーメンの容器とコンビニ弁当の空き容器が溢れている。


かろうじて生きているが生活はしていない。


「いいな、あんな世界。」


主人公はずっと受け身。

目標もなくただ周りに流されている。

世界がトラブルと運命を運んでくる。

努力をせず、与えられた力で難なく解決。

何を言ってもすぐに照れるヒロイン。


「まるで主人公のためにあるような世界だ。……こいつら、ちゃんと生きてきたのか?」

『──────

 ナーロッパに転生しますか?

         ──────』

▶︎はい

・いいえ


見慣れた天井だが自室ではない。

なろう系のアニメで幾度となく描写された木造の天井。やけに既視感のある造形。生活感のない典型的な部屋。ここはこの世界での俺の自宅か?


姿見には、これまた典型的な美少年が映っている。

整った顔立ち、何故か割れている腹筋。筋トレせずに得られる見栄えの良い筋肉。オッドアイ。全部盛りだった。


「……夢じゃねーのかよ」


だんだんと記憶が蘇る。


「ああ、そういえば──」


不摂生が祟って自室で倒れたはずだ。

薄れゆく意識の中、謎の選択画面が出てきた。


▶︎はい


そこで意識が途切れた。


ここが本当にナーロッパなら。


「ステータ……」


轟音を立て勢いよく扉が弾けた。


「喜べ景!!幼なじみで美少女の許嫁!アルネちゃんが起こしに来てやったぞー!!」


サラリと長い金髪に青い瞳。

整った顔立ちと発育の暴力。


やはり来たか美少女。

しかも全部盛り!!

説明口調のセリフ!!

俺はわかっているぞ。

何故か惚れているんだろ。


「って、なんだもう起きてたの。早く来なさい。朝ごはんできてるから。」


当たり前のように吹っ飛ぶ扉、南無三。


机に用意されていたのはパンとシチュー、水だ。


「食事までテンプレかよ……」


「ん?なんか言った?」


「ううん。なんでもないよ。」


「?」


食事をしながら思い返してみる。

やはりあった。転生前とは別の“この身体の”記憶。


名前は田中景。……この見た目に合わないだろ。

年齢は十五。まあそんなもんか。

この家は王都の外れの広大な森の一角に建っているらしい。

えーっと、目の前の美少女は幼なじみのアルネ。親同士の仲が良く幼い頃から一緒に育つ。

俺の親は……わかってた。どうせそんなもんだと思ってた。やはり賢者だ、もう驚くもんか。


食事を片付け、とりあえず庭に出る。


目が覚めてからの展開、そしてこの体に刻まれた記憶通りなら、ここは間違いなく俺が主人公のナーロッパだ。


なら、きっとあれができる。


「景!!景!!助けて!!」


森の奥からアルネの叫び声が聞こえる。

ただ事じゃない。急いで声の方に走る。


「アルネ!!アルネ!!大丈夫かー!!ひっ」


ドラゴンだ。光沢のある緑の鱗に包まれた巨大な体。鋭い鉤爪と牙。睨むだけで獲物を殺せそうなほどの眼光。


アルネは血を流して倒れている騎士を庇いながら、必死に剣を振っている。

足を震わせ、泣きながら俺に助けを求めている。


「景……けい……たす……たすけ」


「ギャァァァァァァァァオ!!!」


体が冷える。全身の毛穴が開いたように感じ、悪い汗が噴き出る。初めて感じる被食者の恐怖。今すぐ逃げ出してしまいたい。小説、アニメ、ゲーム、映画で見る娯楽としての敵じゃない。本物の捕食者。圧倒的上位存在。


俺の知ってる物語の登場人物はこんな化け物を前にしても恐怖しない。

……なぜだ。どうしてだ。なんで怖くないんだ。

怖い。怖い。怖い。


ごめん、ごめんアルネ。俺は主人公のようには───


「けい……にげて……」


「っ!!」


……俺はバカか!!!!


女の子が必死に戦っているのに。

自分の恐怖を押し殺して俺に逃げろと言ってるのに。

俺は……彼女を見捨てて逃げるのか?

俺が憧れた物語の主人公は、こんな選択をするのか?


……やることはわかっているだろ景。命に変えても守ってみせろ!


この身体に全神経を集中させろ。

この身体には、この世界で生きた十五年の“俺”が刻まれている。覚えているはずだ。魔法を!!


ドラゴンに向けて手をかざし、叫ぶ。


「頼むっ!!なんか出ろぉぉぉっ!!!!」

ここまで読んでいただいてありがとうございます。


よければコメントやアドバイス、誤字の指摘など、評価や反応をいただけると泣いて喜びます。

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