太陽と太陽ー陽キャとギャルー
金曜日の学校で、俺は一人で購買にいた。今日は弁当を作る暇がなかったので、購買で昼飯を買って済ませる。
朝、目覚ましが鳴らなくて、ギリギリまで寝坊してしまった。姉が夜勤明けで帰ってきていたから、起こしてくれると思っていたのだが、姉も疲れて寝ていたようだ。慌てて準備して、弁当を作る時間もなく、家を飛び出した。
今日はパンでいいか。そう思いながら俺は並べられたクロワッサンを手に取り、お金を払って売店から出た。売店を出て一年の棟に向かう。
行く先々の道中には既にお昼を食べている生徒達がいる。教室で食べる者、廊下で食べる者、中庭で食べる者。それぞれが思い思いの場所で昼食を楽しんでいる。俺も早く柊と合流して食べなければ。
「おやおやー? 八杉くんじゃん!」
その声は。嫌な明るい声が聞こえてきた。絶対にアイツだ。太陽と同等の明るさと元気さを持つ、「か」から始まって「り」で終わる女の声だ。
俺は、思わず足を止める。いや、止めるな。このまま気づかないふりをして通り過ぎろ。でも、もう遅い。
「なんだよ、神行」
俺の目の前には相変わらずの明るい顔を浮かべている神行がいた。金髪をポニーテールにまとめていて、どこか活発な印象だ。その時、この前の神行の顔を思い出した。俺が神行を家に送る時に見せたあの照れたような顔。あの時の神行は、いつもと違って、どこか初々しくて――。
いや、思い出すな。あれは、ただの幼馴染としての照れだ。深い意味はない。
「珍しいね、八杉くんが購買でパンを買うなんて。お昼はお弁当じゃないの?」
「ああ、作る時間がなくてな」
「え!? 八杉くんお弁当作るの!?」
神行は、目を丸くして驚く。その反応に、俺は少しムッとする。
こいつは俺のことをなんだと思ってるんだ。
「あのな、俺にも家事や料理くらいできるんだぞ。姉ちゃんが忙しいから、自分で作ることもあるんだよ」
「へー、すごいじゃん! 八杉くん、意外と家庭的なんだね!」
「意外ってなんだよ……」
神行は、嬉しそうに笑う。その笑顔を見ていると、何だか照れくさくなってくる。いや、照れてない。ただ、神行の反応が面白いだけだ。
そんな話を神行と続けていた時だった。神行がいるだけで明るかった空間が更に明るくなったのを感じた。俺はその原因がすぐにわかった。きっと、四皇の一人のアイツに違いない。
案の定、俺の予感は的中する。
「お! 八杉っちに晄っち!」
最悪だ。なんでこういう時に限って、川瀬が来るんだ……。太陽と太陽が俺の前に現れた。それは俺や他人にとっては眩しすぎて、干からびそうになるほどの眩さだ。――それと同時に俺に刺さる男子の視線がめちゃくちゃ痛い。助けて。
美少女のギャルと距離感がバグっている幼馴染の陽キャ。俺はただの凡夫。俺は凡夫以外に他ならない。あの両面宿儺も認めるくらいの凡夫の俺にどうしてこうも四皇たちは俺に気をかけてくるのだろうか。
川瀬は、いつものようにいちごミルクを持っていて、満面の笑みを浮かべている。その笑顔は、どこまでも無邪気で、周囲の生徒たちが一斉に視線を向けている。
「ねね! お昼私まだなんだ!」
川瀬さんが先行して口を開く。すると、神行が軽く口を開く。目を輝かせながら。
「私も! そうだ! せっかくなら三人で――」
「あー俺、もうお昼食べたからー!」
当然嘘だ。めちゃくちゃお腹空いてるし、空腹で死にそうなくらいだ。でも、この二人とお昼ご飯だなんて俺にとっちゃ荷が重すぎるし、殺されそうな予感がする。周囲からの視線が、もはや殺気に近い。
「えー? 嘘は良くないよ八杉くん。食べたならどうして売店に売ってるパンを持ってるのかなぁ?」
チッ。なんでこういう時に限って神行は勘が鋭いというか、観察能力が高いんだよ。俺は一人で食べたいんだ。いや、柊と二人で食べたいんだ。もし、この二人と食べることになったら、絶対にめんどくさい事になる。
「これは、あとで食べるやつで――」
「じゃあ! 三人で食べよう!」
「ちょ! 俺の話を聞け!」
俺の言葉を遮るように、川瀬が俺の腕を掴む。そして、神行も反対側の腕を掴む。二人の美少女に両腕を掴まれて、俺は完全に身動きが取れない。
「やったー! 八杉っちとお昼だー!」
「久しぶりに八杉くんと一緒にお昼食べれるね!」
二人は、嬉しそうに笑う。その笑顔は、どこまでも眩しくて、俺は目を細める。
周囲からの視線が、もはや刃物のように鋭い。特に男子からの視線は、完全に殺意を帯びている。誰か、助けてくれ。
※ ※ ※
こうして俺は無理やり屋上へと連行され、神行、川瀬とお昼を共にすることになった。
屋上は、風が心地よく吹いていて、青空が広がっている。景色は最高だが、状況は最悪だ。
俺は、フェンスに寄りかかって座り、クロワッサンを取り出す。神行と川瀬は、俺の両隣に座っていて、それぞれ弁当を広げている。
「八杉くん、クロワッサンだけ? 足りないでしょ。はい、これ食べて」
神行が、自分の弁当からおかずを取り出して、俺に差し出す。唐揚げだ。美味そうだ。
「いや、いいよ。お前の分だろ」
「いいから! 八杉くん、朝ご飯も食べてないでしょ? ちゃんと食べないと倒れちゃうよ」
神行は、心配そうな顔をする。その表情は、どこまでも優しくて、俺は少しドキッとする。
「……じゃあ、一個だけ」
「うん!」
俺が唐揚げを受け取ると、神行は嬉しそうに微笑む。
「八杉っちも私のお弁当食べてよ! 今日、頑張って作ってきたんだー!」
川瀬も、自分の弁当を俺に差し出す。中には、彩り豊かなおかずが詰まっている。卵焼き、ウインナー、ミートボール、ブロッコリー。どれも美味しそうだ。
「お前、これ自分で作ったのか?」
「うん! 頑張ったんだよー! だから、食べて!」
川瀬は、期待に満ちた瞳で俺を見つめる。その視線に、俺は断れなくなる。
「……わかったよ」
俺が卵焼きを一つ食べると、川瀬は満面の笑みを浮かべる。
「どう? 美味しい?」
「ああ、美味いよ」
「やったー!」
川瀬は、嬉しそうに飛び跳ねる。その姿は、どこまでも無邪気で、見ているこっちまで笑顔になってしまう。
神行と川瀬は、俺におかずを食べさせながら、楽しそうに話している。二人の会話は、どこまでも明るくて、屋上に笑い声が響く。
「ねぇ、八杉くん。明日って何してるの?」
神行が、ふと尋ねる。
「明日? 別に何もないけど……」
「じゃあ、一緒に遊ぼうよ!」
「え、でも俺、川瀬さんと土曜日に約束してるんだけど……」
俺の言葉に、川瀬が驚いたように目を見開く。
「え!? 八杉っち、それ明日だっけ?」
「ああ、お前が決めたんだろ……」
「あ、そっか! 忘れてた! てへへ」
川瀬は、舌を出して笑う。その仕草が、どこか可愛らしくて、俺は思わず苦笑する。
「じゃあ、私も一緒に行っていい?」
神行が、キラキラとした瞳で尋ねる。
「え、いや……」
「ダメ?」
神行の上目遣いに、俺は言葉に詰まる。この視線、反則だろ。
「……別にいいけど」
「やったー! じゃあ、明日三人で遊ぼうね!」
神行は、嬉しそうに俺の腕にしがみつく。その感触に、俺は少しドキッとする。
「私も楽しみー! 八杉っちと一日遊べるなんて、最高じゃん!」
川瀬も、俺の反対側の腕にしがみつく。
俺は、二人の美少女に両腕を掴まれて、完全に身動きが取れない。
「お、おい……離せよ」
「やだー!」
「八杉くんの独り占めー!」
二人は、全く離す気配がない。その状況に、俺は諦めの境地に達する。
まぁ、いいか。どうせ、もう逃げられないし。
そう思いながら、俺はクロワッサンを食べ続けた。
しばらくすると、神行が口を開く。
「ねぇ、八杉くん。明日、どこ行きたい?」
「どこって……お前らが決めるんじゃないのか?」
「えー、でも八杉くんの行きたい場所がいいじゃん」
川瀬も、同意するように頷く。
「そうそう! 八杉くんが楽しめる場所がいいよ!」
「俺が楽しめる場所って……」
俺は、少し考える。俺が楽しめる場所。それは、アニメイトとか、ゲームセンターとか、そういう場所だが、果たしてこの二人がそんな場所で楽しめるのか。
「アニメイトとか……」
「いいね! 私、アニメイト好き!」
「私も行きたい! 八杉っちと一緒なら、どこでも楽しいよ!」
二人は、即答する。その反応に、俺は少し驚く。
「マジで? お前ら、オタクショップで楽しめるのか?」
「楽しめるよ! だって、八杉っちが好きな場所なんでしょ?」
川瀬の言葉に、俺は少しドキッとする。別に、恋愛感情とかじゃない。ただ、自分の好きな場所を認めてくれるのが、嬉しいだけだ。
「じゃあ、決まりだね! 明日はアニメイトに行こう!」
神行は、嬉しそうに言う。
「ああ、わかった……」
俺は、小さく頷く。
明日、神行と川瀬と三人でアニメイト。想像しただけで、疲れる。でも、どこか楽しみな気持ちもある。
いや、楽しみなんかじゃない。ただ、面倒くさいだけだ。
俺はそう自分に言い聞かせながら、昼休みの残り時間を過ごした。
二人は、相変わらず俺の腕にしがみついていて、離す気配がない。
屋上から見える景色は、どこまでも青く、綺麗だった。
でも、俺の心は、どこか複雑だった。
恋愛から距離を置くと決めたはずなのに。
なんで、こんなに楽しい気持ちになってるんだ。
そう思いながら、俺は空を見上げた。
明日が、どうなるのか。
不安と期待が、入り混じった気持ちで、俺は昼休みの終わりを待った。
チャイムが鳴り、昼休みが終わる。
「じゃあ、午後の授業頑張ろうね!」
「うん! 八杉っち、また後でね!」
二人は、ようやく俺の腕を離して、教室に戻っていく。その後ろ姿を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。
「……疲れた」
でも、どこか心地よい疲れだった。
俺は、そのまま教室に戻った。
柊は、俺を見てニヤニヤしている。
「おい、裕一。お前、屋上で二人の美少女と昼飯だったらしいな」
「お前、なんで知ってんだよ……」
「噂は早いんだよ。学校中に広まってるぞ」
柊の言葉に、俺は頭を抱える。
最悪だ。また面倒なことになる。
でも、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
むしろ、少しだけ、嬉しい気持ちがあった。
その事実に、俺は少しだけ戸惑いながら、午後の授業を受けた。
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