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30.異世界で、大捜査編開幕しまーす⑥

魔界 ダンタリオン邸


ダンタリオンとレイラの2人は、食堂で対面に座って食事を楽しんでいた。


目の前に並べられている食事達は人間界の世界で見られる物と同じで、ゆで卵と生ハムが乗ったシーザーサラダ、冷静ポタージュスープ、フォアグラが乗ったステーキ。


デザートには、愛しのレイラが好きなキルシュ香るフォレノワールキルシュトルテだ。


コポポポ…。


執事を服を悪魔が2人の空のワイングラスにワインを注ぐ中、テーブルの中央で浮いている鏡には甘野芣婭達の様子が映し出されている。


「あの獣人、芣婭の言う事も聞かずに肩を噛みやがったな」


「妹ちゃんの反応が可愛くて、我慢できなくなっちゃのかしら。貴方なら、その気持ちは分かるんじゃない?愛しのダンタリオン?」


「魔性の女(エンチャトレス)に魅入られた者は、極上の果実を齧(かじ)らずにはいられなくなる。悪魔に限らず、様々な種族の男や女から欲しがられる存在だ」


「あの子を見ると、人間だった頃を思い出しちゃうな。ダンタリオンと初めて出会った時の事とか」


レイラはそう言いながら、注がれたワイングラスを手に取ると、ダンタリオンも同じようにワイングラスを手に取って互いのグラスを軽くぶつけた。


チンッ。


「「乾杯」」


「ダンタリオン様、バフォメット様がお越しです」


「夫婦水入らずの時間を楽しんでいる時に…」


「この間の集まりの時、私は顔を合わしていなかったよね?今日は3人で、食事を楽しましょうよ」


ダンタリオンと執事の会話を聞いていたレイラは、穏やかな表情を浮かべて会話に入って来る。


短い溜息を吐いた後、バフォメットは答えを見越していたかのように食堂に姿を現し、ダンタリオンの隣の椅子に腰を下ろす。


「やぁ、レイラ。本来な君に跪いて、君の手の甲に口付けをするのが悪魔としての礼儀だけど…。そんな事をしたら、ダンタリオンに首を跳ねられちゃうからね」


「ふふ、貴方は私よりもダンタリオンの方が好きだし、ダンタリオンに良くしてくれたら十分」


「おやおや、女王にはお見通しのようだ。では、お言葉に甘えて」


バフォメットはダンタリオンの手を取ると、甲に軽く口付けをしてニコッと笑う。


「お前、レイラの妹に無茶な試験出しやがって。どういうつもりだ?バフォメット」


「ラマシュトゥや他の悪魔達に、俺が最初にお姫様の事を認めたって証明する為さ。女王の時だって、悪魔達に受け入れらるのに時間が掛かっただろ?」


「下級の悪魔共の話だろ、お前の言ってる話は」


「君の支配下の4席に座ってる俺を含む悪魔は、女王に魔性の女(エンチャトレス)を使って貰った。俺達は温情を返す為に、レイラに忠義を尽くしてる。お姫様の場合は違うでしょ?」


「レイラの妹は俺等、悪魔に魔性の女(エンチャトレス)を使っていないから信用されなくて仕方がない。お前はそう言いたいんだな、バフォメット」


ダンタリオンの言葉を聞いたバフォメットは、頷きながら注がれたワインを口に運ぶ。


「バフォメット、自分で気付いてないみたいだけど。貴方、妹ちゃんの事を既に気に入ってるじゃない」


「俺がか?女王」


「他にも何か目的があるけど、根本的な所で妹ちゃんが関係しているのでしょう?貴方、私よりも妹ちゃんを気に入ってる」


「女王の目から見て、そう見えるなら間違いないんだろうね。あの子の反応や発言は可愛いから」


「ダンタリオンの所に来たのも、人間界で起きている事をダンタリオンの耳に入れておきたかったからでしょ?」


レイラに自分の考えを読まれていた事に何も反論できず、バフォメットは眉を下げて頬を指で軽く掻いた。


その様子を見ていたレイラは微笑ましそうに眺め、視線に気が付いたバフォメットはばつの悪そうな表情を浮かべる事しか出来ない。


「あんまり、俺の事を虐めないでよ女王様」


「虐めてるつもりはないよ?バフォメットの事は大好きだもの。あ、恋愛的な意味じゃないよ?お友達としてね?」


レイラとバフォメットの会話を聞いていたダンタリオンは、眉間に深い皺を寄せながら口を開く。


「おい、レイラ。他の男に良い顔するな」


「あ、怒られちゃった。ごめんね?ダンタリオン」


「バフォメット、俺を怒らせたくなかったら要件を言え」


「はいはい。人間界で悪魔の血が取引に使われてるんだけど、ダンタリオンの耳に入って来てる?」


「人間界で?」


ダンタリオンの反応を見たバフォメットは、人間界で作られている薬の事をダンタリオンとレイラの2人に話す。


「先程、ケロべロスの2匹から報告が上がっていたが。人間と取引してる悪魔だが、アスタロトの配下の悪魔だろ。下級の悪魔が人間界で暴れているのも、アスタロトの指示に違いない」


「最近さ、アスタロトが魔界にいないらしくてね。その理由は何だと思う?」


「…、奴が芣婭の事を狙うのは分かり切ってる。人間と取引をしているか、人間と契約したかのどちらかだろうな。奴が人間の下につくとは思えねーけど。お前の事だ、自分の部下の悪魔を向かわせてるんだろ」


「さてと、俺はこれで失礼するよ」


ワインを飲み干したバフォメットは椅子から腰を上げ、ハット帽を被り直してからダンタリオンの方に視線を向ける。


「ダンタリオン、この際だから自分の配下の悪魔達に監視をつけた方が良い。俺でも管理出来ない範囲があるからね」


「お前がそう言う時は、厄介事が起きる時だ。近々、バフォメット達を含めた4人だけで集りを開こう」


「晩餐会を楽しみにしておくよ。2人の時間を邪魔して悪かったね」


そう言って、バフォメットはダンタリオンとレイラに頭を軽く下げてから食堂を後にする。


レイラの視線に気が付いたダンタリオンは立ち上がり、レイラの隣の席に腰を下ろして彼女の肩を抱く。


「お前が心配する事は何もない。だから、不安げな顔をするな」


「昔の事を思い出しちゃっただけなの、貴方とアスタロトが戦争していた時の事」


「レイラ、あの戦争はお前の所為じゃない。悪魔は強欲な生き物だ、俺も強欲な部分はある。お前を人でなくしてまで、手に入れたんだからな」


「ふふっ、そうだった。初めて出会った時も、物凄く強引だった」


「お前が笑顔が似合う、俺の隣で笑っていればいい」


レイラの頭の後ろに手を回し、愛おしそうに髪を撫でた後にレイラの唇に唇を重ねた。

 

***


甘野芣婭 (17歳)


ガゼルっちに、腕を噛んで血を吸って貰おうと思ってたのに。


まさか肩を噛まれるとは思ってなかったんですけど⁉


噛まれた時、むちゃくちゃ痛いの覚悟してたけど、全然痛くなくて…。


芣婭とガゼルっちの周りに咲いてるピンク色の薔薇、その薔薇から香る甘い匂いを嗅ぐ度に、頭がボーっとしてくる。


ガゼルっちがチュッと音をたてて血を吸うから、この行為がやらしいものに思えて、これ以上は本当にヤバイと思った。


こんな所、ギルベルト君に見られたら、別れられてもおかしくない!!!


「ガゼルっちっ、もうっ、だめ!!!は、離れて…」

ガゼルっちの体を引き剝がす為に押しても力が入らず、されるがままの状態になってしまう。


ジュルルッ。


力強く血を吸い上げられて体がビクッと反応した瞬間、指先が震え出す。


「ちょっ、ガゼルっちっ、強く吸い過ぎっ…、本当にもう、だめだって…」


どうにかして、ガゼルっちの腕の中から逃げようと腰を動かしたが、片手で力強く掴まれ引き寄せられる。


芣婭の事を逃がさないように、離さないように力強く自分の体の方に引き寄せた⁉


頭がボーっとして、視界がぼやけてきた。


これ、ガゼルっちに血を吸われてるから貧血起こしてる?


マジで、本当にヤバイッ。


体の中の血を全部吸われそうな勢いだし、このままだと芣婭の体がもたない!


「ガゼルっち!!!」


「っ⁉」


ガチャンッ!!!


芣婭が大きな声を出した瞬間、ガゼルっちの首にピンクレッド色の石が装飾された黒色の首輪がはめられ、

芣婭の体から引き剥がされた。


ジャキジャキジャキッ!!!


黒い棘が鎖に姿を変えて、ガゼルっちの体に巻き付いて動けないように拘束する。


何が起きたのか分かってないけど、助かったぁぁぁっ!!!


「はぁ、はぁっ…、マジで死ぬ所だった…」


体を起こそうとしても力が入らなくて、全速力で走った後みたいに体が怠い。


全然、力が入らないんだけど、マジでどした?


あー、めちゃくちゃ眠たいんですけどー、今すぐ寝れるんだけども。


「おねえちゃんっ、大丈夫⁉」


「マジで死ぬ5秒前だったけど、へーきぃ。めっちゃ、眠たいんだけ。てか、今ってどんな状況?」


「え、えっと…、ガゼルがおねえちゃんの血?を吸っ

て…、ピンク色の薔薇が現れて…」


ゼパ君に聞いといてなんだけど、まったく話が頭に入ってこなくて草。


パリーンッと何かが割れる音がし、視線を向けるとガゼルっちの体を拘束していた鎖が砕ける音だった事が分かった。


首輪はついたままなのは謎だけど。


「あ、ガゼル!おねぇちゃんに近付いて、何するの⁉乱暴しちゃだめだよ!!!」


「そんな事はしねーよ」


そう言ってガゼルっちは芣婭の腰を掴んで持ち上げ、自分の太ももの上に置かれてしまう。


地面に座らせないようにしてくれたのか分からないけど、ガゼルっちの体があったかいからぽかぽかして気持ちいい。


「悪かった」


「あー、謝ってくれたらいいよ。それより、怪我は?治った?」


「あぁ、見てくれ」


ガゼルっちに促されて右の脇腹部分を見ると、傷口の部分にピンク色の大きな薔薇のタトゥーが彫られているのが見えた。


ギルベルト君と同じように、魔性の女(エンチャトレス)のを受けた人には彫られるシステムなのかな?

「凍てつけ」


ゼパ君が呪文を唱えると、小さな手のひらに一口サイズの氷が形成され、芣婭の口の中に放り込む。


口の中に氷の冷たさが広がり、ほてっていた口の中で氷を転がし、溶け出した冷えた水がカラカラの喉を潤す。


ちょーど喉が渇いてたから、セパ君が氷を作ってくれて助かった。


「おねえちゃん、貧血を起こしてるから水分補給した方が良いと思ってっ」


「ゼパ君、ありがとっ」


「もうっ、ガゼルがおねえちゃんの言う事を聞かないから!ちゃんと反省してよね!」


グイッとゼパ君は体を前のめりにして、ガゼルっちに棘のある言い方をすると、ガゼルっちは慌てて謝り始める。


「ゔっ、わ、悪かったっ」


「本当に悪いと思ってるの⁉」


「悪いと思って…、ゼパ!俺の後ろに来い!」


「え⁉」


ガゼルっちはゼパ君の腕を掴んで自分の方に引き寄せ、背中に隠すと目の前にオレンジ色の魔法陣が現れ、中から出てきたのは見た事があるアイカの頭をしたフルさんだった。


片膝をついて芣婭とゼパ君の事を守ろうと、ガゼルっちの喉から低い唸り声が出る。


「ガルルルッ!!!」


「フルさん?だっけ?バフォさんの部下の…」


「お嬢様、ご無沙汰しております。突然、失礼します」


フルさんは丁寧に芣婭に向かって頭を下げ、警戒しているガゼルっちに視線を向け、敵意がない事を示す。


「ガゼルっち、この人は敵じゃないよ。顔見知りの人…」


「お嬢様、少し失礼致します」


そう言って、フルさんは芣婭に断りを入れてら右手首の脈拍を測り出し、「魔力と血液が不足していますね」と呟いた。


「お嬢様の体調が優れないのは、魔性の女(エンチャトレス)を使った事で魔力が大幅に消費されてしまった事と、血液を使っての治療の代償ですね。無理に動かすのは宜しくないかと」


「魔性の女(エンチャトレス)かなんだか知らないが、芣婭が隊長が悪いのは俺の責任だ」


「でしょうね、貴方の右の脇腹を見たら一目瞭然です。噛まれた部分は肩ですね、こちらの傷を腕に移動させます」


「は?傷を移動させるって、どういう意味だ」


「お嬢様には伴侶の男性がおられます。その男性が肩の噛み痕を見たら、どうなるか分かりますよね」


フルさんとガゼルっちの会話を聞いて答える元気はないが、めちゃくちゃありがたい提案をしてくれた。


マジで、ありがとうございます(合掌)


「お嬢様、失礼致します」


ガゼルっちに噛まれた部分にフルさんが触れると、噛み痕がスッと肩から消えて一瞬で腕に移動し、シャツの首元の血痕も袖部分に移動する。


一瞬の出来事過ぎて、魔法なのか何なのか分からなかったが、多分魔法で胸元の部分も綺麗に治ってるし。


「獣人の貴方、肩ではなく腕を噛んだと説明をして下さい。まもなく、下級の悪魔達がこちらに参ります。

お嬢様の伴侶の男性とケルベロスの2匹も」


「「キイエエエッ!!!」」


フルさんが説明していると、芣婭達の前にさっきも見た化け物達が物置部屋に乗り込んで来た。


本当に来ちゃった⁉って口に出したつもりが、心の中だけで叫んでいたようだ。


マジで元気が出ないし、生理2日目くらいの体の怠さになってきたな…。


「キイエエエッ!!!エッ⁉」


ガシッと向かってきた化け物の頭を鷲掴(わしづか)みにしたガゼルっち本人は、軽く力を入れただけだろうが潰されたトマトのように血肉が飛び散る。


ブシャアアアッ!!!


「芣婭様っ!!!」


シーちゃんの声が聞こえる…、けど目を開けられない。


声も出したいのに出す気力がなくなってしまい、重たくなった瞼に逆らう事が出来ずに、芣婭は目を閉じてしまった。


***


甘野芣婭が意識を失ったと同じタイミングで、シエサが物置に到着し、現れた化け物達を容赦なく斬りつける。


ブンッ、ブシャアアアッ!!!


「「ギイエエエッ!!!」」


シエサに剣で斬られた化け物達は血を噴き出しながら地面に倒れ、シエサは化け物達の体を踏みつけながら急いで甘野芣婭の元に向かう。


ガゼルに抱き支えられている意識のない甘野芣婭の姿を見て、ガゼルの腕を噴き剥がして自分の方に抱き寄せた。


「貴様、芣婭様の腕に噛みついたのか!!!連れ去っておきながら、自分が何をすしたのか分かっているのか⁉」


「お、おねえちゃんっ、あ、あのっ」


怒っているシエサを宥めようとするも、ゼパは何も言葉が思いつかなく口籠る事しか出来ない。


ドコドコドコッ!!!


「見つけたぁ♡」


「「「っ⁉」」」


大きな足音が聞こえ、シエサとガゼル、ゼパの3人は物置の入り口の外に視線を向けると、顔が潰された蜘蛛騎士(スパイダーナイト)の背に乗ったバエルと目が合った。


蜘蛛騎士(スパイダーナイト)の足元には中ぐらいの大きさの蜘蛛達が目を光らせ、バエルの視線の先には甘野芣婭の1人だけ。


バエルが一瞬でシエサの前まで飛んで来て、両端をグッと横に広げて不気味な笑みを浮かべる。


シエサとガゼルの2人はバエルが危険人物だと瞬時に判断し、甘野芣婭に近寄らせないように距離を取り、フルフルは持っていた杖をバエルの前に突き出す。


「貴方がここに居ると言う事は、人間と取引をしていた悪魔は貴方でしたか」


「何で、アンタがここにいんのぉ?フルフル。いつも一緒のバフォメットはいないみたいだけどぉ?アンタ達が別行動するなんて、すっごく珍しくない?」


「貴方が簡単に口にしていい名前ではありません。お宅の所のトップは誰が口にしても良い名前ですが」


「アスタロト様の事を馬鹿にしたか?フルフル」


ジャキンッ。


フルフルの言葉を聞いたバエルは鎌を感情のままに、フルフルに振り下ろすが杖1本で攻撃を受け止める。


キィィンッ!!!


バエルは鎌の持ち手部分についている長めの鎖を振り回して、フルフルの杖に巻き付け、そのままクルッと回ってフルフルの腹に蹴りを入れようとした時。


「切断(アンピュテイション)」


シュンッ!!!


ブシャッ!!!


フルフルが呪文を唱えると、バエルの足に灰色の魔法陣が浮かび上がった瞬間、刃物で切られたように切断され、傷口から勢いよく血が噴き出す。


*切断(アンピュテイション)とは空間魔法の1種で、自分の間合い・視界に入った物体を切断する事が出来る魔法である*


片足を切断されたバエルは体のバランスが取れなくなり、倒れそうになった体を腰から生えている蜘蛛の足を地面に突き刺し、体のバランスを取る。


グサッ。


ボタボタと傷口から血が垂れ落ち、バエルはフルフルの事を強く睨み付けた。


「空間魔法なんか使って、本気で僕の事を殺そうとしてるの?君」


「お嬢様の身の安全の確保をしろと、ボスから命令を受けています。ボスの命令は絶対、私は命令に従っているだけです」


「バフォメットが人間の女を気に入ってるって事か。なら、ますます連れて帰らないと」


切断された部分の傷が修復を始め、傷口から骨と筋肉、皮膚が再生をして行き、バエルの足は元通りに戻ってしまう。


中くらいの大きさの蜘蛛達は、一斉に甘野芣婭の元に向かって走り出すと、灰色の魔法陣が地面に浮かび上がり、中から出てきたのはベロちゃんとコンラットの2人。


「おい、コンラット!足元のうざってー蜘蛛を斬れ!」


「ったく、いきなり注文してくるなってのっ!」


ブンッ!!!


ベロちゃんに言われた通りに、コンラットは地面に着地と同時に剣を振るい、向かって来ている蜘蛛達を斬り倒していく。


「「ギイエエエッ!!!」」


コンラットに斬られた蜘蛛達は血を引き出しながら後方に吹き飛ばされ、顔の潰された蜘蛛騎士(スパイダーナイト)がコンラットに向かって突進する。


ドドドドドドッ!!!


「おい!この馬鹿でかい蜘蛛も斬って良いのか⁉」


「あ⁉良いに決まってんだろうが!!!」


ベロちゃんの言葉を聞いたコンラットは、甘野芣婭にも見せた事がないような悪い笑みを浮かべ、蜘蛛騎士(スパイダーナイト)に剣を向けた。


「え⁉おにいちゃん、あの大きい蜘蛛を斬るつもり⁉そんな事ができるの⁉」


「ゼパ君、団長はあれぐらいのレベルの魔物なら、魔法を使わなくても倒せる」


「へ?」


戦う姿勢を見せたコンラットにゼパだけが驚き、元々コンラットの実力を知っているシエサと直感で判断したガゼルの2人は、静かにコンラットを見つめる。


ドドドドドドッ!!!


「キイエエエエッ!!!」


ブンッ!!!


目の前まで迫った蜘蛛騎士(スパイダーナイト)に向かって力強く剣を振り下ろすと、蜘蛛騎士(スパイダーナイト)の胴体が真っ二つに斬り裂かれ、その光景を見ていたゼパは口を大きく開けたまま動かない。


ブシャアアアッ!!!


胴体を真っ二つに斬られた蜘蛛騎士(スパイダーナイト)の体から噴水のように血が噴き出し、ジャケットを脱いで意識を失っている甘野芣婭にかからないように広げた。


ビシャッ。


「シエサ、芣婭に血はかかってないか?」


「はい、団長がジャケットを広げたので、芣婭様にはかかっていません」


シエサの言葉を聞きながらコンラットが後ろを振り返ると、甘野芣婭の腕の噛み痕を見たベロちゃんが大きな声で叫ぶ。


「芣婭の腕に噛み痕があるじゃねーか!!!テメェ、獣人!芣婭に魔性の女(エンチャトレス)を使ってもらって、怪我を治したんだろ⁉しかも、思いっきり噛んでんじゃねーか!!!傷が残ったら、どうすんだ⁉」


「ゔっ」


「ゔっじゃめねーだろうが!!!」


「ケルベロス様っ、お、落ち着いて下さいっ」


ベロちゃんとガゼルの間にセパが割って入るが、ベロ

ちゃんの怒りが収まる事はなかった。


ブーンッと虫の羽の音が聞こえ、コンラット達は音のする方に視線を向けると、バエルの周りを飛んでいる数20匹の脳虫の姿が視界に入る。


コンラットとガゼルの2人はゼパの前に立ち、こちらに飛んで来そうな脳虫に警戒をし、フルフルは冷静に状況を整理していく。


「アスタロトが飼ってる脳虫が何故、ここに?本人が人間界に持ち出したと言う感じですかね」


「何ぶつぶつ呟いてるんだよ、コイツが持ち出したに決まってんだろ。バエルはアスタロトの配下に居るんぜ?奴の城を自由に行き来が出来るだろ」


「貴方みたいに単純に物事が進んでいたら良いですけど、世の中そうはいかないんですよ」


「んだと⁉」


ベロちゃんとフルフルに喧嘩を売っていると、バエルが指を軽く動かしたと同時に脳虫も動き出した。


「空間把握《スペイシャゥル・グラプス》」


べロちゃんが呪文を呟いた瞬間、透明な箱がいくつか召喚され、箱の中には飛んできた脳虫達を閉じ込めるが、数匹取り逃がしてしまう。


「コイツ等、人間の脳みそを喰らう魔物だ。油断したら喰われるぞ」


「喰われる前に叩き潰せば良い話だろ」


「芣婭に怪我を治してもらったんだろ?なら、今度は芣婭の役に立てよ?」


「お前に言われなくても分かって…」


コンラットの言葉に対してガゼルが返そうとした時、物置の中にいる人達の肌に冷たい空気が触れ、バエルの背後に立っている人物を見て、コンラットは冷汗を流す。


パキパキッ。


「凍れ、害虫」


ベロちゃんが取り逃がした脳虫が凍り付き、物置の中の壁も凍(い)てつく中、ギルベルトの鬼の形相が更に空気を凍らせた。

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