一人で立ち向かう勇気
俺の初恋は既に終わっている。それは去年の夏に思いを告げて花火のように爆散して散った。
夏祭りの夜、浴衣姿の彼女に告白して、優しく断られた。「ごめんね、八杉くん。でも、友達としてこれからも仲良くしたいな」というその言葉は今でも耳に残っている。あの日から、俺は恋愛から距離を置くことを決めた。
それはそうと今日も優里の彼氏を演じなきゃいけない。最初は嫌な気持ちがあったが、今はそんな気持ちはない。優里といると、不思議と楽しい。昨日のカフェでの時間も、思い出すと少しだけ顔が緩む。
でも、これは友達としての感情だ。恋愛感情じゃない。そう、絶対に違う。
「おはよう、裕一」
「うっす」
柊が俺を見るなり、手を振って挨拶をする。そして、俺と柊はアニメの話とゲームの話に花を咲かせた。やっぱり一番話すと落ち着くのは柊だな。もしかしたら、俺のヒロインは柊なのかもしれない。――何言ってんだ俺は。
「なぁ、お前、最近川瀬さんとはどうなんだよ。付き合ってるんだろ?」
柊が、ニヤニヤしながら尋ねる。その表情は、どこまでも楽しそうだ。
そっか、コイツには俺と優里が偽りの恋仲だということを知らないのか。まぁ柊に真実を伝えるのは後々でいいか。それより今は優里の状況をどうにかしなきゃな。
佐藤先輩のストーカー行為は、日に日にエスカレートしている。銀咲からの報告によると、昨日も学校の周りをうろついていたらしい。このままでは、本当に危険だ。
そんなことを考えていた時、廊下から優里の悲鳴に近い声が聞こえた。それはどこか恐怖に包まれていて、明らかに助けを求めるような声だ。その後に聞こえてきたのは、佐藤の声だ。
俺の心臓が、一気に高鳴る。まずい。
俺は咄嗟に教室から廊下に出た。柊も、俺の後を追ってくる。廊下には、既に多くの生徒が集まっていて、ざわめいている。
そして、俺の目線の先にあった光景は、佐藤が優里の手首をガッチリと掴んでいる光景だった。
優里の表情は、恐怖でいっぱいだ。その瞳には、涙が浮かんでいる。必死に佐藤の手を振り払おうとしているが、佐藤の力は強く、優里は逃げられない。
「何叫んでんだよ。ちょっと付き合えって言ってるだけだろ」
佐藤の声は、低くて威圧的だ。その表情は、明らかに不満そうだ。
「離して! お願い、離して!」
優里の声は、震えている。その表情は、どこまでも怯えている。
周りの生徒がザワザワとざわつく中で、俺はその人ごみを掻き分けて、佐藤と優里の間に割って入った。
「おい! 先輩。それは少しやりすぎじゃないですか?」
そう言って俺は佐藤の手首を掴み、優里から引き剥がした。佐藤の手首は、思ったよりも太くて、硬い。でも、俺は力を込めて、優里を解放する。
「あぁん? テメェには関係ないだろ!」
佐藤は、怒りの表情で俺を睨みつける。その視線は、もはや殺意に近い。
「――ある。優里は俺の彼女で、優里の彼氏は俺だ」
優里の涙ぐんだ目線が俺に向けられる。その瞳は、どこまでも不安そうだ。俺は鋭い視線を佐藤に向けたまま、野郎の手首を強く握りしめる。
「どんな理由があろうとな、俺の女に手をつけられるのは困るぞ」
強く、そして、これは優里にとって"偽の恋人"としての責務を全うするために俺はそのままの気持ちを言葉にした。それと同時に俺の手に力がさらに強くなる。佐藤の手首を、さらに強く握る。
さすがの佐藤もそれに痛がり、俺の手を振りほどき距離をとる。その表情は、完全に怒りに満ちている。
「テメェ……覚えてろよ……」
佐藤は、そう言って俺を睨みつける。
「おい! 何があった!」
教師が優里の悲鳴に駆けつけて来てくれた。担任の先生だ。その表情は、どこまでも真剣だ。
それを見た佐藤は部が悪そうに舌打ちをして去っていった。その背中は、どこまでも不満そうだ。でも、何度も振り返って、優里と俺を睨みつけている。
ここまで来ると、もはや話し合いじゃケリがつきそうにないな。
でも、これを解決するには"俺だけの力"だけじゃ足りないな。"優里自身が解決する"物事もある。それは警察に言うとかそういうのじゃなくてもっと強く佐藤を拒絶するようなことをさせることだ。
警察に頼ったとしても、それには時間がかかる。証拠を集めて、被害届を出して、警察が動いて……その間に、佐藤がさらにエスカレートする可能性もある。
じゃあ俺がすることはまず"川瀬優里が強く佐藤を拒ませること"だ。これは俺だけが一人で解決するべきことじゃない。優里自身が、佐藤に立ち向かう勇気を持つこと。それが、一番大切だ。
優里は、俺の後ろで小刻みに震えている。その手は、俺の服を後ろから掴んでいる。
「大丈夫か、優里?」
俺は、優里の方を向く。優里の表情は、どこまでも怯えている。
「う、うん……ありがとう、八杉っち……」
優里の声は、小さくて震えている。
担任の先生が、俺たちに近づいてくる。
「川瀬さん、大丈夫か? 何があったんだ?」
「あの……二年生の佐藤先輩が……」
優里は、震えながら説明する。担任の先生は、真剣な表情で聞いている。
「わかった。すぐに学年主任に報告する。川瀬さん、保健室で休んでいなさい。八杉、川瀬さんを保健室まで連れて行ってくれ」
「はい」
俺は、優里の肩を優しく抱いて、保健室に向かう。廊下を歩く生徒たちが、俺たちを見て小声で囁き合っている。でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
保健室に着くと、保健の先生が心配そうな顔で迎えてくれた。
「どうしたの? 川瀬さん、顔色悪いわよ」
「少し、トラブルがあって……」
俺は、簡単に説明する。保健の先生は、優里をベッドに横にならせてくれた。
「少し休んでいなさい。何かあったら、すぐに呼んでね」
保健の先生は、そう言って去っていく。
俺は、優里のベッドの横に椅子を置いて座る。優里は、ベッドに横になりながら、じっと天井を見つめている。
「優里」
俺は、優里に話しかける。
「ん……」
優里は、小さく返事をする。
「今日のこと、ちゃんと先生に報告しような。それから、警察にも相談した方がいい」
俺の言葉に、優里は小さく頷く。
「でも、それだけじゃ足りないと思う」
俺は、続ける。
「優里自身が、佐藤先輩に立ち向かう勇気を持つことが大切だ」
俺の言葉に、優里は少し驚いたような表情を浮かべる。
「立ち向かうって……どうやって?」
「強く拒絶するんだ。はっきりと、『あなたのことは好きになれない。もう二度と関わらないでください』って言う」
俺の言葉に、優里は少しだけ不安そうな表情を浮かべる。
「でも……怖い……」
「俺がいる。それに、銀咲も、神行も、足立さんもいる。みんなが、優里を守る」
俺は、優里に言う。
優里は、しばらく黙っていたが、やがて小さく頷く。
「……わかった。頑張ってみる」
優里の声は、まだ震えているが、でもどこか決意が感じられる。
「それでいい」
俺は、優里に言う。
そして、俺は優里の手を握る。その手は、小刻みに震えている。
「大丈夫だ。一人じゃない。みんながいる」
俺の言葉に、優里は少しだけ安心したような表情を浮かべる。
「ありがとう、八杉っち……」
優里は、小さく微笑む。
しばらくして、担任の先生が保健室に来た。
「川瀬さん、学年主任に報告した。それから、警察にも連絡することにした。佐藤のことは、学校としても厳重に対処する」
担任の先生の言葉に、優里は少しだけホッとしたような表情を浮かべる。
「ありがとうございます……」
「それから、川瀬さん。もし何かあったら、すぐに先生に言ってね。一人で抱え込まないで」
「はい……」
優里は、小さく頷く。
担任の先生は、それを聞いて満足そうに頷いて、保健室を出ていく。
俺は、優里の方を向く。
「優里、これから一緒に頑張ろう。佐藤先輩に、はっきりと拒絶する。それで、この問題を終わらせる」
俺の言葉に、優里は小さく頷く。
「うん。頑張る。八杉っちが一緒にいてくれるから、私、頑張れる」
優里の声は、まだ震えているが、でもどこか強さが感じられる。
俺は、優里の手を握りしめる。
「大丈夫だ。俺が守る」
俺は、そう決意した。
そして、優里自身が、佐藤先輩に立ち向かう勇気を持てるように、サポートする。
これは、優里自身が乗り越えなければならない壁だ。
でも、一人じゃない。
俺がいる。
みんながいる。
だから、大丈夫だ。
俺は、そう信じていた。
そして、放課後。
俺は、銀咲、神行、足立さんを呼び出して、今日のことを説明した。
「そんなことがあったの……」
足立さんが、心配そうに言う。
「許せない……」
銀咲が、怒りの表情で言う。
「優里ちゃん、大丈夫!?」
神行が、心配そうに言う。
「ああ、今は保健室で休んでる。でも、これからが大切だ」
俺は、三人に言う。
「優里自身が、佐藤先輩に立ち向かう勇気を持つこと。それが、一番大切だ」
俺の言葉に、三人は真剣な表情で頷く。
「わかったわ。私たちも、できる限り協力する」
銀咲が、言う。
「うん! 優里ちゃんを守るために、みんなで頑張ろう!」
神行が、元気よく言う。
「私も、優里ちゃんのために、できることをする」
足立さんが、優しく言う。
俺は、三人の言葉を聞いて、少しだけ安心する。
一人じゃない。
みんながいる。
だから、優里を守れる。
俺は、そう信じていた。
そして、これから、優里が佐藤先輩に立ち向かうためのサポートを始める。
優里が、自分自身の力で、この問題を乗り越えられるように。
俺は、そう決意した。
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