第12話 再会 / Reunion
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フラックス・エナジー 採掘ダンジョン
2,850クレジット
Tier:4
生還率:27%
ユーザーの評価:★★★☆☆
レビュー:
「森林タイプ。クリーチャーは動物型で比較的狩りやすいが、密度が薄い」
— Neon_Ω_diver ↑229
「専属はスリーマンセル。隠れる場所も多い」
— hexrunner ↑125
「ランカーの狩りやすいは真に受けるな」
— scott318 ↑56
「↑雑魚が背伸びするのが悪い」
— K ↑18 ↓27
——
「……これにするか」
入り口を潜ると、空気が変わった。
ひんやりとした風が頬を撫でる。
整然と立ち並ぶ針葉樹と乾いた土の匂い。
周囲にクリーチャーや専属の気配はない。
足早に奥を目指す。
段々と木の密度が上がる。
薄暗い森の更に奥へ。
木々の合間に鹿の角が見える。
そっと回り込んで、様子を伺う。
毛の無い体表には血管が透け、異様に長い脚は幾つもの関節で折れ曲がっている。
触手の様な角の先端が、何かを探るように蠢く。
黒く虚ろな眼がこちらを捉えた。
多関節の脚が猛烈な速さで蠢く。
こちらに迫ってくる様が、スローモーションに見える。
銃を構える。
意識を集中する。
現実を書き換える。
銃弾が、心臓を捉える。
同時に電撃が走る。
ポトリと結晶が落ちた。
「これなら大丈夫そうだな」
結晶をポケットに入れながら、呟く。
………
……
…
森はいよいよ濃くなり、入り口の整然とした様子は見る影もない。
「このあたりで良いか」
大木を背に立つ。
頭上には枝葉が厚く重なり合い、僅かな光しか届かない。
肩幅に足を広げ、背筋を伸ばす。
軽くひじを曲げ、手のひらを上に向ける。
足元の苔が柔らかく沈み込む。
呼吸するたび、湿った土と腐葉土の匂いが鼻腔に押し寄せ、胸の奥まで冷たく染み込む。
鬱蒼とした木々を見るともなく見ながら、空間のザラつきを探る。
風はほとんど無い。
静寂が身体に纏わりつく。
僅かな違和感。
意識を向けると途端に霧散する。
再び違和感を感じるまで、無心で待つ。
また違和感。
意識してしまうと途端に消えてしまう。
目の端の埃を見ようとした時のようなもどかしさ。
違和感を探す。
意識の一番外側の端に引っかかる様に。
微かに感じるザラつき。
——これか?
一瞬で消えたが、確かに感じた。
もう一度捉えようとするが、何も感じない。
やがて、先ほどザラつきを感じたあたりに出口が出現した。
「さっきの感覚が、当たりか?それとも偶然?」
なんとなく釈然としないまま、出口を潜る。
ショッピングモールの裏手に出た。
西日を背に路地を歩く。
前から、ヘリオス・ダイナミクスの私兵たち。
「探したぞ」
低い声が、私兵の更に後ろから聞こえる。
私兵より頭一つデカい黒い義体が、私兵の肩を叩く。
「お前!この前の!」
「覚えてるなら、話は早い」
「人にぶつかったまま、逃げたな?」
「邪魔するなら、お前から——」
轟音。
銃を抜こうとした一人が、吹き飛んで拉げた。
呆気に取られているうちに、残りの2人もスクラップになった。
「待ってくれ」
そのまま立踵を返した義体に思わず声をかけた。
「……なんだ?」
微かに肩を震わせた義体が振り返る。
「今の奴ら、たぶん俺の客だ。助かった」
「気にするな」
義体は淡々と言う。
「私の用事を済ませただけだ」
そのまま立ち去ろうとする背中に、声をかけた。
「よかったら、奢らせてくれ」
義体は足を止める。
一拍。
二拍。
バイザーがわずかにこちらを向いた。
「……奢り、か」
しばらく逡巡したあと、ぎこちなく頷く。
*
裏通り。
角の小さな店にSMOKE & GREASEのネオンが赤く光る。
「ここだ」
年季の入った扉を開けると、鉄板から上がる煙と、肉の焼ける匂いが飛び込んでくる。
奥のテーブル席に向かい合って座る。
「小汚えが、味は確かだぜ」
肩をすくめて言う。
「ああ、知っている」
「特製スモークチーズバーガーを」
即答だった。
低く、迷いのない声。
「おお!わかってるじゃねえか」
思わず笑いが漏れる。
「昔の相棒に勧められて、ハマった」
義体はそれだけ付け足した。
「その相棒いい趣味してるぜ」
悪くない気分で、俺は頷いた。
「特製スモークチーズバーガー二つだ!」
「それとビールも」
厨房に向かって叫ぶ。
*
「改めて今日は助かった」
運ばれてきたバーガーをパクつきながら礼をいう。
「たまたまだ」
「それにしても、あんた強いな」
「そのゴツい義体、傭兵かなんかか?」
「……そんなところだ」
「なら、護衛でもしてくれないか?……なんてな」
少し冗談めかして言う。
「でもこう見えて、金なら結構あるんだぜ」
「護衛?」
「ああ、最近さっきみたいな、鬱陶しいのに付きまとわれててな」
「俺は探索者なんだけど、今はダンジョンに専念したくてさ」
「地上で煩わされたくないのよ」
「……」
「まあ、無理だよな。あんたみたいな凄腕雇うのは」
「忘れてくれ——」
「……いいぞ」
「え?」
「だから、護衛だ。受けてやる」
「マジで!?」
「俺はケイだ。よろしくな」
「……ィだ」
義体が、ぎこちなく名前を返す
「え?」
「……リリィだ」
「ぶはっ!」
「いや、悪い。巨体に似合わずかわいい名前だな」
「意外と似合ってるぜ……くっ」
「……」
義体は無言で顔を背けた。
バイザーに映る店の光が揺れる。
ビールを流し込む。
「今日は奢りだから、お前もじゃんじゃん飲め」
リリィはジョッキを掴むと、一気に飲み干した。
「……」
空のジョッキを置くと、無言で少俺の方に押し出す。
「いい飲みっぷりだ」
「おやじ!ビールおかわり」




