沈黙したSSS級の四皇
「ね、ねぇ、八杉くん」
「ちょっと、八杉くん」
二限目の休み時間。
足立さんの優しい声と、銀咲の鋭い声が重なる。俺は同時に悟った――今日が命日であると。ああ、楽しかったな俺の人生。アニメも漫画も、まだ見たいものがたくさんあったのに。そんなことを思いながら、視線を二人に向けると、そこには未だに困惑顔でいる足立さんと、眉間に皺を寄せ、明らかに怒っている様子の銀咲がいた。
足立さんの表情は、いつもの穏やかな笑顔ではなく、どこか戸惑いと悲しみが混ざったような複雑な表情だ。その瞳は、少し潤んでいるように見える。
銀咲は、腕を組んで、じっと俺を睨んでいる。その視線は、もはや刃物のように鋭くて、俺は思わず身震いする。
仕方ない。ここで話したら余計に混乱を招くだけだな。教室中の視線が、俺たちに集まっている。このままでは、また変な噂が広まってしまう。
俺はため息をついて、席から立ち、四皇の二人に目線を送った。
「少し、屋上まできてくれないか?」
俺が言うと、二人は真剣な顔で頷く。そして、そのまま周りの視線を集めながらも、俺は教室を出た。出る際に柊からの心配の視線を感じたが、優里との関係を説明しなければ俺の寿命が縮むだけだ。柊は、小さく頷いて、「頑張れ」と口を動かした。
教室を出ると、廊下を歩く生徒たちが、俺たちを見て小声で囁き合っている。
「あれ、八杉と四皇の二人じゃない?」
「何の話するんだろ」
「もしかして、修羅場?」
そんな声が、廊下に響く。俺は、それを無視して、屋上に続く階段を上る。
屋上に続く階段を上る際、生徒たちの視線が集まるが、俺はそれを気にせずそのまま突き進む。背後からは、足立さんと銀咲の足音が聞こえる。二人とも、無言で俺についてきている。
扉を開けると、夏風の少しだけ蒸し暑い空気が流れる。七月の陽気は、もう完全に夏を感じさせる。青空が広がっていて、遠くで雲が流れている。
そして、俺の後に続くように銀咲と足立さんが着いてくる。二人とも、まだ無言だ。その沈黙が、どこか重い。
俺は、フェンスに寄りかかって、二人の方を向く。二人は、俺の前に立って、じっと俺を見つめている。
「それで本当なの? 優里と付き合ってる、って」
銀咲からの直球的な質問。その声は、どこまでも鋭くて、俺を問い詰めるような口調だ。
俺はそれを聞いて、ただ縦に頷いた。そうすると、二人は目を大きく見開き、足立さんはポカンとした様子で、銀咲は余計に怒りのオーラを纏う。
「そんな……」
足立さんが、小さく呟く。その声は、どこまでも悲しそうで、俺は少しだけ胸が痛んだ。
「八杉くん。私この前にも言ったわよね。晄を傷つけないで、って」
銀咲の声は、どこまでも厳しい。その瞳は、俺を睨みつけている。
その言葉を聞いて、俺はあの日の銀咲の言葉を思い出した。『晄は純粋な子だから』という言葉。そして、『もし晄を悲しませたら、貴方を許さない』という脅しのような忠告。
俺は思わず固唾を呑んだ。でも、この二人には隠す必要はないか。むしろ、この二人には本当のことを話した方がいい。
「いいから俺の話を聞け。優里と付き合ってるのは別にガチの恋人として付き合ってる訳じゃない」
俺がそう言った時、明らかに二人は困惑していた。足立さんは、首を傾げて、不思議そうな表情を浮かべている。銀咲は、眉をひそめて、俺の言葉の意味を理解しようとしている。
まぁそりゃそうだろう。『付き合ってるけど、ガチじゃない』なんて言われても、意味がわからないだろう。
でもこれは事実で嘘では無い。そして、俺は優里との今の関係性の詳細を説明した。優里がストーカーまがいの被害にあっていること、それの抑止力として俺と付き合っていることを。
「優里が、最近ある男子にしつこく付きまとわれてるんだ。告白を断ったのに、まだ諦めずに、家の近くまで来たり、学校でもずっと見られてるらしい」
俺の言葉に、二人の表情が変わる。足立さんは、驚いたように目を見開いて、口を手で覆う。銀咲は、怒りの表情から、心配そうな表情に変わる。
「それで、優里が俺に偽の恋人になってくれって頼んできたんだ。彼氏がいるって見せれば、そいつも諦めるだろうって」
俺は、続けて説明する。土曜日のアニメイトでのこと、トイレで優里に頼まれたこと、そして偽の恋人関係を受け入れたこと。
「だから、俺と優里は本当に付き合ってる訳じゃない。ただの演技だ」
俺の説明を聞いて、二人はしばらく沈黙する。
足立さんは、少しホッとしたような表情を浮かべる。でも、すぐに心配そうな表情に変わる。
「優里ちゃん、そんなことがあったんだ……知らなかった……」
足立さんの声は、どこまでも優しくて、心配そうだ。
銀咲も、複雑な表情を浮かべている。
「それで、貴方は優里を助けるために、偽の恋人になったのね」
「ああ、まぁ……そういうことだ」
俺は、少し照れくさそうに答える。別に、格好つけてるわけじゃない。ただ、困ってる奴を放っておけなかっただけだ。
銀咲は、しばらく俺を見つめた後、小さく息を吐く。
「……そう。それなら、仕方ないわね」
銀咲の声は、少し柔らかくなる。その表情は、さっきまでの怒りはなく、どこか安心したような表情だ。
「でも、八杉くん。晄のことは、ちゃんと説明した方がいいわよ。あの子、今朝からずっと落ち込んでるから」
銀咲の言葉に、俺は少しだけ胸が痛む。神行の悲しそうな顔が、頭に浮かぶ。
「ああ、わかってる。後で話すよ」
「本当に? 約束よ」
「ああ、約束する」
俺は、小さく頷く。
足立さんも、心配そうな表情で俺を見ている。
「八杉くん、優里ちゃんを助けてあげて、ありがとう。でも、無理しないでね。何かあったら、私たちにも相談して」
足立さんの優しい言葉に、俺は少しだけホッとする。
「ああ、ありがとう。足立さん」
足立さんは、優しく微笑む。でも、その笑顔は、どこか寂しそうにも見える。
「あの……八杉くん。一つだけ聞いてもいい?」
「何?」
「八杉くんは、優里ちゃんのこと……好きなの?」
足立さんの質問に、俺は少し驚く。その瞳は、どこまでも真剣で、俺の答えを待っている。
「いや、別に好きとかじゃない。ただの友達だよ」
俺は、即答する。その言葉は、本心だ。優里のことは、友達として大切に思っているが、それ以上の感情はない。
足立さんは、少しだけホッとしたような表情を浮かべる。
「そっか……良かった」
その言葉は、小さくて、でもはっきりと聞こえた。
銀咲も、少し複雑な表情を浮かべている。
「貴方、本当に鈍感ね」
「は?」
「何でもないわ。とにかく、晄にはちゃんと説明しなさい。じゃないと、あの子本当に落ち込んじゃうから」
銀咲は、そう言って屋上の扉に向かって歩き始める。
「あ、それから」
銀咲が、振り返る。
「優里のこと、ちゃんと守ってあげなさい。ストーカーなんて、エスカレートしたら本当に危険だから」
「ああ、わかってる」
俺は、小さく頷く。
銀咲は、それを聞いて満足そうに頷いて、屋上を出ていく。
足立さんも、俺の方を見て、優しく微笑む。
「八杉くん、頑張ってね。私も、できる限り協力するから」
「ああ、ありがとう」
足立さんも、屋上を出ていく。
俺は、一人残された屋上で、大きく息を吐いた。
「……疲れた」
でも、二人には本当のことを話せて、少しだけホッとした。
あとは、神行に説明しなければならない。
あの悲しそうな顔を思い出すと、胸が痛む。
でも、ちゃんと説明しなければ。
俺は、そう決意して、屋上を後にした。
教室に戻ると、柊が心配そうな顔で俺を迎えた。
「おい、大丈夫だったか?」
「ああ、まぁ……何とか」
俺は、小さく頷く。
「後で、詳しく話すよ」
「わかった」
柊は、それ以上何も聞かずに、頷いてくれた。
俺は、自分の席に座る。
神行は、自分の席で、じっとノートを見つめている。その表情は、どこまでも悲しそうで、俺は少しだけ胸が痛んだ。
昼休みに、ちゃんと話そう。
俺はそう決意して、授業が始まるのを待った。
でも、頭の中では、神行にどう説明すればいいのか、ずっと考えていた。
そして、三限目の授業が始まる。
俺は、全く授業に集中できなかった。
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