SSS級のストーカー②
放課後、普通はいつも一人で帰るはずなのに、俺は優里と共に下校していた。隣には優里が居て、どこか楽しそうな反面、どこか不安そうな顔をしている。
夕日が、街をオレンジ色に染めている。学校から駅に向かう道は、いつもなら他の生徒たちで賑わっているはずだが、今日はなぜか人通りが少ない。その静けさが、どこか不気味だ。
優里は、時々後ろを振り返りながら歩いている。その仕草から、明らかに怯えているのがわかる。
まぁそりゃそうか、ストーカーまがいの被害にあっているのなら、不安になるのは仕方ないことだ。俺だって、あの佐藤の執念深い視線を思い出すと、背筋がゾッとする。
「ねぇ、八杉っち。本当にありがとね」
優里が安心したように俺の腕に寄りかかる。その行動に俺の心臓が少しキュッとなるが、これはきっと恋愛から来るものではない――はず。ただ、友達として心配してるだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。
優里の体温が、俺の腕を通して伝わってくる。その温もりは、どこか安心感を与えてくれる。いや、違う。俺が優里を守らなければならないんだ。
そんな時、俺たちの前にあの見覚えのある男が現れる。
佐藤だ。
夕日を背にして、佐藤が立っている。その姿は、まるで俺たちを待ち伏せていたかのようだ。その表情は、どこまでも不快そうで、俺たちを睨みつけている。
その男を見た優里は俺の後ろに隠れ、俺は咄嗟に前に出た。優里の手が、俺の服を後ろから掴んでいる。その手は、小刻みに震えている。
「佐藤先輩……って言った方がいいですよね?」
俺は、できるだけ冷静に言う。ここで感情的になったら、逆効果だ。でも、心臓は早鐘を打っている。
「あぁ? テメェなんかに"先輩"呼ばわりされる筋合いはねぇな」
佐藤は鋭い眼光で俺を睨みつける。その声は、低くて威圧的だ。そして、一歩、また一歩と、俺たちに近づいてくる。
そして、俺の脳裏にふと優里との出会いの過去がよぎる。あの日、優里は不良に絡まれていた。不良に――その不良の一人の顔が佐藤と酷似している。
入学式の日。桜並木の下で、優里は二人の不良に絡まれていた。あの時、俺は正義感から、優里を助けた。そして、その不良を追い払った。
あの時の不良の一人が、佐藤だったのか?
「先輩……もしかして、入学式の日に優里に絡んでた――不良ですか?」
俺の言葉に、佐藤の表情が変わる。その目は、明らかに怒りを帯びている。
「ああ、そうだよ。あの時のことは忘れてねぇ。テメェに恥かかされたからな」
佐藤は、ニヤリと笑う。その笑顔は、どこまでも不快だ。
「あの時、優里を助けたのはテメェだったのか。まぁ、いいけどよ。でも、あの日からだよ。俺が優里に惚れたのは」
佐藤の言葉に、優里の手が、さらに強く俺の服を掴む。
「あの日、優里の困った顔を見て、守ってやりたいって思ったんだよ。でも、テメェに邪魔されて、チャンスを逃した」
佐藤は、優里の方を見る。その視線は、どこまでも執念深い。
「それからだよ。俺は優里のことが気になって、気になって仕方なくなった。学校でも、家でも、ずっと優里のことを考えてた」
佐藤の言葉は、どんどんエスカレートしていく。その口調は、どこか異常だ。
「だから、俺は優里に告白した。でも、断られた。なんでだよ? 俺のどこが悪いんだ?」
佐藤の声は、どんどん大きくなっていく。その表情は、明らかに不満そうだ。
「俺は、優里のこと本気で好きなんだ。だから、優里は俺のものになるべきなんだ」
佐藤の言葉に、俺は背筋が凍る。この男、完全に異常だ。
「優里は、誰のものでもない。優里自身のものだ」
俺は、冷静に言う。でも、心臓は早鐘を打っている。
佐藤は、俺の言葉を聞いて、舌打ちをする。
「チッ……綺麗事言いやがって。でも、テメェみたいな地味な奴が、優里と付き合ってるなんて信じられねぇんだよ」
佐藤は、一歩、また一歩と、俺たちに近づいてくる。その距離は、もう数メートルだ。
「だから、試させてもらうぜ。テメェが、本当に優里を守れるのか」
佐藤は、そう言って俺に向かって歩いてくる。その表情は、どこまでも挑発的だ。
俺は、優里を後ろに庇いながら、佐藤と対峙する。
「先輩、これ以上近づかないでください」
俺の声は、できるだけ冷静に、でも強く言う。
佐藤は、ニヤリと笑う。
「何だよ、ビビってんのか?」
「ビビってません。ただ、これ以上優里に近づくなら、俺も黙ってません」
俺の言葉に、佐藤の表情が変わる。その目は、明らかに怒りを帯びている。
「ほう、やる気か? いいぜ、かかってこいよ」
佐藤は、俺に向かって一歩踏み出す。
その瞬間、優里が俺の後ろから飛び出してくる。
「やめて! 佐藤さん、お願いだから、もうやめて!」
優里の声は、涙声だ。その表情は、どこまでも必死だ。
佐藤は、優里の声を聞いて、動きを止める。
「優里……」
「私、もう本当に無理なの。佐藤さんのこと、好きになれないの。だから、もうこれ以上付きまとわないで!」
優里の声は、どんどん大きくなっていく。その瞳には、涙が浮かんでいる。
佐藤は、しばらく優里を見つめた後、舌打ちをする。
「チッ……わかったよ。でも、優里。お前、絶対に後悔するぜ。こんな地味な奴より、俺の方がずっといい男だからな」
佐藤は、そう言って去っていく。その背中は、どこか不満そうだ。でも、何度も振り返って、優里を見つめている。
優里は、大きく息を吐く。そして、俺の胸に顔を埋める。
「怖かった……本当に、怖かった……」
優里の声は、震えている。その身体も、小刻みに震えている。
俺は、優里の背中を優しく撫でる。
「大丈夫だ。もう大丈夫だから」
俺は、優里に言う。
でも、心の中では、少しだけ不安だった。
あの佐藤という男、簡単には諦めなさそうだ。
その執念深い視線を思い出すと、背筋がゾッとする。
そして、あの言葉。「試させてもらうぜ」という言葉が、どこか引っかかる。
これから、どうなるんだろう。
俺は、優里を抱きしめながら、小さく息を吐いた。
夕日が、俺たちを照らしている。
その光は、どこまでも優しくて、でもどこか儚い。
俺は、優里を守る。
そう、改めて決意した。
たとえ、それがどんなに困難なことであっても。
優里は、しばらく俺の胸に顔を埋めていたが、やがて顔を上げる。
「ごめんね、八杉っち。こんなことに巻き込んじゃって……」
「気にするな。これも、偽の恋人の役目だろ」
俺は、優里に言う。
優里は、少し複雑な表情を浮かべる。
「偽の……恋人、か」
その言葉は、どこか寂しそうだった。
でも、すぐにいつもの明るい笑顔に戻る。
「じゃあ、帰ろっか。もう遅くなっちゃうし」
「ああ」
俺たちは、再び歩き始める。
でも、時々、後ろを振り返る。
佐藤が、まだどこかで見ているような気がするからだ。
そして、俺たちは、それぞれの家に帰った。
その夜、俺は布団の中で、今日のことを思い返していた。
佐藤のこと。優里のこと。そして、これからのこと。
面倒なことに巻き込まれた。
でも、優里を守りたい、という気持ちは本物だった。
それが、友達としての気持ちなのか、それとも……。
俺は、その答えを出すことを、まだ避けていた。
そして、眠りについた。
明日は、どんな日になるんだろう。
そんなことを考えながら、俺の意識は、ゆっくりと暗闇の中に沈んでいった。
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