↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/36

35.異世界に行ってしまった、あの子

5月22日の午後16時過ぎ、1台のGSX400インパルスが甘野芣婭が通っていた高校の近くに停車し、校門を潜る生徒達に視線を向けた。


数秒後にラピスブルーに染められた少し全体が長めの髪を靡かせ、色白の肌に透き通った鼻、横長の色素の薄い茶色の瞳の男がインパルスの隣にCBX400Fが停車させる。


「ねぇ、あの人カッコイイね」


「彼女の事を迎えに来たのかなぁ。あんなイケメンの彼氏が居る子が羨ましい!」


あの中に居る筈のない甘野芣婭の姿を視線だけで探し、女子生徒の視線を引いている事にも気が付いていない。


シルバー系のアッシュカラーに染められた短髪はセットされ、吊り上がった眉毛に垂れ目、右耳にだけピアスがはめられ、拡張さてたピアスが一際(ひときわ)目立ち、胸元に光るシルバーアクセサリーは、元カノである甘野芣婭がプレゼントしたものだ。


こんな所に来たって意味がない事は三浦翔太朗(みうらしょうたろう)は分かっていた、甘野芣婭がいない事だって分かっていた。


【甘野夫妻殺人事件】は世間を騒がしている事件となり、殺人容疑がかけられている甘野芣婭は行方を晦(くら)ましてから1週間が経ち、それは長男の甘野冬馬も同様。


人々が甘野芣婭を疑う中、三浦翔平と曾田透雅(そのだとうが)等は疑わずに甘野芣婭の行方を追っていたのだ。


「うちの高校に殺人鬼がいたって、普通にやばくない?」


「それって、3組の甘野さんの事?あの子、男子からの人気もあって、ギャル達と一緒に居た子だよね。娘があんな派手だと、母親も叩きたくなるんじゃない?」


「ギャハハッ!喋り方とかも、馬鹿丸出しみたいな感じだったしねぇ」


いかにも真面目な女子生徒の会話を聞こえていた三浦翔太朗は、女子生徒に近付こうとした時、すぐに隣にいた曾田透雅が止めに入る。


「やめろ、翔太朗」


「アイツ等、好き勝手に芣婭の悪口言ってんだぞ。あんなでたらめな事を世間が信じてるなんてよ、おかしいだろ?」


「お前が怒る気持ちも分かる、だけど今日の目的は違うだろ?菜穂ちゃんに会いに来たんだろ」


「…、悪い」


「良いって、俺が菜穂ちゃんを呼んで来てもらうように聞いてくるわ」


そう言って、曾田透雅は自分達に視線を向けていたギャル達に声をかけに行く。


「どこにいるんだよ、芣婭…」


ズボンのポケットからスマホを取り出し、ライブラリに残っている甘野芣婭とのツーショット写真に視線を落とす。


三浦翔太朗は甘野芣婭の事を別れて半年が経つにも関わらず、今でもあの頃と同じように甘野芣婭の事を愛していた。


***


半年前、甘野芣婭が16歳、三浦翔太朗が18歳の時、2人が別れてしまった原因は、甘野冬馬と河邉菜穂が関わっていた。


三浦翔太朗の部屋から女が出て来たと甘野芣婭に写真を送った事で起きた喧嘩である。


甘野芣婭と河邉菜穂の2人に喫茶店に呼び出され、三浦翔太朗は甘野芣婭に写真を見せながら問い詰められていた。


「翔ちゃん、この日って透雅君達とツーリングに行くって言ってたよね?なんで、女の子が部屋から出て来たの?」


三浦翔太朗は写真に写っている女に見覚えがなく、その日は曾田透雅達とツーリングに出ており、帰って来たのは早朝だったのだ。


今にも泣きそうな顔をして写真を見せる甘野芣婭の姿は、三浦翔太朗の心臓をキュッと締め付ける。


「芣婭、その写真に写ってる女は俺は知らない。この日は本当に透雅達とツーリングに行ってた。なんなら、今から透雅を今からここに呼ぶよ」


すぐにスマホを操作した三浦翔太朗は曾田透雅に電話をし、数分後にカランカランッとベルが店内に鳴り響き、特攻服を着た曾田透雅が息を切らして店内に入って来る。


「ちょっ、マジで何事?」


「悪い、透雅。芣婭、さっきの写真を透雅にも見せてくれ」


「うん」


三浦翔太朗の隣の席に腰を下ろした曾田透雅に、甘野芣婭は三浦翔太朗の部屋から女が出て来た写真を見せると、河邉菜穂は苛々しながら言葉を吐く。


「この日って、ツーリングに行ってたんですよね?なのに、どうして翔太朗君の部屋から女が出て来るの?どう考えてもおかしくない?」


「いや、俺達はこの女の事を知らないよ。それに、翔太朗も言ってたと思うけど、その日は本当にチームの奴等とツーリングに行ってたんだ。ほら、これがその時撮った写真」


曾田透雅はそう言って、甘野芣婭と河邉菜穂の2人に夜景をバックにた写真の中に三浦翔太朗が写っており、時刻も見ると謎の女が部屋から出て来ている時と同じ時間台だった。


「芣婭ちゃん、翔太朗は浮気なんかしてないよ。コイツは芣婭ちゃんの事が本気で好きなんだ。口下手だし、絶対愛情表現とかしてないと思うけど、俺等の前ではかなり惚気てる」


「え?」


「おい、透雅⁉何言い出すんだよ」


きょとんとしている甘野芣婭を見て、三浦翔太朗は顔を真っ赤に染めて曾田透雅を睨みつける。


「翔太朗、ちゃんと芣婭ちゃんの気持ちを言った方が良い。恥ずかしがってる場合じゃねーよ、この状況。お前さ、集会にも芣婭ちゃんを連れて来たのは1回だけだろ?暴走の時とかも、芣婭ちゃんは行きたがってたのに、連れて来なかっただろ?そう言う時、ちゃんと理由を言ったのか?」


「…、言ってねぇ」


「はぁ…、だと思った」


三浦翔太朗の反応を見た曾田透雅は、深い溜息を吐きながら甘野芣婭と河邉菜穂の2人の顔を交互に見つめた。


この当時、三浦翔太朗と曾田透雅は黒龍(こくりゅう)と言う暴走族に入っており、族に入っている仲間同士が集まる集会や暴走に、自分の彼女を連れて来る仲間は何人か居た。


だが、三浦翔太朗は甘野芣婭と付き合いたての時にだけ、集会に連れて行っただけである。


甘野芣婭は何故、彼女である自分を集会にも暴走にも連れてってくれないのかと悩んでおり、何故なら三浦翔太朗は本人が気付いてないだけで、かなり女子からモテていたからだ。


彼に近付こうと勝手に集会に来て、三浦翔太朗にちょっかいをかけていると河邉菜穂から聞いていて、不安病の甘野芣婭は三浦翔太朗の側にいたかった。


『ねぇ、翔ちゃん。今度の集会、芣婭も行きたい』


『あ?そんなのダメに決まってんだろ、あんな所に芣婭を連れてくわけねーだろ』


『な、なんで?芣婭は翔ちゃんの彼女でしょ?なんで、だめなの?』


いつものように断られた甘野芣婭は意を決して、ずっと思っていた事を三浦翔太朗に尋ねてみる。


三浦翔太朗は甘野芣婭から視線を逸らし、恥ずかして照れた顔を見せないように小さな声で呟いた。


『…、お前に色目使って来る男共が増えるからに決まってんだろ』


『え?なんて言ったの?よく聞こえなかった』


『なっ、なんでもねーよっ。とにかく、集会にも暴走にも連れてかねーから。今度の休みは、芣婭が行きたがってた所に連れてってやるから』


『お休み取れたんだっ、嬉しい。ありがと、翔ちゃん大好きだよ』


『そ、そうかよ』


『翔ちゃんは?芣婭の事、好き?』


『言わなくても分かるだろ、付き合ってんだから』


そう聞かれた三浦翔太朗は素直に「好き」と答える事が出来ず、甘野芣婭の表情が曇って行く姿を見て心が痛む。


三浦翔太朗は甘野芣婭が思っている以上に、三浦翔太朗は甘野芣婭の事を好いていたし、寧ろ甘野芣婭が高

校を卒業したら結婚したいと思っていた。


甘野芣婭が18歳になるまでは絶対に手を出さないと決

め、その事は本人も言ってあり、甘野芣婭も三浦翔太朗が自分の事を大事にしてくれてると喜んでいたのだが。


彼女の中で三浦翔太朗が無理しているんじゃないか、我慢できなくなって他の女の所に行ってしまうんじゃないかと不安にも思っていた所に、河邉菜穂にあの写真を見せられてしまう。


「芣婭ちゃん、翔太朗はさ?芣婭ちゃんと結婚したいんだって」


「結婚?」


「おい、透雅!!!」


「お前が言わないなら、代わりに俺が言うよ。コイツ、集会や暴走に連れて行かないのは芣婭ちゃんを他の男に見せたくないからなんだよ。コイツ、1回だけ芣婭ちゃんを連れてった時に、チームの奴等が芣婭ちゃんの事見てて、気に入らなかったから」


「そうなの?翔ちゃん」


曾田透雅の話を聞いていた甘野芣婭は目の前にいる三浦翔太朗に視線を向けると、顔を真っ赤に染めた三浦翔太朗がいる。


「あ、翔ちゃん顔が真っ赤っ、透雅君が言ってる事は本当?芣婭が見られるのが気に入らなかったの?」


「お前を送って行った後、事細かく芣婭の事を聞かれて…、俺の女なのに連絡先とか聞いてきてよ。お前は可愛いから、他の男の目を引くのが気に入らねぇから」


不貞腐れたように言葉を吐いた三浦翔太朗は、チラッと甘野芣婭を横目で見ると、今まで見た事がないくらいの可愛い顔をしていた。


頬を桃のようにピンク色の染め、ピンクレッドの瞳が涙でキラキラと光り、口元を手で隠して可愛い反応をする姿を見て、三浦翔太朗の心がトクンッと跳ね上がる。


【俺が気持ちを言っただけで、お前はそんな可愛い顔をしてくれるのか?こんな顔が見れるなら、もっと早く言えば良かった。芣婭の事を不安にさせる事もなかったよな】


そう思った三浦翔太朗はちゃんと気持ちを伝えようとした時、自分達が座っている席のテーブルを誰かに強く叩かれた。


ドンッ!!!


「君、ここで何してるの」


「え、お兄ちゃん?どうして、ここに?」


テーブルを叩いて来たのは息を切らした甘野冬馬で、三浦翔太朗と曾田透雅をキッと睨みつける。


その表情は実の兄が妹を心配して怒っていると言うよりは、好きな女に他の男が近寄って気に入らないと言った憎悪の表情だった。


三浦翔太朗は甘野冬馬のこういった表情を初めて見た訳ではない、自分と会った時は必ず嫌悪感を現した表情をする。


甘野芣婭と三浦翔太朗が2人で出かけている時も、何故か甘野冬馬と鉢合わせる事が多く、そう言う時は強制的に甘野芣婭を連れて帰ってしまう。


「お前が泣きそうな顔して、菜穂ちゃんと出掛けて行ったから心配でな。それで?お前、この女とはどういう関係?」


甘野冬馬はスマホの画面を三浦翔太朗と曾田透雅に見せ、2人の視線が画面に釘付けになってしまう。


何故なら、三浦翔太朗と見知らぬ女がキスをしている写真を見せられたからだ。


当然、三浦翔太朗と曾田透雅は見覚えがないし、写真に写っている女の事を見た事もないし、会った事もない。


甘野冬馬はその謎の写真を甘野芣婭に見せ、河邉菜穂は三浦翔太朗と曾田透雅を見て不敵な笑みを浮かべる。


河邉菜穂の表情を見て何か嫌な予感がした三浦翔太朗が口を開いた時、さきに言葉を発したのは甘野冬馬だった。


「芣婭、この男は浮気してるよ」


「え?この写真は?お兄ちゃんが撮ったの?」


「家庭教師のバイトの帰りにな、見た事がある顔だなって思ってみてたら…な?」


「2人して芣婭の事を騙そうと嘘つくなんて、本当に最低!」


甘野冬馬と河邉菜穂の2人が結託して、三浦翔太朗と甘野芣婭を別れさせようとしている事に気が付いた曾田透雅が口を開く。


「ちょっと待って、その写真はいつ撮ったものですか?お兄さん。俺、翔太朗と同じところで鳶職してますから、何日の何時に撮ったものか見せて下さい。夜に撮られていたものだとしても、俺といる時の方が多いですけど」


「見せた所で、君が上手いように言いくるめるんだろ?芣婭と別れたくないのに、浮気をする意味が分からないなぁ」


曾田透雅に言い返した甘野冬馬は、三浦翔太朗の事を馬鹿にするような視線を送ってきた。


三浦翔太朗はこの事態を引き起こした犯人が、甘野斗真と河邉菜穂の2人だと分かり、三浦翔太朗は怒りを露わにする。


「だから、俺はそんな女知らねーって!でたらめな画像を作ってんじゃねーぞ⁉」


「ほら、芣婭。嘘をついてる人間は指摘をされたら怒りを露わにする。今までの男達もそうだっただろ?お兄ちゃんが言った事、今まで間違ってた事なかっただろ?」


「芣婭ちゃん、マジで翔太朗は浮気してないよっ。コイツ、芣婭ちゃんにべた惚れで他の女に興味なんかないんだ」


甘野冬馬と曾田透雅の2人が甘野芣婭に声をかけている中、三浦翔太朗の目に映った甘野芣婭は顔色が真っ青で、嘘の事実を聞かされて絶望している表情だった。


【そうだった、芣婭は歴代の彼氏達が浮気してきたって言ってた。自分が好きになる人に裏切られて来たって、俺と付き合うのも迷っていたくらいだった。コイツ等の側に居たら、芣婭の心が壊れる】


その表情を見た時、三浦翔太朗は甘野芣婭の恋愛に対してトラウマを持っている事を思い出し、彼女の震えている手に触れようとする。


だが、甘野冬馬はそんな事を許す訳がなく、三浦翔太朗の手を叩く。


パシンッ!!!


「汚い手で芣婭に触るな。帰ろう、芣婭」


そう言って、甘野冬馬が甘野芣婭の腕を掴んで連れ帰りそうになり、三浦翔太朗は胸騒ぎがして腰を上げて甘野芣婭達の後を追い掛けた。


「ちょっと待ってくれ!ちゃんと話をしよう、俺が好きなのはお前だけなんだよっ」


「お兄ちゃん、待ってっ、翔ちゃんが…」


「ダメだ、絶対に2人で話し合いなんかさせない。芣婭、今回もお前は傷つけられたんだぞ?まだ、アイツの事を信じるつもりなのか」


「それはそうだけど…、あんな翔ちゃんは初めて見たからっ。お兄ちゃん、本当にさっきの写真…」


「冬馬さんが嘘ついてるって言いたの?芣婭」


甘野芣婭の言葉を聞いた河邉菜穂は、怖い顔して甘野芣婭に言葉を吐く。


そんな表情を見た事がなかった甘野芣婭は、河邉菜穂の顔を凝視してしまい、何も言い返す事が出来なかった。


「芣婭は騙されやすいんだよ、その度に助けてくれたのは冬馬さんでしょ?」


「そ、そうだけど…、翔ちゃんが」


「芣婭!絶対に、アイツとは別れた方が良いよ!あんな浮気野郎はっ、私は芣婭が傷付く姿は見たくないよ」


「菜穂…、分かったよ」


「芣婭っ!!!」


ガシッ!!!


喫茶店を出た甘野芣婭達の後を追い掛けてきた三浦翔太朗は、息を切らしたまま甘野芣婭の腕を掴む。


感情を露わにしない三浦翔太朗が人目を気にしないで甘野芣婭の名前を呼び、彼女の腕を決して離さないように力強く掴んだ。


「ちゃんと話をさせてくれ、俺がもっと芣婭に好きって言っていれば、不安になる事も信じれなくなったりしなかったんだよな。俺は、芣婭の事を…」


「翔ちゃん、もうこんな思いはしたくないよ」


「芣婭?」


「芣婭、翔ちゃんと別れる」


「おいおいっ、別れるって本気なのか?」


甘野芣婭は泣きそうな顔をしながら頷くと、ショックを受けた三浦翔太朗は甘野芣婭の腕を掴んでいた手を離す。


「翔ちゃんの事、大好きだよ。けどさ、疲れちゃった。ごめんね、翔ちゃん。今までわがまま言って」


「わがままって…、好きかどうか聞いてきただけだろ?俺は別れる気なんてない、絶対に別れねーから」


「翔ちゃん…」


「俺は本当に、芣婭の事が好きなんだよっ。芣婭、別れるなんて言わないでくれよ」


「じゃあ、何でっ、好きなら芣婭の事を不安にさせたの?翔ちゃんにも話したのに、不安にさせないって言ったのにっ」


そう言いながら甘野芣婭はポロポロと泣き出し、その言葉を聞いて三浦翔太朗は何も言い返せなかった。


甘野芣婭を不安にさせてしまったのは自分で、ちゃん

と愛情表現を出来ていなかったのも自分だってよく分かっていた。


「翔ちゃんは芣婭の王子様じゃなかったんだね」


「っ!!!ふ、芣婭っ」


「翔ちゃん、翔ちゃんの自由を奪っててごめんね。もう、翔ちゃんは自由になって」


「ま、待ってくれっ、芣婭っ」


「芣婭は別れたがってる、だから別れてくれ」


自分達の間に甘野冬馬が割って入り、三浦翔太朗の事を自分が勝ち誇ったようなような視線を向け、甘野芣婭の事を抱き締めている河邉菜穂も同じ表情をしている。


「僕の芣婭に手を出したお前が悪い、芣婭は僕のモノなんだから」


「…は?」


「君と芣婭をもう合わせる気はないから、言っておこうかな。芣婭と彼氏を別れさせてきたのは僕なんだ」


「アンタ、何が目的でそんな事するんだ。血が繋がってる妹に対して、恋愛感情を抱いてるとかじゃないよな」


三浦翔太朗の言葉を聞いた甘野冬馬は、歓喜の感情に満ち溢れた表情を浮かべ、その表情を見た三浦翔太朗は吐き気がした。


【この男は普通じゃない、頭がおかしい。まさか、芣婭の事を本気で好きなのか?】


甘野冬馬は三浦翔太朗が心の中で思っている事が分かったのか、彼の耳元でこう囁く。


「僕は芣婭の事を愛してるよ?半年しか付き合ってないお前と違って、本当に愛してるのは僕だ。結婚したいだ?笑わせるな。誰がお前なんかに、芣婭をやるか」


「テメェ、最初からそのつもりで俺達の前に会わられたのかよ⁉」


そう言って、三浦翔太朗は甘野冬馬の胸倉に掴みかかると、河邉菜穂がスマホを見せながら三浦翔太朗を睨みつける。


「冬馬さんの事を殴ったら、すぐに警察に連絡するわ。呼ばれたくなかったら、冬馬さんの事を放して」


「チッ」


「行こう、芣婭」


甘野冬馬は強引に甘野芣婭の肩を抱いて歩き出してしまい、三浦翔太朗は放心状態のままその場から動けなくなってしまった。


2人の別れが甘野冬馬と河邉菜穂の2人の策略だと知り、三浦翔太朗から事情を聞いた曾田透雅の顔から血の気が引いて行く。


甘野冬馬の異常な執着と愛情が行き過ぎている事、別れさせ屋のような行為を河邉菜穂は一緒にやっているのか理解不能である。


だが、甘野冬馬は本気で甘野芣婭と三浦翔太朗に会わせないように行動を起こす。


その日以降、甘野芣婭に連絡しても返事は来ず、電話にも出てくれなく、学校の前で待ち伏せをしようとしても、甘野冬馬が先に来ている事が多く、甘野芣婭と

話す事も会う事も出来なかった。


半年もの長い間、甘野冬馬に妨害され話し合いも出来ていない時に、例の【甘野夫妻殺人事件】が起きてしまったのだ。


***


半年前の事を思い出していると、曾田透雅が三浦翔太朗の元に戻って来る姿見え、彼に声をかける。


「透雅、あの女は?来るって?」


「翔太朗、場所を移そう。ここではちょっと」


「…、分かった」


曾田透雅にそう言われて三浦翔太朗はインパルスに乗り込み、甘野芣婭が通っていた高校から離れ、半年前に別れ話をした喫茶店に向かった。


喫茶店に着き店内に入ると、同じ黒龍に入っていた友達の2人が先に座っており、三浦翔太朗と曾田透雅の姿を見て手招きをする。


「おーい、こっちこっち!」


派手な緑色に染めてリーゼント風に髪をセットした下村喜一(しもむらきいち)とキャップを常に被っている水島浩平(みずしまこうへい)が座っている席に向かう。


「翔太朗!芣婭ちゃんと会えたか⁉」


「喜一、透雅に場所変えようって言われて来たんだよ」


「透雅が?何でだよ、翔太朗は愛しの芣婭ちゃんに会いに行ったのによ」


「菜穂ちゃんも行方不明になってるって、高校の前で言えるか?」


「「はぁ⁉」」


曾田透雅の言葉を聞いた三浦翔太朗と下村喜一の声が重なり、曾田透雅は慌てて2人の口を手で塞ぐ。


「静かにしろっての!さっき声を掛けた女の子に聞いたら、芣婭ちゃんが行方不明になった日と同じ日にいなくなってるって」


「菜穂ちゃんも?けどよ、透雅。菜穂ちゃんの事はニュースになってなくね?本当に行方不明になってんの?」


「先輩がさ、1週間くらい前に現場が芣婭ちゃん家の近くでさ?夜の19時頃だったかな、その時に菜穂ちゃんが芣婭ちゃん家に入ってくのを見たって」


水島浩平の言葉を聞いた三浦翔太朗達は一斉に、水島浩平の方に視線を向ける。


「おいおい、それって事件が起きた日と同じ日か?15日か?」


「うん、先輩に聞いたらよ?そうだって言ってたし。芣婭ちゃんが帰って来た姿は見かけてなくて、代わりに菜穂ちゃんが家に入ってく姿を見たってさ?おかしいよな?」


下村喜一と水島浩平の会話を聞いていた三浦翔太朗は、おもむろにスマホを取り出して甘野芣婭に通話を掛けた。


プルルルルッ、プルルルルッ、プルルルルッ。


曾田透雅達は三浦翔太朗が甘野芣婭に電話をかけえる姿を見るのは、日常化し見慣れていたのだが今日は様子が違う事に気付く。


「おい、翔太朗?どうかした?芣婭ちゃんは電話に出なかっ…」


『も、もしもし…』


三浦翔太朗に近付いて曾田透雅が声を掛けた瞬間、スマホから甘野芣婭が聞こえてきたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。