SSS級の誘い。それって告白?
四皇の四人を勉強会に誘った。今週の土曜日に行われる勉強会――多分いや、きっと修羅の地になるのは確定している。ため息が勝手に漏れる。神行とか銀咲、足立さんはいつもの様子だが、川瀬だけ少し変わった様子だ。
川瀬は、いつもの明るさで友達と談笑しているが、時々、俺の方を見る。その視線には、何か言いたげな感情が込められている。でも、すぐに視線を逸らす。その仕草が、どこか切ない。
川瀬に関してはあれでいい終わり方だと思っている。川瀬には川瀬に見合う男が必ずいる――それは決して俺じゃなくて、他にもっと。それに偽りの恋人を続けてたっていい事ばかりじゃない。川瀬との偽りの恋人期間中"四皇ファングループ"で俺が指名手配になっていたと柊から聞いた。
てか怖すぎるだろ。この学校にそんなものがあることにも怖いし、それで俺が指名手配になるのがもう怖すぎてたまらない。四皇ファングループ。その名前だけで、背筋が凍る。どんな恐ろしい集団なんだ。
昼休みになり、あの時のように柊と食べることにした。川瀬と偽の恋人期間中は川瀬や神行と昼を取ることが増えていたから、柊と昼を取れるのはどこか心の安心感がある。柊といると、気を遣わなくていい。アニメやゲームの話で盛り上がれる。それが、心地よい。
俺は、弁当を広げる。姉が作ってくれた弁当だ。おにぎりと唐揚げ、卵焼き。シンプルだけど、美味しい。
「なぁ、柊。今度おすすめのアニメ教えてくれないか? バトル系のアニメとかもう見尽くしたからさ」
俺がスマホをいじりながらそう言うと、柊は「いいぜ」と言って、俺の席に体を向ける。
「それより、お前。好きな人とかいねぇの?」
柊が俺の何かを探るような感じで問いかけてくる。その視線は、どこか真剣だ。
俺は「はぁ」とため息をついて、めんどくさいと思いながら「いねぇよ」と言った。
それを聞いていた柊は「本当かよ」と呟きながら、俺の席で弁当のおかずを食べ始める。そのおかずは、俺の唐揚げだ。
「おい、それ俺の唐揚げだぞ」
「いいだろ、減るもんじゃねぇし」
柊は、ニヤリと笑いながら、俺の唐揚げを食べる。
そんな時だった。女神のような神格級のオーラが近づいてきた。それを放てるものはきっと彼女だけ。
俺は、そのオーラの方を見る。
「足立さん、どうした?」
そこに居たのは、どこか何かを決意に満ちた顔をしている足立さんがいた。彼女の顔はいつどこから見ても"美しい"かつ"女神"だ。茶色の髪が、光に照らされて、どこか神々しい。その瞳は、どこまでも優しくて、でも今日はどこか真剣だ。
だが! 俺はその耐性を着々と得ていた! そう! 俺の頭上の法陣をガコンさせるのだ! そう俺の"究極の恋愛耐性"が持つ、あらゆる恋愛事象に適応する最強の後出し虫拳! ガコン。適応は一回の回転で済んだ。
俺はいつものように足立さんを見つめた。すると、彼女は目を俺にだけ向けて「あ、あの」と言葉を走らせた。その声は、少し震えている。
「今日良かったら、放課後一緒に帰れませんか? お話したいことがあるので」
足立さんのその言葉、教室――いや学校中の時が止まったような気がした。教室中の視線が、一斉に俺と足立さんに集中する。周囲の生徒たちが、息を呑む音が聞こえる。
柊もボーッと情報が完結しないような顔をしている。その表情は、明らかに驚いている。口を半開きにして、俺と足立さんを交互に見ている。
俺も同様の現象に陥っていたが、すぐに正気に戻った。
「あ、ああ、まぁいいけど……」
俺がそう言うと、柊もようやく情報を完結させたのか、俺に視線を向けた。それは「マジか!?」とでもいいたげな顔だ。その目は、どこまでも驚いている。
そして、足立さんは「ありがとうございます!」と言って、嬉しそうに俺たちから去っていった。その背中は、どこか軽やかだ。
――瞬間、降り注がれる俺への敵意の視線=男子からの視線。教室中の男子生徒が、俺を睨みつけている。その視線は、もはや殺気に近い。
俺は身の危険を感じながらも、そのままその日を過ごすことにした。昼休みが終わった直前、柊からは「告白されるんじゃね?」と呟いていたがそれはないだろう。いや、ありえるのか? ここ最近の四皇達の動向を見ていてそんな疑問が少しだけよぎった。
神行の積極的なアプローチ。銀咲の優しさ。川瀬の言いかけた言葉。そして、足立さんの今日の誘い。
まさか、告白?
いや、ありえない。足立さんは、ただ相談事があるだけだろう。勉強会のこととか、そういう話だ。絶対にそうだ。
俺はそんなことを考えながら、放課後になるのを待つように、授業に半分集中しながら、勉強を続けた。
でも、心の奥底では、少しだけドキドキしている自分がいた。その事実を、俺は認めたくなかった。
午後の授業は、全く頭に入ってこなかった。数学の先生が何を言っているのか、全く理解できない。黒板に書かれた数式が、まるで暗号のように見える。
時計を何度も見る。時間が、異常に遅く感じる。早く放課後にならないか。いや、放課後になったら、足立さんと二人きりになる。それが、不安でもあり、期待でもあり。
いや、期待なんかしてない。ただ、どんな話をされるのか気になるだけだ。
そして、ついに放課後になる。
チャイムが鳴る。その音が、いつもより大きく聞こえる。
周囲の生徒たちが、帰り支度を始める。部活に向かう生徒、友達と遊びに行く生徒、それぞれが思い思いに過ごしている。
俺は、ゆっくりとカバンに教科書を詰め込む。その手は、少し震えている。
柊が、俺の肩を叩く。
「頑張れよ、裕一」
柊の声には、応援の気持ちが込められている。
「何を頑張るんだよ……」
俺は、素っ気なく答える。
「まぁ、告白されても、ちゃんと答えてやれよ」
柊の言葉に、俺は少しだけムッとする。
「告白じゃないって」
「そうかー?」
柊は、ニヤリと笑って、教室を出ていく。
俺は、一人残される。
そして、足立さんが、俺の席に近づいてくる。
「八杉くん、準備できた?」
足立さんの声は、どこまでも優しい。
「ああ、できた」
俺は、カバンを肩にかけて、立ち上がる。
俺たちは、教室を出て、廊下を歩く。周囲の生徒たちが、俺たちを見て、小声で囁き合っている。
「あれ、足立さんと八杉……」
「二人きりで帰るの?」
「まさか、告白?」
そんな声が、廊下に響く。俺は、少しだけ恥ずかしくなる。
俺たちは、下駄箱で上履きから靴に履き替えて、校門を出る。
夕日が、街をオレンジ色に染めている。その光が、俺たちを照らしている。
俺たちは、並んで歩く。足立さんは、少し緊張した様子で、俺の隣を歩いている。
しばらく、無言で歩く。その沈黙が、どこか重い。
そして、足立さんが口を開く。
「あのね、八杉くん。今日お願いがあって……」
足立さんの声は、少し震えている。その表情は、どこか真剣だ。
俺は、心臓が早鐘を打つのを感じる。これが、告白なのか?
「実は、『人形の家』の最新巻が今日発売されたの。それを買いに行きたいんだけど、一人で行くのはちょっと怖くて……」
足立さんの言葉に、俺は思わず固まる。
「え?」
「だから、八杉くんに付き添ってほしいなって思って……」
足立さんは、少し照れくさそうに言う。
『人形の家』? あの前に足立さんと一緒に買ったホラー漫画か。告白じゃないのか?
俺は、少しだけ拍子抜けする。でも、同時に、少しだけホッとする。
「あ、ああ……そういうことか」
「うん。ごめんね、変なお願いして」
足立さんは、申し訳なさそうに言う。
「いや、全然いいよ。むしろ、俺も『人形の家』の続き気になってたから、一緒に見たいかも」
俺の言葉に、足立さんの表情がパッと明るくなる。
「本当!? 嬉しい! 八杉くんも『人形の家』の続き気になってたんだ!」
足立さんは、満面の笑みを浮かべる。その笑顔は、どこまでも可愛らしい。
「ああ、前に足立さんと買ってから、ハマったんだよ。前の巻も面白かったし」
「そうなの!? じゃあ、話が合うね!」
足立さんは、嬉しそうに言う。
俺たちは、本屋に向かって歩く。
道中、足立さんは色々な話をしてくる。『人形の家』の前巻の展開のこと、好きなキャラクターのこと、次巻の予想。その話は、どれも楽しそうで、足立さんの情熱が伝わってくる。
「八杉くんは、誰が犯人だと思う?」
足立さんが、尋ねる。
「俺は、あの執事が怪しいと思うんだけど」
「わかる! 私もそう思った! でも、もしかしたらミスリードかも」
足立さんは、嬉しそうに言う。
俺たちは、本屋に到着する。
店内に入ると、足立さんはすぐにホラー漫画のコーナーに向かう。その姿は、まるで子供のように無邪気だ。
「あ、あった! これこれ!」
足立さんは、嬉しそうに『人形の家』の最新巻を手に取る。
「やっと出た! 早く読みたい!」
足立さんの目は、キラキラと輝いている。
俺も、その漫画を手に取る。表紙には、不気味な洋館と、その中に立つ少女の絵が描かれている。
「面白そうだな」
「でしょ! 八杉くんも買う?」
「ああ、買おうかな」
俺たちは、レジで会計を済ませる。
店を出ると、夕日がさらに傾いている。空は、オレンジ色から徐々に紫色に変わっていく。
「ありがとう、八杉くん。付き合ってくれて」
足立さんは、嬉しそうに言う。
「いや、俺も楽しかったよ」
俺は、素直に答える。
俺たちは、足立さんの家に向かって歩く。
しばらく、無言で歩く。でも、その沈黙は、心地よい。
そして、足立さんが口を開く。
「ねぇ、八杉くん」
「ん?」
「川瀬さんとは、もう偽の恋人関係、終わったんだよね?」
足立さんの質問に、俺は少しだけ驚く。
「ああ……足立さんも知ってたんだ」
「うん。優里ちゃんから聞いてた。ストーカー問題、解決したもんね」
「ああ、そうだ。だから、もう偽の恋人関係も終わらせた」
俺の言葉に、足立さんはしばらく黙っている。
そして、小さく微笑む。
「そっか。八杉くんって、優しいね」
足立さんの言葉に、俺は少しだけ照れくさくなる。
「優しくなんかないよ」
「でも、優里ちゃんを助けようとしたんでしょ? それって、優しさだと思う」
足立さんは、優しく言う。その瞳は、どこまでも真剣だ。
俺は、何も答えられない。
そして、足立さんの家に到着する。
「じゃあ、ここで」
「ああ、気をつけて」
俺は、足立さんに言う。
足立さんは、少しの間俺を見つめた後、小さく微笑む。
「八杉くん、今日は本当にありがとう。すごく楽しかった」
足立さんの言葉に、俺は少しだけ胸が温かくなる。
「俺も楽しかったよ」
俺は、素直に答える。
足立さんは、少しだけ頬を赤らめて、家の中に入っていく。
でも、玄関のドアを開ける前に、もう一度振り返る。
「ねぇ、八杉くん」
「ん?」
「もし良かったら、また一緒に本屋、行きたいな。次の巻が出た時とか……」
足立さんの言葉に、俺は少しだけ驚く。その言葉には、何か特別な意味が込められているような気がした。
「ああ、いつでも」
俺の言葉に、足立さんは満面の笑みを浮かべる。その笑顔は、夕日に照らされて、どこまでも美しい。
「ありがとう。じゃあ、また明日ね」
「ああ、また明日」
足立さんは、家の中に入っていく。
その背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。
今日は、告白じゃなかった。
ただ、『人形の家』の最新巻を買いに行くだけだった。
でも、足立さんと一緒に過ごした時間は、楽しかった。
足立さんの笑顔。足立さんの嬉しそうな表情。足立さんの優しい言葉。
その全てが、俺の心に残っている。
そして、足立さんの最後の言葉。「また一緒に本屋、行きたいな」
その言葉には、何か別の意味が込められているような気がした。
足立さんは、俺に好意を持っているのだろうか。
いや、そんなわけない。ただの友達だ。
俺はそう自分に言い聞かせながら、家に向かって歩いた。
でも、心の奥底では、少しだけドキドキしている自分がいた。
その事実に、俺はまだ気づかないふりをしていた。
夕日が、街をオレンジ色に染めている。
その光は、どこまでも優しくて、でもどこか儚い。
俺の青春は、また少しだけ前に進んだ。
そして、俺の心も、また少しだけ揺らいでいた。
足立さんとの時間が、俺の心に、小さな変化をもたらしていた。
その変化が、いつか大きなものになる。
そう予感しながら、俺は夜道を歩き続けた。
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