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残機ゼロの探索者〜究極の異能【可能性の選択】の代償は自我消失。世界に溶ける俺を、相棒の声だけが繋ぎ止める〜  作者: aramakid
第一章 臨界編

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第8話 告別式 / Funeral

 鉄格子の向こうで、パッチはいつものように端末を叩いていた。

 積み上げられたガラクタの山、明滅するネオン、埃っぽい空気。


「……リリィか。お前一人か?」


 パッチが顔を上げずに言う。


「……パッチ」


 私は、震える声でその名前を呼んだ。

 

「ケイは、戻らないわ」


 パッチの手が、止まった。


 ……。

 沈黙。

 

 ネオン管がジジッ、と鳴る。


「……何だ、その冗談。笑えねえぞ」


「冗談じゃない。……出口がなかったの。あいつが、自分の存在を全部使って、出口を……私だけを弾き出した」


 私は、カウンターに拳を置いた。

 割れた爪から血が滲み、黒い鉄板に小さなシミを作る。


「概念を食べる化け物がいた。空間も、敵も、味方も、自分自身も……全部『意味』が消されていく。あいつ、最後に笑って言ったわ。『宇宙になる』って」


「……宇宙に?」


「オーバーフローさせたのよ。無限の定義を自分に叩き込んで、化け物ごと自爆した。あいつ、自分が消えるって分かってて……」


「じゃあこれで、あいつの不死伝説も打ち止めか」


「……そうじゃないの!あいつ、バックアップ更新できてないの」


 私は首を振った。


「バックアップから戻っても、そこにいるのは半年前の……何も知らないケイよ」


「……何だよ」


 パッチが膝をついた。


「それ。じゃあ、『K』は死んだってことか」


 ガラクタの山に背中を預け、顔を覆う。


「ええ。私たちの知っているケイは、死んだわ」


 私は、パッチから目を逸らした。

 罪悪感が、喉元までせり上がってくる。


「……パッチ。お願いがあるの」


「……何だ」


「あいつが目覚めても、何も教えないで」

「私のこと」


「……本気か?」


「私の相棒だったケイは死んだの」


 パッチは何も答えなかった。


 私は店を出た。

 

 雨が降り始めた。

 アスファルトが濡れ、あの嫌な匂いが立ち上る。

 

 私は一人、雨の中を歩き出した。

 

 ——これでいい。

 あいつは、もう危険な力を使わない。

 普通の探索者として、生きていける。


 でも——もし、またあの道を選んだら。


 その時は。

 今度こそ、私が守る。

 影から、見えないところから。

 何度でも。


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