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残機ゼロの探索者〜究極の異能【可能性の選択】の代償は自我消失。世界に溶ける俺を、相棒の声だけが繋ぎ止める〜  作者: aramakid
第二章 回帰編

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第11話 拡張 / Extend

 細い路地の影に身を押し込め、通りを覗く。


「ケイ……」


 屋台の灯りに照らされたケイが酒を呷るっている。

 その丸まった背中が、小さく見える。


 端末に視線を落とす。


 ——3,183位


 あれから、何度も死んでいる。

 その事実を突きつける数字だった。


 瓶の割れる音。

 反射的に顔を上げる。


 ケイが、こちらに走ってくる。


 胸の冷却ファンが、わずかに回転数を上げた。


 だがケイは、素知らぬ顔で脇をすり抜けていく。


 私に気づくはずはない。

 ——頭ではわかっている。


 それでも——


 遅れて、義体が二人。

 ケイを追うヘリオス・ダイナミクスの私兵だ。


 ——またか。


 踏み出し行く手を塞ぐ。

 そのまま一人を弾き飛ばした。


「……クソ!どけ、デカブツ」


 ケイの足音が遠ざかる。

 やがて、その音が完全に消えた。


 私兵は体勢を立て直し、再び走り出す。

 だが、路地の先にはもう、ケイの姿はなかった。


 *


「……半年ぶりか」


 薄暗い診療室で、端末から顔を上げた、ドクの義眼がこちらを捉えた。


「ああ、そうらしいな」


 室内には消毒薬とオゾンの匂いが混じっている。俺は壁際に立ったまま答えた。


「もう、バックアップは問題ないだろ……今日はどうした?」


「生体拡張をインストールしたい」


 ドクの視線が、俺の身体を一瞬なぞる。


「……上位身体(それ)で十分だろ」


「足りない。力を取り戻すには、必ず生きて帰る必要がある」


 ドクは端末を机に置いた。淡い光を反射する義眼が、今度はじっと俺を見据える。


「……」


 やがて小さく肩を竦める。


「分かった。で何入れるんだ?」 


「脳と脊髄それから皮膚」


 一拍の沈黙。


「……正気か?」


「金ならある」


「はあ、そういう問題じゃないんだがな」


 ドクはため息混じりに続ける。


「生体パーツだ。定着するかどうかは賭けみたいなもんだぞ」


「やってくれ」


 間を置いて、ドクは観念したように首を振った。


「……分かった。そこに横向きに寝ろ。右側が上だ」


 金属製のベッドに横になると、冷えた感触が背中に伝わる。

 ドクは棚を漁り、試験管をひとつ取り出した。


「ニューロ・ジェネシス製の拡張葉(エクステンド)だ。思考の補助とリミッター解除」

「その身体なら、解除してもある程度持つだろう」


 ドクがシリコン手袋をした手で中身を取り出す。

 内蔵のような塊から何本も伸びた管が、蝶の口吻みたいに丸まっている。

 ドクドクと脈打ち、ヌラヌラと蛍光灯の光を反射するそれが俺の耳元に近づいてきた。


「おい、待て!麻酔とか無いのかよ」


「打つか?乗っ取られても良ければな」


「は?」


「ちょっと痛むぞ」


 耳に激痛。

 管がピンと伸びて内耳に侵入し、そのまま——

 頭の中を何かが這い回る感触。


 *


 目覚めると、躯体安置所のカプセルだった。

 端末を見ると、最新の通知に『決済完了:上位身体(ハイエンド)躯体費用』の文字。

 その下に、全く同じ通知が履歴を埋め尽くしている。


「……またか」


 バックアップを取ってから手術台に乗る。そこから先の記憶はない。

 目覚めるたびに、俺の記憶は「手術直前」に巻き戻され、残高だけが削られている。


 カプセルを出て、診療所へ向かう通路の脇。

 バイオハザードマークがついた大型の廃棄物コンテナが目に留まった。

 

 半透明の防液カバー越しに、見慣れた顔が重なり合っている。

 拒絶反応でどす黒く変質した「俺」。神経系が焼き切れて異様にのけぞった「俺」。

 

「……見栄えが悪いな」


 俺は顔を背け、自分の亡骸の山を通り過ぎた。


 *


「脳と脊髄と皮膚だったな。続けるか」


「ちなみに成功率って……」


「脳が3割、脊髄が5割、皮膚は8割ってとこだな」


 ドクは端末を操作しながら、視線も寄越さずに答える。


「じゃあ全部成功するのは…」


 言いかけて、喉が少し詰まる。


「1割ちょいだな」


 ようやくこちらを見て、ドクが肩を竦めた。その仕草は軽いが、義眼の光は冷たい。


「……続けてくれ」


 覚悟を決め、ベッドに横になる。


「それから、脊髄はゲノ・サイエンス製のネオカリス・インプラント」

「皮膚はオメガ・ケミカルのデュラスキンでいいな?」


 ドクは引き出しを開け、無色のカプセルと、粘性のあるパックを並べる。


「それぞれ、神経伝達速度の強化と、感覚強化だ」


「ああ、やってくれ」


 ………

 ……

 …


「3日ほどでデュラスキンに置き換わる。ダメだったらまた来い」


 皮下注射を終えたドクが、器具をトレイに放りながら言った。


「ああ、世話になった」


 立ち上がると、身体の各所が一拍遅れてついてくる。皮膚の内側で、何かがまだ位置を探して蠢いている感覚があった。


「金はだいぶ減ったが、なんとかなったな」


 診療所を出て、端末を覗く。

 17体目の身体で、インストールは成功した。


 この身体は補助輪だ。

 ──不安定なダンジョンで、境界を緩める練習をするための。


「まずはTier4あたりで様子見するか」


 ラビット・ホールに記された近場の裏口を目指す。


 この身体で、どこまでやれるか――

 それを試すには、ちょうどいい難易度だ。


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