SSS級にオタクに優しいギャルとの出会い
「おっはよー! 八杉っち!」
突然聞こえてきた声に俺は身の危険を感じた。そして、その声の主は真っ先に俺の方に向かってくる。迷いのない歩き出し方、まるで獲物を見つけた肉食動物のようだ。俺はふと視線をその声がした方に向ける。
「なんだよ、川瀬さん」
そこに居たのは、相変わらず元気――いや、神行と同じように眩い輝きを放つ川瀬がいた。四人の皇帝の一人である川瀬、そんな彼女の存在感で周りの生徒たちは目線を俺たちの方へ向ける。
朝っぱらからなんで俺は四皇の一人と対面しなきゃならないんだ……。川瀬との出会いは高校からで、何故か気に入られてるような感じがするのだ。いや、感じがするというか、確実に気に入られている。
ふと、脳裏に川瀬との出会いの過去が過ぎる。
※ ※ ※
あれは紫水高校の入学式の日。その日の俺は高校生活を楽しみにしていた。新しい環境、新しい人間関係、新しい趣味を見つけられるかもしれない、そんな期待を胸に俺は学校に向かっていた。
中学での失恋から数ヶ月。まだ心の傷は完全には癒えていなかったが、それでも新しいスタートを切ろうという気持ちはあった。恋愛はもういい。友達を作って、アニメや漫画の話ができる仲間を見つけて、平穏な高校生活を送る。それだけでいい。
そんなことを考えながら、桜並木の道を歩いていた時だった。
「なぁ、そこの嬢ちゃん。ちょっと俺たちと付き合ってよ」
「は? マジしつこいんだけど! 私は今から入学式があって!」
桜並木が並ぶ道の端で、一人の美少女に寄って集っている二人の不良がいた。その美少女は明らかに嫌な顔をしていて、でもその美少女を助けようとする者はいなかった。道行く人々は、見て見ぬふりをして通り過ぎていく。
めんどくさい。
そう思いながら、俺はそのまま歩みを進めようとした。入学式に遅れたくないし、面倒事に巻き込まれたくない。それに、俺が助けたところで、何か変わるわけでもない。
――が、何故か俺の謎の正義感から来る衝動で俺はその美少女のいる方向に歩いていた。
足が勝手に動いていた。頭では「関わるな」と言っているのに、身体は正直だった。多分、中学の時の失恋で、「もっと勇気を出していれば」という後悔があったからかもしれない。
「なぁ、あんたら。その子が困ってるだろ。離してやれよ」
威圧の感情を込めた俺の声。しかし、そんな声に不良達は怯まない。まぁ当たり前か、パッとしない男からの忠告なんて聞く耳すら持たないか。
「んだよテメェ。なんだ? 指図するならおまえ痛い目に合わせるぞ」
一人の不良がそう言った時、隣にいた不良が俺に向かって拳を振り下ろす。
「危ない!」
美少女が声を上げた。――が、俺はその振り下ろされた拳を片手で受け止めた。入学式から面倒事だけは避けたいのに、でも相手から手をかけてきたのなら、こちらは正当防衛という名目で仕掛けるしかないか。
俺は、中学時代に少しだけ空手をやっていた。別に強いわけじゃないが、こういう不良程度なら対処できる。
それから俺はその二人の不良達を軽く捻って、地面に組み伏せた。不良達は、「覚えてろ!」と捨て台詞を残して逃げていった。まぁ、もう二度と関わることはないだろう。
その後、俺は地面に置いていたカバンを拾い上げて、そのまま学校に向かおうとした。面倒事は終わった。これで、平穏な高校生活が始められる。
「ね、ねぇ!」
一人の美少女が俺に声をかける。俺は咄嗟に視線を後ろへ向ける。オレンジ色に近い金髪の女の子。ギャル風のメイクをしていて、でもどこか幼さが残る顔立ち。その瞳は、キラキラと輝いていて、まるで星のようだった。
「ありがとう! めっちゃ助かった! 八杉っちマジヒーローじゃん!」
「いや、別に……って、なんで俺の名前知ってんの?」
「あ、制服の名札見えてたから! ……その制服、私と同じ学校の制服だよね。――私は川瀬優里。同じクラスになったらよろしくね!」
ギャル風な雰囲気を漂わせる彼女。その笑顔は、どこまでも明るくて、太陽のようだった。俺は、少し戸惑いながらも、頷く。
「あ、ああ……よろしく」
「ねぇねぇ、八杉っちって空手やってたの? めっちゃ強かったじゃん!」
「いや、昔少しだけ……」
「かっこよかった! マジで惚れちゃいそう!」
川瀬は、屈託のない笑顔で言う。その言葉に、俺は少しドキッとしたが、すぐに気持ちを落ち着かせる。これは、ただの社交辞令だ。深い意味はない。
「じゃあ、一緒に学校行こ! 八杉っちと一緒なら、道も迷わないし!」
「え、いや……」
俺が断る暇もなく、川瀬は俺の腕を掴んで、学校に向かって歩き始めた。その手は、柔らかくて、温かい。
こうして、俺と川瀬優里の関係が始まった。
※ ※ ※
回想から戻ってくる。川瀬は相変わらず軽いステップと陽気な雰囲気を纏って、俺の元へ歩み寄ってくる。手には、いつものいちごミルク。完全にトレードマークになっている。
「八杉っち、おっはよー! 昨日は足立ちゃんとデートだったんでしょ? どうだった?」
「デートじゃねぇよ。ただ漫画買いに行っただけだ」
「えー? でも二人きりで放課後遊んだんでしょ? それってデートじゃん!」
川瀬は、ニヤニヤしながら言う。その表情は、どこか楽しそうで、でも少しだけ寂しそうにも見えた。
「お前、なんでそんなこと知ってんだよ……」
「だって、足立ちゃんが嬉しそうに話してたもん。『八杉くんと漫画の話で盛り上がった』って」
「マジかよ……」
俺は、頭を抱える。足立さん、そんなこと川瀬に話してたのか。いや、四皇同士だから、情報共有してるのかもしれない。
「ねぇねぇ、八杉っち。今度、私とも遊ぼうよ!」
「は?」
川瀬の突然の提案に、俺は驚く。川瀬は、いちごミルクのストローをくわえながら、上目遣いで俺を見つめる。
「だって、足立ちゃんとは遊んだのに、私とはまだ遊んでないじゃん。不公平だよー」
「いや、お前とは……」
「ダメ?」
川瀬の声は、少し寂しそうだった。その表情を見て、俺は少し罪悪感を感じる。
「……わかったよ。じゃあ、今度暇な時に」
「やったー! じゃあ、今週の土曜日ね!」
「え、もう決まってんのかよ!」
「当然でしょ! 八杉っちが逃げないうちに、確定させとかないと!」
川瀬は、満面の笑みを浮かべる。その笑顔は、どこまでも無邪気で、俺は反論する気力を失った。
「はぁ……わかったよ」
「じゃあ、決まりね! 楽しみにしてるから!」
川瀬は、そう言って俺の腕にギュッとしがみつく。その感触に、俺は思わず身体を硬直させる。
「お、おい……周りが見てるだろ」
「いいじゃん! 八杉っちと私の仲なんだから!」
川瀬は、全く悪びれる様子もなく、俺の腕にしがみついたまま、教室に向かって歩き始める。周囲からの視線が、痛い。特に男子からの殺気のような視線が、背中に刺さる。
「あー、もう……」
俺は、小さく息を吐きながら、川瀬に引っ張られるまま、教室に向かった。
教室に入ると、柊が既に席に座っていて、俺を見てニヤニヤしている。
「おはよう、裕一。今日も順調だな」
「うるさい」
俺は、柊の言葉を無視して、自分の席に座る。川瀬は、まだ俺の腕を離さない。
「ねぇ、八杉っち。土曜日、どこ行きたい?」
「どこって……お前が決めるんじゃないのか?」
「えー、でも八杉っちの行きたい場所がいいじゃん。デートなんだから」
「だからデートじゃねぇって!」
俺の反論に、川瀬はクスクスと笑う。その笑い声は、どこまでも楽しそうで、俺は少しだけ心が和んだ。
でも、すぐに我に返る。これは、まずい。足立さんとも約束したし、銀咲にも「一緒に遊ぼう」と言われた。そして今度は、川瀬とも約束してしまった。
神行は、もう既に俺の家に勝手に来るし。
四皇全員と、何らかの形で約束してしまっている。
「……俺、どうなるんだ」
俺は、小さく呟いた。
柊は、隣で相変わらずニヤニヤしている。
「裕一、お前本当にモテモテだな。羨ましいよ」
「羨ましくねぇよ。マジで面倒くさいんだ」
俺の言葉に、柊は笑う。でも、その笑い声は、どこか同情しているようにも聞こえた。
「まぁ、頑張れよ。お前なら、きっと上手くやれるさ」
「上手くやれるわけねぇだろ……」
俺は、頭を抱える。
恋愛から距離を置くと決めたはずなのに。
なんで、こんなことになってるんだ。
そう思いながら、俺は朝のホームルームが始まるのを待った。
教室には、徐々に生徒が増えてきている。その中に、神行と銀咲、足立さんの姿も見えた。
神行は、俺と目が合うと、嬉しそうに手を振ってくる。銀咲は、俺と川瀬が一緒にいるのを見て、少し眉をひそめる。足立さんは、優しく微笑んでいる。
四皇全員が、俺のことを見ている。
「……マジで、どうなるんだこれ」
俺は、小さく呟きながら、天井を見上げた。
今日も、長い一日になりそうだった。
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