表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/22

第7章 崩壊と別れ

 レムナントの本部──黒鉄の聖堂は、地下深くに潜む最後の砦だった。

 廃工場群の底、鉄の壁に囲まれた空間は、冷たい空気と機械の低いうなりで満ちている。

 生き残ったメンバーたちが、モニターの青白い光の下に集まっていた。

 イグナーツの負傷した体を支える者、武器を磨く者、祈りを捧げる信者。

 皆の顔に、疲労と絶望が刻まれている。

 スカーレットは中央のテーブルに地図を広げ、指で点を打っていた。

 彼女の目は血走り、包帯が巻かれた腕が微かに震える。


「政府の発表で、国民が味方についたふりをしてるわ。でも、これはチャンス。インサイダーが内部から崩す。私たちは……最後の攻勢をかける」


 悠は壁に寄りかかり、彼女の言葉を聞いていた。

 胸に、エメトのペンダントが重くのしかかる。

 暴露の連鎖は、政府を追い詰めたはずだった。

 しかし、国民の署名運動がすべてを逆転させた。

 安定を求める声が、自由の叫びを掻き消した。

 突然、アラームが鳴り響く。

 モニターに赤い警告が点滅。


「侵入者! 掃除屋部隊だ!」


 本部が再び襲撃された。

 政府の最終掃除──総力戦だった。

 天井の換気口からドローンが雪崩れ込み、爆弾を投下する。

 壁が崩れ、銃声が響く。


「迎撃しろ!」


 スカーレットの叫びで、メンバーたちが動き出す。

 過激な戦いが、狭い通路で繰り広げられる。

レムナントの隊員が銃を構え、掃除屋の黒い影に弾を浴びせる。

だが、敵は多勢。

無人機の群れが、蜂のように飛び回る。

一人の隊員が胸を撃たれ、倒れる。

血が床に広がる。

次に、信者の女性がドローンの爆風に吹き飛ばされる。

体が壁に叩きつけられ、動かなくなる。

悠は銃を握らされ、隅に隠れていた。

震える手で引き金を引く。

弾が外れ、壁に穴を開けるだけ。

「俺……何もできない……」

スカーレットは前線で戦っていた。

ショットガンを連射し、掃除屋を二人倒す。

だが、背後から狙撃。

肩に弾が食い込み、血が噴き出す。

彼女は膝をつき、歯を食いしばる。

「スカーレット!」

悠が駆け寄る。

彼女の体を支え、壁の陰に引きずる。

「重傷だ……」

血が止まらない。

彼女の顔が青ざめる。

周囲で、仲間たちが次々と倒れる。

イグナーツが最後の力を振り絞り、手榴弾を投げる。

爆発が掃除屋の群れを吹き飛ばす。

だが、彼自身も巻き込まれ、息絶える。

「これで……終わりか」

スカーレットの声が弱々しい。

「いや、まだ……!」

悠は涙を堪え、彼女の傷を押さえる。

彼女は悠の目を見つめた。

「行きなさい、悠。

あなたは旅人として、真実を語り継いで。

エメトの記憶は、あなたの中に生きてる。

種を……蒔いて」

彼女はポケットから小さなデバイスを渡す。

文書のバックアップ。

「これを……守って」

爆音が近づく。

掃除屋の増援が迫る。

悠はスカーレットを抱え、非常口へ向かう。

だが、彼女は首を振る。

「私を置いて行きなさい。

数名の仲間と地下に潜るわ。

新たな夢を……胸に」

彼女の瞳に、諦めと希望が混じる。

悠は頷き、涙を拭う。

「生きて……また会おう」

非常口の扉が開く。

悠は一人、外へ飛び出す。

背後で、銃声と爆発が続き、本部が崩壊していく。

組織は解体された。

レムナントの残党は散り散りになり、希望の光の信者たちは信仰を失う。

政府の管理システムは、緩やかな改革を装いながら、強化される。

プロパガンダは形を変え、国民の無関心を味方につける。

スカーレットは数名の信頼できる仲間と、地下深くへ潜伏した。

暗いシェルターで、傷を癒しながら計画を練る。

「夢は終わらないわ。

新しいネットワークを築く。

いつか、政府の根を枯らす」

彼女の声は弱くても、炎は消えていない。

悠は一人、荒野へ向かった。

国民番号を捨て、旅人として生きる。

砂漠の道を歩き、喉の渇きと孤独に耐える。

エメトの記憶が、道しるべになる。

旅の途中で、独自コミュニティを見つける。

山間の隠れ里。

一握りの自由を求める人々。

政府の管理から逃れた者たちが、互いの信頼で暮らしている。

畑を耕し、水を分け合い、夜に物語を語る。

「魔王の真実は……こうだった」

悠は火のそばで、文書を読み上げる。

皆の目が輝く。

小さな風穴が、ここにも空く。

エピローグ:風穴の向こう側

数年後。

悠は旅を続けていた。

荒野を越え、街の影を避け、様々なコミュニティを訪れる。

政府の管理は続く。

プロパガンダは巧妙になり、国民の多くは安定を選んだ。

変化の種は、ゆっくりと根を張る。

ある夜、悠は丘の上に立った。

星空の下、遠くの街のネオンが見える。

管理社会の光。

だが、その向こうに、小さな灯がちらつく。

独自コミュニティの火。

風穴の向こうに、希望が見える。

スカーレットからの暗号メッセージが、デバイスに届く。

「種は蒔かれたわ。

君も、そうでしょ?」

悠は微笑む。

ペンダントを握り、空を見上げる。

旅は続く。

真実を語り継ぐ、永遠の旅人として。

(終)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ