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残機ゼロの探索者〜究極の異能【可能性の選択】の代償は自我消失。世界に溶ける俺を、相棒の声だけが繋ぎ止める〜  作者: aramakid
第二章 回帰編

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第16話 分断 / Division

 朝。


 コーヒーを啜りながら、リリィが訪ねてくるのを待ち構えていた。


 インターホンが鳴る。

 

 ドアを開けた。

 言葉が、反射的に零れる。


「なあ、リリィ——」


 そこで、言葉は遮られた。


「ヘリオスの監視が——消えてる」

「却ってきな臭い。急ぐぞ」


 低く、張り詰めた声。

 出鼻を挫かれ、言葉を失う。


「なら聞きたい事もあるし、今日は家にいた方が——」


 そう言いかけた瞬間だった。


 アパートの前に、大型トラックが滑り込む。

 荷台が開き、黒い影が次々と降りてきた。


 軍用義体。

 しかも——

 

「ヘリオス・ダイナミクスじゃない——」


 リリィの声が、震える。


「カイロス重工の機甲部隊!?」

「なんで——ヘリオスは!?」


 リリィの呟きが、空気を一段冷やした。


 ——ヘリオス?カイロス?

 ——企業が二つ?


 理解が追いつく前に、身体が宙に浮く。

 担ぎ上げられ、部屋へ押し戻された。


 窓ガラスが砕け、風が顔を叩く。


「おい!ここ7階だぞ!」


「逃走経路は想定済み!」


 リリィの声は迷いがない。

 そのまま大通りを飛び越え、向いの雑居ビルの屋上へ着地する。


「……スッゲぇ」


 思わず、声が漏れた。


「ここまでやるか?街中だぞ!」


 リリィの視線に釣られて下を見て、唾を飲み込む。

 軍用義体がビルを包囲し、戦車が大通りを塞いでいた。


 ——完全な包囲網。


 リリィが取り出した端末を操作する。

 屋上の空間が歪み、黒い“裏口”が開いた。


「なんで、リリィがそれを——」


「行って」

「狙いはケイ。私じゃない」


 リリィが裏口を指す。


「リリィ、お前やっぱり——」


「行って!」


 強く突き飛ばされ、裏口を越える。


「大丈夫。ケイは——ダンジョンでなら最強」


 その言葉を残して裏口は閉じた。

 音もなく、世界が切り離された。


「……リリィ!」


 叩いた拳が、跳ね返る。

 裏口はもう、ただの壁になっていた。


『狙いはケイ。私じゃない』

 

 その意味が、ゆっくりと胸に沈んでいく。

 ——囮になる気だった。


 怒りより先に、理解が来る。

 その冷たさが最悪だった。


 俺は足手まとい。

 そしてここはダンジョン。

 義体は入れない。


 だから——これが最善手。


「クソっ……!」


 壁を殴る拳が痛い。

 でも痛みは、境界を確かめるようで少しだけ落ち着く。


 深呼吸を一つ。

 怒りを押し込み、前を見る。


 とにかく、出口を探すしかない。


 いや——


「力を、取り戻す」


 出口を探すより——


 深層へ行って、

 過去の感覚を取り戻す。


「そうすれば——」


 リリィを、守れる。


「……なら、行くしかねぇだろ」


 踵を返し、俺はダンジョンの奥へと歩き出した。


 ネオン街だった名残が、そこにはあった。


 割れたアスファルトの隙間から、ケーブルが露出している。かつては電力を運んでいたはずのそれらは、今では意味もなく地面を這い、脈打つように微かに光っていた。

 看板は半分崩れ、文字の一部だけが点灯している。

 点いたり、消えたり。

 まるで「存在する可能性」と「しない可能性」を、延々と迷っているみたいだった。


 空気が、重い。


 湿気でも埃でもない。

 皮膚に触れる“密度”が違う。


 でも——見えない。


 可能性の重なりも、分岐も、光景としては何一つ見えてこない。

 視界にあるのは、崩れたネオン街の廃墟だけだ。


 だが。


 足元が、わずかにざらつく。


 舗道のひび割れとは違う。

 コンクリの感触でもない。

 靴底越しに伝わる、「世界が確定しきっていない」感触。


 ——ああ、これか。


 俺は立ち止まらず、歩き続ける。

 目で探すな。

 考えるな。

 皮膚で、足で、内臓で感じろ。


 ネオンの光がちらつく。

 看板に映る女の笑顔が、一瞬だけ別の表情になる。

 次の瞬間には、何事もなかったように戻る。


 気のせいじゃない。

 でも、掴めるほどじゃない。


 「……まだ浅いか」


 街は死んでいるはずなのに、騒がしい。

 広告の音声が、互いに干渉し合ってノイズになる。

 意味のない言葉が、意味ありげに耳に残る。


 《今なら、間に合います》

 《引き返してください》

 《あなたは——》


 無視する。

 全部、無視だ。


 ザラザラは、前だ。


 崩れた高架の下をくぐる。

 そこだけ、空気が重い。

 湿っているわけでも、臭うわけでもないのに、肺に引っかかる。


 だがまだ早い。


 今はただ——

 ザラザラを辿れ。


 壁に手をつく。

 一部だけ、冷たい。

 そこだけ、触った感触が遅れて返ってくる。


 世界が、迷っている。


 進むほど、街の構造がおかしくなっていく。

 一本道だったはずの路地が、振り返るたびに増えている。

 同じ広告塔を、三度通り過ぎた気がする。


 距離感が、信用できない。


 それでも、足は止まらない。

 身体のどこかが知っている。

 この奥に、何かがある。


 できない。

 まだ、選べない。

 でも——


 近づいている。


 そう確信できるだけのザラつきが、

 この廃墟の最深部から、確かに伝わってきていた。


 俺は、さらにネオンの残骸の奥へと踏み込んだ。



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