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残機ゼロの探索者〜究極の異能【可能性の選択】の代償は自我消失。世界に溶ける俺を、相棒の声だけが繋ぎ止める〜  作者: aramakid
第二章 回帰編

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第14話 齟齬 / Discrepancy

「それじゃ行ってくる」


 ケイがダンジョンに潜るのを見送る。

 周囲を伺う。


「増えてる」


 護衛についてから襲撃は無くなったが、監視の目が増えている。


「落ち目の探索者を狙うにしては異常」


 何かある。

 考えられる原因はTier9ダンジョン。

 でも、生還者の私では無くケイを狙うのはなぜ?


 *


「すまない。俺のミスだ」


 鉄格子の向こうで、パッチが深く頭を下げた。


「……何があった?」


 リリィが静かに問い返す。


「あの後、お前らの事を嗅ぎ回る連中が増えてな」


 顔を上げたパッチの目は険しい。


「ヘリオス・ダイナミクスと——カイロス重工だ」


 リリィが息を呑む。


「カイロス重工まで?」


「ああ。しかも、連中の目つきが違う」


 パッチが苦々しげに続ける。


「ヘリオスは——調べてる。ケイが何を知ってるか、確かめたいって感じだ」

「だがカイロスは——」


 パッチが言葉を切る。


「消しに来てる」


 リリィは思わず息を呑む。


「こりゃヤバいと思って、情報を流した」


 パッチは一度言葉を切り、苦々しげに続ける。


「ダンジョンから生還できたのは、ケイの能力のお陰だってな」


「でも……」


 リリィが先を促す。


「奴はバックアップを取っていない。能力も失われ、すべては闇の中だ——そう付け加えた」


 それで終わるはずだった、とパッチは唇を噛む。


「これで、丸く収まると思ったんだ」


 沈黙が落ちる。


「——だが、企業は信じなかった」


 低い声が反響する。


「いや、信じないというより——裏を取ろうとしている」


「……ケイは力を取り戻そうとしている」


「ああ」


 パッチは低く息を吐き頷いた。


「マズイな」


 *


 ケイから送られてきた座標に向かうと、彼はいつもの調子で手を振ってきた。


「今日は遅くなった分、成果もあったぜ」


 汗を拭いながら、子どもみたいに笑う。

 その無邪気さが、今は胸に刺さる。


「しっかし、あれから企業も音沙汰ないな」


 ケイが肩を叩きながら言う。


「このガタイ見りゃ当然かもな。リリィ様々だぜ」


「ケイ、やっぱり……」


 一瞬言いかけて、言葉を飲み込んだ。

 喉の奥がひりつく。


 ——力を取り戻そうとするのは辞めて。

 そう続けたかったが——言えない。


「ん?」


「いや、何でもない」


 ケイは気にした様子もなく、次の話題へ飛ぶ。


「明日から、ダンジョン変えるぞ」

「大分コツを掴んできたからな。ダンジョンの難易度も上げて行く」


 胸がざわつく。

 思わず一歩、ケイに近づいた。


「それは待て」


 ——企業に力を取り戻したと見られるのはマズイ。


「なんでだ?」


「お前の力、デメリットもあるだろ」

「対処法も練習してからじゃないと危ない」


 咄嗟に誤魔化しの言葉が口を突く。


「そういえば、マニュアルにそんな事書いてあった気がするけど——」


 ケイは首を傾げる。


「リリィに言ったっけ?」


 視線を逸らす。

 ケイの目を見てしまうと、嘘がつけなくなる。


「そんなことより、襲撃がない代わりに監視は増えている。大人しくしておけ」


「監視?そんな事も分かるのか」

「さすが凄腕の傭兵だな」


 ケイは軽く笑う。

 その無防備さが、今は怖い。


 *


「いいか、とにかく今日は大人しくしておけ」


 ケイをアパートに送り届け、念を押す。


「ああ、分かってる」

「お前の言う事は信頼してるからな、相棒」


 そう言ってケイはドアを閉めた。


 ドアが閉まる音が、やけに重く響いた。


 リリィはしばらくその場に立ち尽くした。

 薄暗い廊下の非常灯が、義体の外装に淡く反射する。

 胸の奥が、じわりと痛む。


「……相棒、ね」


 小さく呟く。

 その言葉は、嬉しいはずなのに、今は胸に刺さる。


 ——相棒。

 そう呼ばれる資格が、今の自分にあるのか。


 ケイは何も知らない。

 企業が動いていることも、パッチが情報を流したことも、

 自分が囮として企業の目を引きつけていることも。


 そして——

 ケイが力を取り戻そうとするほど、危険が増すことも。


 リリィは拳を握りしめた。

 義体の指関節が、わずかに軋む。


「……守るって決めたのに」


 ケイの無邪気な笑顔が脳裏に浮かぶ。

 あの笑顔を曇らせたくない。

 でも、真実を言えば、ケイは絶対に止まらない。


 ——あいつは、そういう奴だ。


 だから言えない。

 言えば、ケイはもっと危険に踏み込む。


 リリィは深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「……帰ろう」


 踵を返し、階段を降りる。

 外に出ると、夜風が頬を撫でた。

 街灯の下、視界の端に“影”が動く。


 ——また増えてる。


 監視の気配は、昼より濃くなっていた。

 ケイの言う通り、襲撃はない。

 だが、企業の視線は確実に近づいている。


「……絶対に、守る」


 リリィは夜の街を歩き出す。

 義体の足音が、静かにアスファルトを叩いた。

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