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残機ゼロの探索者〜究極の異能【可能性の選択】の代償は自我消失。世界に溶ける俺を、相棒の声だけが繋ぎ止める〜  作者: aramakid
第一章 臨界編

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第7話 再起動 / Reboot

 急に意識が戻る。それは常に、最悪な瞬間だ。

 

「……はあ、また死んだか」

 

 予備の身体を起こし、天井を見上げる。

 どうせ、またダンジョンで死んだんだろう。


 端末を見ると、半年経ってる。

 半年分の、俺が消えた。


「……は?流石に半年はおかしいだろ」


 探索者なんだ。潜る前にはバックアップ取るはずだろ?


 で、問題は――

『残高:85,120,129クレジット』


「ハッセンゴヒャクマン?」

 

 8千五百万クレジット。そこらの探索者の人生10回分。

 予備の身体は上位身体(ハイエンド)


 ははっ、と乾いた笑いが出た。

 この半年間、俺は何をやってたんだよ。

 銀行強盗でもしたか?

 それともダンジョンで一発当てたか?


 まあ、いいか。

 どうせ思い出せないし。


 躯体安置所のカプセルを這い出る。

 外はちょうど雨が上がった後のようで、アスファルトの蒸れた匂いがした。


 金が入った。

 ならやることは決まってる。

 いつも通り。


 酒と女

 大通りでタクシーを拾い、「ハイヴ」と告げる。


 タクシーは、巨大なホログラム看板の下で止まった。

 三日月を模したロゴが、紫と金で脈打っている。


 一番高いビルに入る。

 今までは見上げるだけだったビルだ。

 

 エレベーターの中、鏡に映る自分を見る。

 上位身体(ハイエンド)

 最高級のモデル。

 筋肉の付き方、骨格、全てが最適化されている。


 でも――

 この顔、本当に俺か?

 記憶の中の俺は、もっと――

 いや、記憶なんて曖昧なものだ。


 エレベーターが開く。

 広々したホール。


 ゴツい義体が2人、奥の入口に立っている。

 内心ドキドキしながら店に近づくと、義体がスッと頭を下げた。


「Kさん、お待ちしておりました」


「……ああ」


「いつもの席へご案内します」


 ——いつもの席?


 流れるように、ボーイに案内される。

 店内は薄暗く、高級な香りが漂っている。

 奥の個室。

 ふかふかのソファーに沈み込む。

 テーブルには、『K』の札の掛かった高そうなボトルが既に置かれている。


「Kさん。いつもありがとうございます」


 ふわりと香水が漂い、下界じゃちょっと見ないような美女が隣に座った。

 モデルのような体型。

 完璧なメイク。

 計算されつくした笑顔。


「久しぶりね。元気だった?」


「……ああ、まあ」


「そういえば、今度すごいダンジョンに挑むって言ってたじゃない。どうだった?」


 俺は、グラスに注がれた酒を見つめた。


「……失敗した……らしい?」


「え、ごめんなさい」


「ああ、まぁ」


「そっか。Kさんでも失敗することあるんだ」


 彼女が、くすくすと笑う。


「でも大丈夫。Kさんならすぐ取り戻せるわよ」


「……ああ」


 グラスに注がれた、本物の酒を飲む。

 うまいはずだが、味を感じない。

 彼女は、俺の知らない俺の話をし続けた。


「この前も、企業からの依頼こなしたって聞いたわ」


「……そうか」


「イレギュラー退治でしょ?危なくないの?」


「……」


「Kさん、本当にすごいわ。あんな危険な仕事、普通の探索者じゃできないもの」


 企業からの依頼。

 イレギュラー退治。

 俺が、そんなことを?


「——残念だったね。二桁入ってたのに」


「……二桁?」


「うん。ランキング。67位まで行ったって言ってたじゃない」


「でもKさんなら、すぐ戻れるよ」


「……ああ」


 ——ランキング?何の?


 俺は、また酒を飲んだ。

 彼女の声が、遠い。

 体温を感じない。

 香水の匂いも、ぼやけている。


「ねえ、Kさん。また潜るの?」


「……わからない」


「そっか。まあ、無理しないでね」


 美女が、俺の肩に頭を預ける。

 柔らかい感触。

 いい香り。

 でも——

 何も感じない。


 ここは、どこだ?

 この女は、誰だ?

 俺は――

 何をしている?


「……悪い」


 俺は立ち上がった。


「え?もう帰るの?」


「ああ。ちょっと、用事を思い出した」


「そう……残念」


 彼女が、少し寂しそうに笑う。


「また来てね。お金があるうちに」


「……ああ」


 俺は、店を出た。

 夜の街を歩く。

 ネオンの光が、目に痛い。

 路地裏に入る。

 壁に手をつく。


「……なんだよ、これ」


 金がある。

 名声がある。

 女もいる。

 全部、手に入れた。


 でも――

 全部、空っぽだ。

 何も、感じない。


 *


「ケイか」


 鉄格子の向こうでジャンクを選り分けていたパッチがこちらを向く。


「バックアップ取ってなかったんだってな。色々混乱してるだろうから説明してやるよ」


「……ああ、頼む」


 俺はカウンターに手をついた。


「半年前だ。おまえが見たことのない純度の結晶を持ち込んだ」


「結晶?」


「ああ。出来立てのダンジョンから持ち出したやつだ。あれで一気に稼いだ」


 パッチが端末を叩く。


「それからおまえは変わった」


「……変わった?」


「ああ。目の色が違った」


 パッチが、俺を見る。


「まるで、何かに取り憑かれたみたいにな」


「……」


「おまえの端末にラビット・ホールを入れてやった。カネさえ払えば企業のダンジョンに裏口から入れるアプリだ」


「……そんなの入ってたか?」


 端末を確認する。

 ——あった。

 見覚えのないアプリ。


「おまけの機能でランキングが出る」


「ランキング……」


「おまえはランク上げに必死でよ。一度も死なずにあっという間にランクを駆け上った」


「……」


「『ランカーになれば俺が死んで記憶をなくしても、誰かが代わりに覚えててくれるか』なんて言ってよ」


 パッチが、乾いた笑いを漏らす。


「……バックアップ更新できなかったそうじゃねぇか。だからあんなこと言ってたのか」


「……そうなのか」


 俺は、何も言えなかった。


「念願かなった感想はどうだ」


「……」


 パッチが、じっと俺を見ている。


「……空っぽだ」


 俺は、正直に答えた。


「何もかも、空っぽだ」


「……そうか」


 パッチが、また端末に目を落とす。


「まあ、そうだろうな」


 沈黙。

 ネオン管がジジッ、と鳴る。


「で……どうすんだ。これから」


「……もう一度やり直すよ」


 俺は、拳を握る。


「ランカー面白そうじゃねぇか」


「……本気か?」


「ああ。今度はバックアップも取れるしな」


 パッチが、小さくため息をついた。


「……そうか」


「何だよ」


「いや」


 パッチが端末を置く。


「だがあの頃のおまえは妙な能力があったぞ」


「能力?」


「出口がわかるとかな」


「……出口が?」


「ああ。じゃなきゃあの生還率は維持できねぇよ」


 パッチが、俺を見る。


「あの結晶を手に入れたダンジョンでなんかあったんだろう」


「……」


 俺は、何も覚えていない。


「……わからない」


「そうか」


 パッチが立ち上がる。


「まあ、気をつけろよ。」


「何に?」


「企業だ」


 パッチが、真剣な顔で言う。


「おまえ、今まで企業にとって便()()()()()だった」


「……」


「でも、能力を失ったとなると話は別だ」


「……どういうことだ」


「利用価値のない道具は、消される」


 パッチが、俺を見る。


「……マジかよ」


「ああ。だから気をつけろ」



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