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SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級美少女たちの攻防戦〜  作者: 沢田美


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3/7

恋はアニメの後で

 放課後になり、俺はそのまま柊と共にアニメイトに向かっていた。うちの住む地域は田舎でも都会と言うには分からない程度――まぁ真ん中辺りのレベルだ。畑もちょくちょくあるし、でも住宅街もそこそこある。


 アニメイトなんて、学校から少し離れた場所にあるが別に遠い訳じゃない。徒歩で二十分ほど。道中、コンビニやファミレスが点在している程度の、よくある地方都市の風景だ。


 それにしても今日は神行に少し言い過ぎたかもしれないな。あの寂しそうな表情が、どうも頭から離れない。明日、ジュースでも奢って許してもらうか。いや、ジュースじゃ安すぎるか? でも高いものを奢ると、それはそれで変な期待をさせてしまう気がする。


 そんな考えを巡らせていると、隣でアニメコーナーを見ている柊が口を開いた。


「なぁ、どうして裕一はあの四皇を前にして、平然としていられるんだ? 普通の男子なら目に鱗が出るほどに喜ぶだろ」


 漫画を手に取り、裏に書かれているあらすじを見ながら柊は呟く。その声には、純粋な疑問と、ほんの少しの羨望が混じっていた。


「お前なぁ? 今日も言ったけどよ。あの四人は俺にとって荷が重すぎるんだよ。それに、神行とか川瀬は特に。それに比べて銀咲と足立とかはまだ軽い方だけどな」


 俺がそう呟きながら、棚に並べられた漫画を手に取ろうとした時だった。


「あれ? 八杉くんと柊くん?」


 おっとりとした雰囲気が、男だけの俺と柊の質素な空気を塗り替える。瞬時に俺は視線を横に向けた。すると、そこに居たのは足立さんだった。彼女の放つ存在感は落ち着いているが、それが男どもの視線を夢中にさせない訳がない。


 おしとやかでおっとりとした口調に、周りの男どもが足立さんに視線を向けている。アニメイトという聖域で、突如現れた女神。店内の空気が、明らかに変わった。ざわめきが静かに広がり、何人かの客がスマホを取り出そうとしている。


 やべぇ、面倒なことになりそうだ。俺は内心で舌打ちする。


「な、なんで足立さんがここに?」


 俺の質問を代弁するように柊が口を開いた。その声は若干上ずっている。無理もない。四皇の一人が、まさかこんな場所に現れるとは思わないだろう。


 すると、足立さんは俺の隣に立ち、とある漫画本に手を伸ばした。その動きがどこか流暢で品のある立ち振る舞いに見える。まるで美術館で絵画を鑑賞しているかのような、優雅な所作。こんな場所でも、彼女の女神オーラは全く衰えない。


「ちょっと最近ハマってる漫画作品の新刊が出たからそれを買いに来たの」


「へぇー、足立さんも漫画読むんだね」


 柊の言葉に、俺も内心驚いていた。足立楪という存在は、どこか現実離れしている。まるで絵画の中から抜け出してきたような美しさと雰囲気。そんな彼女が、漫画を読むという行為をするのが、どこか不思議だった。


「うん読むよ。特にこの作品はオススメだよ」


 彼女がそう言って、俺たちに見せてきたのはラブコメやファンタジーモノの漫画かと思いきや、実際に見せてきたのは、見るからに分かるホラー漫画だった。


 表紙には、禍々しい笑みを浮かべた少女の顔。背景は真っ黒で、タイトルには赤い文字で「人形の家」と書かれている。どう見ても、夜一人で読んだらトイレに行けなくなるタイプの作品だ。


「え……ホラー?」


「うん。この作品、心理描写がとても丁寧で、恐怖の演出も秀逸なの。特に三巻の『地下室の章』は、読んでいて本当に背筋が凍ったよ」


 足立さんは、まるで恋愛小説について語るかのように、嬉しそうにホラー漫画の魅力を語り始めた。その姿は、どこか子供のように純粋で、先ほどまでの女神のような雰囲気とは少し違う、親しみやすさを感じさせた。


「ま、マジか……」


 柊が引きつった笑みを浮かべる。俺も正直、驚きを隠せなかった。あの女神のような足立さんが、ホラー漫画好き。そのギャップは、あまりにも大きすぎる。意外性がありすぎて、逆に面白い。


「二人とも、ホラーは苦手?」


「いや、俺は結構好きだけど……」


「僕はちょっと苦手かな……」


 柊は正直に答える。対照的に、俺はホラー作品に対してそこまで抵抗はない。むしろ、心理的に追い詰められていく展開とか、伏線の回収とか、そういう要素が好きだったりする。


「そうなんだ。じゃあ八杉くんは、この作品読んでみる? 本当に面白いから」


 足立さんは、俺に向かって漫画を差し出す。その笑顔は、どこまでも優しく、断りづらい雰囲気を醸し出していた。


「あ、ああ……じゃあ、買ってみようかな」


 気づけば、俺はそう答えていた。別に恋愛感情とかじゃない。純粋に、ホラー漫画として興味があるだけだ。それに、断ったら空気が悪くなりそうだし。


「本当? 嬉しい。じゃあ、読み終わったら感想聞かせてね」


「わ、わかった」


 俺は慌てて視線を逸らす。別に動揺してるわけじゃない。ただ、周囲の視線が痛いだけだ。俺と足立さんが話しているだけで、周りの男どもからの殺気のような視線を感じる。


「あ、そうだ。八杉くん、もし良かったら……」


 足立さんが何かを言いかけた時、店内に新たな声が響いた。


「あー! やっぱり八杉っちだー!」


 その声に、俺は思わず身体を硬直させる。この声は……川瀬だ。振り向くと、オレンジ色の金髪をなびかせて、川瀬優里が小走りでこちらに向かってきていた。手には、いちごミルクのペットボトル。完全に川瀬のトレードマークだ。


「うわ、マジかよ……」


「裕一、お前の人気すごいな……」


 柊が呆れたように呟く。俺もそう思う。なんで放課後のアニメイトで、四皇のうち二人に遭遇しなきゃいけないんだ。確率的におかしいだろ。俺は何か悪いことでもしたのか。


「八杉っち、こんなとこで何してんの? あ、楪ちゃんもいるじゃん!」


 川瀬は俺の横に滑り込むように入ってくる。その距離、異常に近い。肩がぶつかるほどの距離で、甘い香水の匂いが鼻をくすぐる。俺は思わず一歩後ろに下がった。


「川瀬さんこそ、何してるの?」


「私? 私は新しいネイルシール探しに来たんだよー。あ、でもついでに漫画も見ようと思って」


 川瀬は自分の爪を見せてくる。確かに、可愛らしいデザインのネイルが施されている。ピンクとオレンジのグラデーションに、小さなラメが散りばめられている。


「へー、可愛いね」


「でしょでしょ? 八杉っち、私の爪可愛いって言ってくれたの初めてだよ! 嬉しい!」


 川瀬は満面の笑みを浮かべる。その笑顔は、太陽のように眩しくて、どこか神行に似ている気がした。いや、神行ほどグイグイ来ないだけマシか。でも、このテンションの高さは正直疲れる。


「あ、そうだ。八杉っち、楪ちゃん。二人とも今日これから暇? 良かったら一緒にカフェ行かない?」


 川瀬の提案に、俺は即座に断ろうとした。だが、その前に足立さんが口を開く。


「あ、あの……私は大丈夫だけど……」


「俺はちょっと……」


 俺が断ろうとした瞬間、川瀬が俺の腕を掴んだ。


「えー? ダメだよー! せっかくこうして会えたんだから、一緒に行こうよー!」


「いや、でも俺アニメイトに来たのは――」


「買い物なんてすぐ終わるでしょ? ね、ね、お願い!」


 川瀬は上目遣いで俺を見つめる。その瞳は、キラキラと輝いていて、断りづらい雰囲気を醸し出していた。いや、断る。ここで流されたら、また面倒なことになる。


「悪いけど、俺は――」


「あの……八杉くんが嫌じゃなければ、私も一緒に行きたいな」


 足立さんまでそう言い出す。その言葉に、俺は少し迷った。別に恋愛感情とかじゃない。ただ、さっき漫画を勧めてくれた恩もあるし、ここで断るのも悪い気がする。それに、柊も一緒だし、四人なら変な雰囲気にもならないだろう。


「……わかったよ。じゃあ、少しだけな」


「やったー! じゃあ早く買い物済ませちゃおうよ!」


 川瀬は嬉しそうに飛び跳ねる。その姿は、どこか子供っぽくて、見ているこっちまで疲れてくる。いや、疲れてる場合じゃない。俺はこれから、四皇のうち二人と一緒にカフェに行くことになってしまった。面倒なことになった。


「あ、柊くんも一緒に行こうよ!」


「え、僕も?」


「当然でしょ! 八杉くんの友達なんだから!」


 川瀬の言葉に、柊は戸惑いながらも頷く。その表情は、どこか羨ましそうで、でも同時に同情しているようにも見えた。お前にはこの苦労がわからないだろうな、と俺は心の中で呟く。


 結局、俺たちは手早く買い物を済ませて、店を出た。外はすでに夕方の気配が漂っていて、オレンジ色の光が街を照らしている。


「じゃあ、どこのカフェにする?」


「あ、駅前に新しいカフェできたんだよ! そこ行こうよ!」


 川瀬の提案に、俺たちは駅前へと向かうことになった。道中、川瀬と足立さんは楽しそうに話している。その光景は、まるで絵画のように美しくて、道行く人々が振り返っていた。俺と柊は完全に脇役だ。


 俺と柊は、二人の後ろを歩く。柊が小声で話しかけてきた。


「なぁ裕一、お前本当にすごいな。四皇のうち二人と一緒にカフェだぞ」


「うるさい。俺だって好きでこうなってる訳じゃねぇよ。マジで面倒だ」


「でも、悪くないだろ? 二人とも可愛いし、優しいし」


「それとこれとは別だ。俺は恋愛とか興味ないし、こういうのに巻き込まれるのが一番面倒なんだよ」


 俺は本音を吐き出す。確かに、足立さんも川瀬も、可愛いし優しい。それは認める。でも、それ以上に、俺には恋愛から距離を置きたいという気持ちがあった。去年の夏の記憶が、まだ心の奥底に残っている。あの痛みを、もう二度と味わいたくない。


「あ、八杉くん。ちょっと待って」


 足立さんが俺を呼び止める。振り返ると、彼女は少し困ったような表情を浮かべていた。


「どうしたの?」


「あの……さっき言いかけたことなんだけど」


 足立さんは、少し頬を赤らめながら続ける。


「もし良かったら、その漫画読み終わったら……一緒に続きの巻、買いに行かない?」


 その言葉に、俺は少し考える。これは、もしかして……いや、違う。ただ漫画仲間として誘ってるだけだろう。深読みする必要はない。


「あ、ああ……いいよ」


 気づけば、俺はそう答えていた。別に恋愛感情とかじゃない。純粋に、ホラー漫画について語れる相手がいるのは嬉しい。それだけだ。


「本当? 嬉しい。楽しみにしてるね」


 足立さんはそう言って、再び川瀬の隣に戻っていった。俺はその背中を見つめながら、小さく息を吐く。


「なぁ裕一、お前本当に何とも思ってないのか?」


 柊の言葉に、俺は即答する。


「当たり前だろ。俺はもう恋愛とか興味ないって言っただろ。ただの友達だよ、友達」


 その言葉は、柊に向けたものであると同時に、自分自身に言い聞かせるものでもあった。俺は恋愛から距離を置くと決めた。去年の夏の痛みを、もう二度と味わいたくない。だから俺は、この関係を友達以上にはしない。絶対に。


 駅前のカフェに到着すると、川瀬が嬉しそうに店内に入っていく。俺たちもそれに続いた。店内は、オシャレな内装で、若い客で賑わっていた。


「わー、可愛い! ここ良いね!」


 川瀬の声に、店内の客が一斉に振り返る。そして、川瀬と足立さんの姿を見て、ざわめきが起こった。当然だ。四皇のうち二人が、こんな場所に現れるなんて。俺と柊は完全に空気だ。


 俺たちは四人掛けの席に座った。俺の隣には足立さん、向かいには川瀬と柊。このメンバーで座ること自体、なんだか不思議な気分だった。というか、早く帰りたい。


「何飲む? 私はいちごミルクにしよっかな」


「僕はアイスコーヒーで」


「私は紅茶がいいな」


「じゃあ俺もアイスコーヒーで」


 注文を終えると、川瀬が話題を振ってきた。


「ねぇねぇ、八杉っちって普段何して遊んでるの?」


「普段? まぁ、アニメ見たり、ゲームしたり……」


「へー、オタクなんだ。意外ー」


 川瀬の言葉に、俺は少しムッとする。意外って何だよ。


「でも、それって楽しそう! 私もアニメとか見てみたいな」


「え、マジで?」


「うん! 八杉っち、今度オススメのアニメ教えてよ!」


 川瀬の純粋な笑顔に、俺は少し驚く。一万年に一人の美少女が、アニメに興味を持つなんて。まぁ、別に教えるくらいなら構わないか。


「あ、私も教えてほしいな。実は私も、アニメ見るの好きなんだ」


 足立さんまでそう言い出す。その言葉に、俺はさらに驚いた。ホラー漫画だけじゃなく、アニメも見るのか。意外と趣味が合うかもしれない。


「マジか……じゃあ、今度オススメ教えるよ」


「やった! 楽しみにしてる!」


 川瀬と足立さんは、嬉しそうに笑う。その笑顔を見ていると、まぁ、悪くはないかな、と少しだけ思った。


 別に恋愛感情とかじゃない。ただ、趣味が合う友達ができるのは嬉しい。それだけだ。


 俺はアイスコーヒーを一口飲んだ。冷たい液体が喉を通り、少しだけ頭が冷えた気がした。


 そう、これはただの友達関係だ。恋愛とは無縁の、健全な友人関係。俺はそう自分に言い聞かせながら、カフェでの時間を過ごした。


 でも、その考えが甘かったことに、俺が気づくのはもう少し先の話だった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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