8.バルザック
朝日に照らされて、番の身体が白く輝いている。
国境の異変の報せを受取ったあの時、何故か自分が現場に行かなくてはと虫の報せを感じた。
すぐさま現場近くの兵士の出動を命じ、天馬で現場に駆けつけた。
疾速の天馬ならば、急げば国境まで10分とかからない。
ざわつく胸の不安を鎮めながら、異変を感じた場所に降り立った。
そこには粗末な馬車と倒れた兵士達がいた。
男たちが下卑た笑いをあげながら馬車の扉をこじ開け中を覗き込んでいた。
そのただならない様子に男たちに拘束魔法をかけた。
そして、馬車の中を覗き込んだバルザックは言葉を失った。
胸を貫かれるような衝撃。私の番だ。捜し求めていた私の番がここにいる。
バルザックの番は花の妖精のような清廉とした可愛いらしさで馬車の中に佇んでいた。
あまりの愛らしさに拘束していた男たちの指をあらぬ方向にまげる程バルザックは興奮していた。
バルザックは興奮しながらも、正式な番契約を、結ぶべく古式に則って手順通りに妻問を済ませていく。
正式な番契約はその後の魔力契約が有利に運ぶのできちんと手順を踏むべしといったのは番と幸せに暮らす家庭教師だったか?
名前を交わし。自分の寝室に招き、狩りをして自分で獲った獲物を食べさせ、相手から婚姻の承諾を貰ってから閨を共にする。
複雑な儀式が必要だ。
現場に急行した兵士に後始末は任せて番を連れて自分の宮に連れて帰った。
震えながら、私に縋り付く様が堪らない。
父王にすぐ様番が見つかった事を宣言する。
番を見つけたものは3ヶ月以内に結婚することが多い。周りに知らせておかねば準備が滞る。
可愛すぎて今にも襲いかかってしまいそうだが、儀式が完了するまで我慢、我慢だ。
我が番は阿呆どもに襲われかけ震えているのだ。
鎮まれ私。離れがたいが、番を自室のソファに置いて水を浴びる。
自室でとる夕餉も執事達は気を利かせて私が仕留めた鴨肉のシチューを運んできた。さすがだ。
これならば儀式が1段階進むな。シチューを口に運んで食べさせる。可愛い。儀式の一貫だが、可愛いすぎるだろう。
ろはろ
このままプロポーズしてベットに引きずり込みたいが。せいては事を仕損じるという言葉もある。
ゆっくり親交を温めて外堀から埋めよう。
アリアは客間に通してもらった。
窓辺で月を観ながら手酌で酒を煽った。
強い酒を飲んで眠らなければ番の破壊力に理性が引きちぎられそうだ。
カチャ
番がそこにいた。淡い月明かりに照らされて、可愛らしい寝間着を着た番がそこにいた。
なんとか鎮まりつつあった理性がブチギレそうになるのを感じた。
「アリア、夜中に男の寝室に来てはならない。帰りなさい。」
理性を総動員した私は、アリアの寝室の扉を開き退出を促した。
心は血の涙を流していたけれど。
しかし、そんな私の理性はアリアの一言で脆くも崩れ去った。
「今宵、私を妻にしてくださいませ。」
私の背中に縋り付くアリアの胸のふくらみだけでも、危険なのに。
番にそんなセリフ言われたら…
いや待て。これは相手からの婚姻の承諾に他ならないのでは?
出逢ってから数時間で番の妻問をコンプリートしたのではないか。
絶対に幸せにするよ。私の番。
浮かれきった私は、彼女が大いなる誤解をしてるとも知らず抱き締めた。
どこもかしこも綺麗すぎる番の身体を傷付けないよう優しく堪能する。
2人の心がすれ違ったまま、いびつに形式だけが結ばれた番関係が成立したことを2人は知らない。