表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

3章続き・路地裏の邂逅

 路地裏を抜け、女は周囲を素早く確認した後、ようやく足を止めた。息を潜め、背後の闇を睨む。安全だ──少なくとも今は。

 彼女は振り返り、悠をまっすぐに見据えた。「あなた、エメトの機密記録はどこで見つけたの?」

悠の心臓が激しく鼓動した。「え? あ、魔王テーマパークで……偶然、隠し部屋みたいなところで。」

喉が乾き、言葉がつかえる。女の視線は鋭く、逃げ場を塞ぐようだ。

「その機密文書は今どこに?」

「……家に……置いてある。」

 彼女の表情は一切変わらなかったが、声に微かな緊張が混じる。


「その記録は、政府が絶対に外へ漏らしたくない“真実”が含まれているの。あなたは気づいていないかもしれないけど──“追体験”までしてしまった。あれは政府内部でも扱えない危険物よ。」


 悠の背筋に冷たいものが走った。追体験──あの文書に触れた瞬間、頭の中に洪水のように流れ込んできた映像。魔王のプロパガンダ、勇者エメトの裏切り……すべてが本物のように感じられた。


「おまけに掲示板に書いたでしょう? あれで監視AIがあなたを“危険人物”として即検知したの。」


悠の足が震え出した。


「じゃあ……俺、もう……」


「だから助けたのよ。」


 一瞬、彼女の声が優しく柔らかくなった。まるで、失われた希望を灯す光のように。


「私はスカーレット。」



◆一時避難所(隠れ家)

スカーレットが連れてきた場所は、古い雑居ビルの一室だった。窓は厚い遮光カーテンで覆われ、家具は最低限──ベッド、テーブル、簡易キッチン。それでも、生活できるように整えられていた。ここは彼女の非常用隠れ家。レムナントのレジスタンスメンバーさえ知らない、彼女だけが使う場所だ。


「数日だけここで匿うわ。政府があなたを“特定”する前に、痕跡を消す必要がある。」


 悠は壁に寄りかかり、座り込んだ。頭が回らない。すべてが夢のように現実味がない。

スカーレットの表情は冷静だったが、瞳に熱い炎が宿っていた。


「ずっと探していたの。“勇者エメト”の真実に触れた人間を。」


 その言葉は、まるで悠の存在を運命のように待っていたかのようだった。彼女はレムナントのリーダー──そして、希望の光という宗教団体の総師、アスナ。1000年前に魔王の存在を前提に作られたその団体は、レジスタンスの完璧な隠れ蓑。信者たちは知らずに、反政府の種を蒔き続けている。



◆数日間の静かな時間

 隠れ家での生活は、奇妙な「日常」のようだった。外の世界が遠く感じる、閉ざされた時間。


朝:スカーレットは変装して外へ出る。情報収集と物資調達。彼女の姿は、アスナとして信者たちに希望を与えるものだ。戻る頃には、疲れた顔にわずかな微笑みが浮かぶ。


昼:悠は一人でテレビを眺める。しかし、どのチャンネルも政府広報ばかり。魔王の脅威を煽るプロパガンダ、勇者の英雄譚……すべてが偽りに見えてくる。悠は文書を思い出し、胸がざわつく。


夜:戻ったスカーレットが、優しい顔で料理をする。簡単な食事だが、温かみがある。


「意外と……普通の人なんだな」


 悠が呟く。


「そりゃね。私は殺し屋でも軍人でもないわ」


 彼女の笑みが、少し寂しげだ。

 悠はその言葉に引っかかる。

 “としては”──? 彼女の過去に、何か隠された闇があるのか。聞くのをためらい、黙った。

そんな数日の平穏の中で、スカーレットの素顔が少しずつ見えてくる。

 寝起きは機嫌が悪い。コーヒーを淹れるまで、口数が少ない。

甘い物が好き。隠し持っていたチョコレートを、恥ずかしげに分けてくれる。

料理は上手い。限られた材料で、工夫を凝らす。

 一人の時間も好きだが、孤独には慣れてしまっている。夜中、窓辺で独り言を呟く姿を見かけた。

悠は思う。

(この人……守られてばっかりじゃいられないな。俺も、何か力になりたい。)


◆日常が侵食される

 しかし、三日目。平穏は突然崩れた。

悠のスマホに、電源を切っているはずなのに勝手に再起動がかかり──画面に不気味な通知が並んだ。


【学籍データ照会:進行中】

【家族への聞き取り調査:予定】

【SNSアカウント:完全凍結】

【GPSトラッキング:開始】


「嘘だろ……?」悠の声が震える。

 スカーレットが戻り、画面を見るなり表情を曇らせる。


「まずい……特定が早すぎる。レムナント内にスパイがいるのかもしれない。」


「俺、もう家にも……大学にも……」


「戻れないわ。あなたはもう“日常”側の人間じゃなくなったの。」


 悠の心臓が締め付けられた。失ったもの──家族、友人、未来──すべてが一瞬で崩壊した。

 レジスタンス内部の動揺

 その夜、スカーレットは隠れ家から暗号通信でレジスタンスと連絡を取った。

 だが、聞こえてきた声は冷たかった。


《スカーレット。なぜ一般人を保護している?》

《内部規定違反だ。即刻処分しろ。》

《その男はスパイかもしれない。》

《“エメト”という名を口にした男を庇うのか? 危険だ。》


 スカーレットは歯を食いしばる。


「彼はスパイじゃない。……でも本部には絶対に連れて行かないわ。誰が信用できるのか分からないの」


 通信の向こうで罵声が飛んだ。苛立ちと不信が渦巻く。

 その会話を偶然聞いてしまった悠の胸は、重く沈む。

(俺……迷惑しかかけてないじゃん……。でも、エメトの真実を、この人に届けたい。)


 政府急襲──隠れ家崩壊

 翌日未明。ビル全体に轟音が響いた。爆発音──政府の掃除屋部隊だ。

 スカーレットが血相を変える。


「来た……!」


 窓が白く光り、外壁が吹き飛ぶ。武装した影が突入してくる。銃声が雨のように降り注ぐ。


「逃げるわよ!!」


 スカーレットが悠の手を強く引き、非常階段を駆け下りる。

 後ろから銃弾が飛び、壁が砕ける。階段の踊り場で、掃除屋が一人飛びかかってくる。スカーレットは短剣で受け流し、喉元へ鋭い打撃を加える──倒れる敵の体が、床に崩れ落ちる。

 だが、悠の目には、彼女の手が震えているのが分かった。戦い慣れているはずなのに、人を傷つけることに、彼女の心はまだ痛む。

無線の声が響く。


「スカーレット! 本部へ向かえ!!」


 彼女は一瞬だけ悠を見る。瞳に決意が宿る。


「行くわよ。本部へ。──もう逃げ場はない。」


 悠は息を呑んだ。こうして、ついに、レジスタンス(レムナント)の本部へと向かうことになる。エメトの真実を携え、運命の渦中へ──。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ