第9話 転落 / Fall
「さて、いっちょやりますか」
ランキングを上げる為、俺は再びダンジョンに潜ることにした。
『ラビット・ホール』を起動し、まずはランキングを確認する。
――
アカウント名: K
あなたのランキング: 106位
利用回数: 89回
生還率: 98%
平均ダンジョンTier: 8
――
「平均Tier8 ……ね」
「じゃあ、ちょっと落としてTier7でも探すか」
経験を失ったとはいえ、一段階下げれば安全だ。
そう思っていた。
Tier7でフィルターを掛けると、ポツポツとマップに印が残った。
近場の一つをタップしてみる。
――
アイオン・バイオシステムズ実験ダンジョン
10,250 クレジット
Tier:7
生還率: 3.2%
ユーザーのおすすめ:★☆☆☆☆
レビュー:
「記録によると俺はここで4回死んでるはず」
— omega ↑ 45
「何の成果も得られませんでした!!!」
— Shadis ↑ 38
「レビューに内部描写が一切出てこないの時点でお察し」
— v0id ↑ 55
「死体と死体の可能性が混じってる。可能性の死体はこっちを見てくる」
— K ↑ 2 ↓ 42
――
――生還率3.2%
低いな。
でも、俺の生還率は98%だ。
「まあ、俺の実績ならなんとかなる……のか?」
支払いボタンを押す。
*
金を払って開いた入口を潜ると、薄暗い廊下が伸びている。
床は白磁のタイル。
蛍光灯の冷たい光が反射する。
壁際には金属製の引き出し棚が並んでいて、タグ付きのトレーが規則正しく並んでいる。
空気は、消毒液と金属の匂いが混ざった、冷たく乾いた匂い。
長く伸びた通路に、俺の足音だけが響く。
クリーチャーの気配は無い。
——Tier7っていってもこんなもんか?
突き当りに両開きの扉。
薄く開けて中を確認。
大きな部屋。
両脇に金属製の検死台がズラリ。
慎重に進む。
ひとつに人間の形をした何か。
「...クリーチャーか?」
電撃を放とうとして——
顔を、見てしまった。
——俺の顔だった。
そう認識した瞬間、遺体の状態がフィードバックされる。
腹が開く。
中身が、こぼれ落ちる。
「あ、が……」
視界が急速にノイズに染まる。
死ぬ。
そう理解した瞬間に、世界が消えた。
………
……
…
パチリ、と視界が開く。
——さっきまで、俺は。
静寂。冷たいカプセルの中。
身体には傷一つなく、呼吸も整っている。
なのに、妙に気持ち悪い。
端末を見ると、数時間経ってる。
何を見て、どう死んだのか、わからない。
覚えてるのは、潜る直前の根拠のない自信だけだ。
俺が死んだという事実は、減ってゆく残高のみで証明されていた。
「……また、死んだのか」
あれから、俺はムキになって潜り続けた。
だが、死ぬたびに時間は消えて、一歩も前に進めない。
潜れば潜るほど、ランキングは下がり続けていた。
――
アカウント名: K
あなたのランキング: 3,183位
利用回数: 114回
生還率: 77%
平均ダンジョンTier: 6
――
「67位……だったんだろ、俺は」
3,183位。
かつての俺が築き上げた「K」が、今の俺の無能さで削り取られていく。
「落ちぶれたランカー」
「魂の抜けた上位身体」
街の奴らの冷やかな視線が刺さる。
このままじゃ、世界に証を残すどころか
——俺は消える。
ただ、それだけだ。
ちょうどその時——
端末のリマインダーがポップアップした。
――
設定時刻:11/18 22:00
タイトル::【能力マニュアル】を見ろ
――
「能力マニュアル?」
端末を探ると、見慣れぬメモアプリを見つけた。
開けるファイルは3つ
【探索ログ】
【能力マニュアル ver.1.3】
【Private Log】<暗号化>
一番気になる、【Private Log】から開いてみる。
よく使ってるパスワード。
誕生日。
好きな言葉。
手当たり次第パスワードを入れてみたけど開けない。
「開けない。俺は何がしたかったんだ?」
気を取り直して【探索ログ】を開いてみる。
「……これ、ほんとに俺か?それに相棒?」
相棒の事も気になるが、それより——
壁を透過するとか。
敵を消すとか。
世界を選ぶとか。
つまり——
これさえ読めば、俺もできるようになるってことだろ?
期待に胸を膨らませながら、【能力マニュアル】をタップした。




