第13話 相棒 / Partner
耳鳴りと一緒にインターホンが鳴った。
頭の中で誰かが鉄骨を叩いている。
喉がカラカラだ。
呻きながら、身体を起こす。
ドアを開ける。
見上げるような黒い鋼の義体。
一瞬ギョッとして——思い出す。
「リリィか。すまない。入って待っててくれ」
「二日酔いか?顔でも洗ってこい」
「ああ、そうさせてもらう」
Tシャツを脱ぎ捨て、バスルームに向かう。
リリィがバッと顔を背ける。
「コーヒーでも入れてやる」
何故かギクシャクしながら、リリィはキッチンへ向かった。
*
シャワーを終え、髪を乾かしながらリビングへ戻る。
インスタントコーヒーのチープな香りが漂っている。
「とっとと服を着ろ」
バイザー越しだが、視線を背けているような気配。
「ああ。それより、コーヒーの置き場所よく分かったな」
「っ!たまたま……だ」
「それより!今日の護衛だ。予定は?」
リリィが早口でまくしたてる。
「今日は昨日と同じダンジョン」
「出口はどこに開くか分からない。出たら連絡する」
「分かった、ショッピングモールのあたりで待機している」
*
昨日と同じくらいの深さまで来た。
道中、鹿を何匹か倒したが、専属探索者とは鉢合わせなかった。
また、ザラつきを探す。
昨日より、少しはっきり感じる——気がする。
ザラザラした感覚を見失わないように、かと言って意識を向けすぎないように調整する。
なんとなくザラザラにも強弱があるような気がする。
ザラつきが強そうな方へ進んでゆく。
やがて、ぽっかり開いた出口にたどり着いた。
「やっぱり、偶然じゃないのか?」
*
昨日とは別の裏路地に出た。
リリィに現在地を送る。
壁に寄りかかって端末をいじる。
「鹿がキモすぎる ★2…送信っと」
レビューを書き終えて顔を上げる。
リリィが呆れた様に首を横に振っている。
「終わったなら、帰るぞ」
「まあ、慌てんなよ。飯でも食って帰ろうぜ」
繁華街に向けて歩き出す俺をリリィが慌てて追ってきた。
*
「中華にでもすっか」
目についた食堂に入る。
油でギトついた床。
大蒜の匂い。
中華鍋を振る音が響く。
「今日は飲みすぎるなよ」
「へいへい」
「で、調子はどうなんだ?」
「もうちょいで、なんか掴めそうなんだけどさ」
ジョッキを傾け、口の泡を舐める。
「あ、実は俺、この前派手に記憶飛ばしてさ。半年分」
肩をすくめ、苦笑い。
「……」
リリィは俯いたまま黙っている。
「で、前の俺が残した能力の使い方のコツを書いたメモ見て練習してんだけど」
「これがひでーのよ。ザラザラとかツルツルとか擬音だらけでよ」
そう言うと、バイザー越しに生暖かい視線を感じる。
「まぁそんなわけで、まだまだ力を取り戻せそうにないんだわ」
ふぅとため息を付く。
「金ならあるんだろ?わざわざ危険な事をしなくても——」
「空っぽなんだよ」
「空っぽ?」
「ああ、金も、名声も——これは絶賛降下中だけど」
「実際に手にしても虚しいだけだった」
「それから——」
リリィが黙って先を促す。
「日記に書いてあった」
「相棒がいたんだ。誰だか覚えてないけど、かなり大事にしていたらしい」
義体の肩が跳ねる。
「きっと俺に愛想を尽かしたんだろうな」
小さくため息をつく。
「でも——力を取り戻したら、相棒も帰ってくるかも知れないと思ってな」
ガタリと音を立ててリリィが立ち上がる。
「おい、どこ行くんだよ」
「トイレだ」
震える声で、リリィが答えた。




