7.一夜
「アリア、夜、男の寝室にきてはだめだよ。帰りなさい。」
先程まで優しかったバルザックが、身体を離しアリアが入ってきた扉へ彼女を誘導した。
その断固とした姿にアリアは傷付いたが、彼女には後がなかった。
明日から見ず知らずの者たちに慰み者として扱われる運命が変わらないのならば、せめて今宵純潔をバルザックに捧げたかった。
彼に清らかな自分を知っていて欲しかった。
だから、アリアはバルザックの背中に縋り付いた。
「今宵、あなたの妻にしてくださいませ」
このような時何と言えば良いのかわからないアリアは母が亡くなる前に彼女の行く末を案じた母が遺した手紙に書いてあった通りの閨の言葉を引用した。
公妾となり、今後誰かの妻になることなど望めない彼女が言って良い言葉なのかはわからない。
ただ、一夜だけ。恋に堕ちた人相手に妻になる夢を見たかった。
思えば、母が亡くなってからずっと虐げられていたアリアは好きな相手と結婚できるなと想像だにしていなかった。
仮初めの一夜の思い出だけ。望んでは迷惑だったかしら。
何かを振り切るようにバルザックが振り向いた。
その真剣な表情に罵倒されるかもと身構えるアリアをバルザックが抱きしめた。
「わかった。幸せにしよう。私の番。」
番?また番だわ。
その意味がわからないアリアは曖昧に頷いた。
バルザックはアリアを抱き上げると広いベットに運んだ。
アリアは、これから何が起こるのかわからず不安に思った。
しかし、バルザックがあの時助けてくれていなければあの山の中で複数の男たちに汚されていた事を考えるとバルザックに純潔を捧げられる幸運を喜んだ。
バルザックの唇がアリアの全身に口づけを落とす。
目もくらむような良い匂いに酩酊したかのように身体が熱くなった。
衣が脱がされ、滑らかな肌を合わせた。
幸せな一夜だった。