偽りのSSS級の恋人
アニメイトを探索し終えた俺たちは、そのままお昼を食べるために、近くのファミレスに向かっていた。
空は晴れ渡っていて、初夏の陽気が心地よい。週末の昼下がり、街は多くの人で賑わっている。カップルや家族連れ、友達同士で楽しそうに歩く人々。その中を、俺たち三人も歩いていく。
そして、さも当たり前のように川瀬――優里が俺の腕を絡めてくる。その感触は柔らかくて、甘い香水の匂いが鼻をくすぐる。優里の体温が、俺の腕を通して伝わってくる。
それを見た神行はムッとした顔をしていた。その表情は、普段の明るい神行からは想像できないほど、不機嫌そうだ。眉間にシワを寄せて、口を尖らせている。
最悪だ。もし神行に俺と優里が偽りとはいえ、彼氏彼女の恋仲になっていることを知られたら――絶対に面倒事になる。神行は幼馴染だから、俺のことを誰よりも知っている。そして、俺が嘘をついているかどうかも、すぐに見抜かれるだろう。
そんなことを思いながら、俺は少し優里から離れようとした。腕をゆっくりと引いて、距離を取ろうとする。――だが、それを許さぬように優里が俺の腕を強く掴む。その力は、思ったよりも強くて、俺は動けなくなる。
優里は、俺の方を見て、小さく首を振る。その瞳は、「演技を続けて」と訴えている。
俺は、小さく息を吐いて、諦める。仕方ない、これも優里を助けるためだ。
「ちょっとー! なんで二人ともそんなにくっついてるの!? カップルじゃないんだから! そんなにくっつかないでよ!」
神行がムスッとした声と顔で言う。その声は、どこか焦っているようで、でも怒っているようにも聞こえる。神行の表情は、完全に不機嫌そのもので、頬を膨らませている。その姿は、どこか子供っぽくて、普段の神行とは違う一面を見せている。
すると、優里は薄ら笑いを浮かべて、神行を挑発するような顔を浮かべる。その表情は、どこか悪戯っぽくて、明らかに神行の反応を楽しんでいる。
「それはどうかなー? もしかしたら、もう付き合ってたりして……?」
おいおいおい! コイツはさっきから何言ってるんだ。これ以上面倒事を増やすのはやめてくれよ! 俺は心の中で叫ぶが、もちろん優里には届かない。
優里は、ニヤニヤしながら俺の腕をさらに強く抱きしめる。その感触に、俺は少しドキッとするが、すぐに気持ちを落ち着かせる。これは演技だ。ただの演技。
それを聞いた神行が頬をさらに膨らませて、空いていた俺の片腕に抱きつく。当たってる! 柔らかいモノが当たってるから! それに周りの視線がめちゃくちゃ痛くて鋭い……。
道行く人々が、一斉に俺たちを見る。その視線は、羨望、嫉妬、驚き、様々な感情が混ざっている。特に男性からの視線は、もはや殺意に近い。「あのクソ野郎、何者だよ」「爆発しろ」という心の声が、はっきりと聞こえてきそうだ。
「私だって八杉くんの幼馴染なんだから! 優里ちゃんだけずるい!」
神行は、そう言って俺の腕にギュッとしがみつく。その力は、優里に負けないくらい強い。神行の体温が、俺の腕を通して伝わってくる。神行の甘い香りが、鼻をくすぐる。
「ずるいって何がー? 八杉っちは誰のものでもないでしょー?」
優里は、相変わらず挑発的な口調で言う。その表情は、どこまでも楽しそうで、明らかに神行の反応を楽しんでいる。
「それはそうだけど……でも!」
神行は、言葉に詰まる。その表情は、どこか悔しそうで、でも何と言えばいいのかわからない、という感じだ。
俺は、完全に板挟みになっている。両腕を、それぞれ四皇の二人に掴まれて、身動きが取れない。周囲からの視線は、もはや痛いを通り越して、刺さるような感覚だ。
「お、おい……お前ら、ちょっと離れてくれないか……周りが見てるぞ……」
俺は、小さな声で二人に言う。でも、二人は全く聞く耳を持たない。
「やだ!」
「私も嫌だもん!」
二人は、声を揃えて言う。その言葉に、俺は完全に諦める。もう、どうにでもなれ。
そして、俺たちは、そのままファミレスに到着した。店内に入ると、昼時ということもあって、かなりの混雑だ。家族連れやカップル、学生たちで賑わっている。
店員さんが、俺たちを見て少し驚いたような表情を浮かべる。おそらく、二人の美少女に挟まれた俺の姿が、異様に見えるのだろう。
「三名様ですか?」
「はい」
俺は、小さく頷く。店員さんは、俺たちを窓際の席に案内してくれた。
席に着くと、神行と優里は、それぞれ俺の両隣に座る。俺は、完全に挟まれた状態だ。
「メニューです。お決まりになりましたら、お呼びください」
店員さんは、そう言って去っていく。その背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。
「ねぇ、八杉くん。何食べる?」
神行が、メニューを見ながら尋ねる。その声は、さっきまでの不機嫌そうな感じはなく、いつもの明るい神行に戻っている。
「まぁ、ハンバーグでも食おうかな……」
「私も同じの!」
神行は、嬉しそうに言う。
「私は、パスタにしよっかな」
優里も、メニューを見ながら言う。
しばらくして、店員さんを呼んで注文を済ませる。そして、料理が来るまでの待ち時間。
神行は、相変わらず俺の腕にしがみついている。その感触に、俺は少しだけ意識してしまう。いや、意識するな。
「ねぇ、八杉くん」
神行が、俺の方を向く。その瞳は、どこか真剣だ。
「なんだよ」
「優里ちゃんと、本当に付き合ってるの?」
その質問に、俺は言葉に詰まる。どう答えればいいんだ? 嘘をつくべきか? それとも、本当のことを言うべきか?
優里は、俺の方を見て、小さく頷く。その瞳は、「演技を続けて」と訴えている。
「あ、ああ……まぁ、そんな感じかな……」
俺は、曖昧に答える。その言葉に、神行の表情が曇る。
「そっか……」
神行は、小さく呟く。その声は、どこか寂しそうで、俺は少しだけ胸が痛んだ。
「晄っち、どうしたの? もしかして、嫉妬してる?」
優里が、ニヤニヤしながら尋ねる。その表情は、どこまでも挑発的だ。
「し、してないよ! 別に、八杉くんが誰と付き合おうと、私には関係ないし!」
神行は、慌てて否定する。でも、その表情は、明らかに嘘をついている。頬が少し赤くなっていて、視線も泳いでいる。
「そっかー。じゃあ、いいよね。八杉っちと、もっとイチャイチャしても」
優里は、そう言って俺の腕をさらに強く抱きしめる。その感触に、俺は思わず身体を硬直させる。
「ちょ、優里……」
「なに? 恋人なんだから、これくらい当たり前でしょ?」
優里は、ニヤリと笑う。その笑顔は、どこまでも悪戯っぽくて、明らかに神行の反応を楽しんでいる。
「う、うう……」
神行は、悔しそうに唸る。その表情は、完全に嫉妬している顔だ。
そして、神行も負けじと俺の腕を抱きしめる。
「私だって、八杉くんとイチャイチャしたい! 幼馴染なんだから、優里ちゃんより先に知り合ってるんだから!」
「でも、恋人は私だもん」
「う、それは……」
神行は、言葉に詰まる。その表情は、どこまでも悔しそうで、でも何も言い返せない、という感じだ。
俺は、完全に板挟みになっている。二人の美少女が、俺を巡って争っている。この状況、傍から見れば羨ましいのかもしれないが、当事者からすれば、ただただ面倒くさい。
「お、おい……お前ら、ちょっと落ち着けよ……」
俺は、必死に二人を宥めようとする。でも、二人は全く聞く耳を持たない。
「やだ!」
「私も嫌!」
二人は、声を揃えて言う。
その時、店員さんが料理を運んできた。
「お待たせしました。ハンバーグ二つと、カルボナーラですね」
店員さんは、料理をテーブルに置いていく。その視線が、俺たちを見て少し驚いたような表情を浮かべる。おそらく、二人の美少女に挟まれて、争われている俺の姿が、異様に見えるのだろう。
「ごゆっくりどうぞ」
店員さんは、そう言って去っていく。
料理が来たことで、二人もようやく俺から離れる。そして、それぞれの料理に手をつけ始める。
「いただきまーす!」
神行は、元気よく言って、ハンバーグを食べ始める。
「いただきます」
優里も、パスタを食べ始める。
俺も、ハンバーグを食べ始める。久しぶりのファミレスのハンバーグは、美味い。
しばらく、静かに食事が進む。でも、その沈黙は、どこか気まずい。
神行は、時々俺の方をチラチラと見ている。その視線は、どこか寂しそうで、俺は少しだけ胸が痛んだ。
優里は、相変わらずニヤニヤしながら食事をしている。その表情は、どこまでも楽しそうで、明らかにこの状況を楽しんでいる。
俺は、ただただハンバーグを食べ続ける。
この後、どうなるんだろう。
神行に、本当のことを言うべきか? それとも、このまま演技を続けるべきか?
俺は、その答えを出せずに、ただただ食事を続けた。
でも、一つだけわかっていることがある。
この偽の恋人関係は、思った以上に面倒くさい。
そして、神行の嫉妬する姿を見て、俺の心は少しだけ揺らいでいた。
その事実に、俺はまだ気づかないふりをしていた。
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