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3.罠

アリアはいつも着ていた糊の効いたお仕着せを畳んだ。


 アリアが持っていたドレスはほぼジュリアンナ王女に取り上げられた為、いま来ている粗末なドレスが一着しかない。


 だから、このお仕着せには本当にお世話になった。

 お仕着せもマリーから貰ったものだ。


 何から何まで助けてくれていたマリーにはせめて最後の挨拶をしたかったが、アリアの部屋は逃げ出せないように兵士が見張っていた。


 あんなにたくさんあった母の形見は使い古した小さな手鏡1つになってしまっていた。


 私の荷物、見事に何もないわね。


 翌朝、ジュリアンナが張り切って部屋に入ってきた。


「私として行くのだから、私のお古の服をあげるわ。きちんと化粧して行ってね。技術の確かなメイドを連れてきたわ。バレないようにきっちり似せなさいよ」


 派手なピンクの露出の多い衣装を側のメイドに押し付けると、にやにや笑いながらアリアのそばにやって来た。


「エスメラルダの男はね。結婚したら妻一筋になるけど。独身のうちはケダモノのように性欲が強いからその性欲を解消する必要があるのよ。」


 ジュリアンナは怯えるアリアの様子を見て嬉しいのかはしゃぎながら続ける。


「そんな男達の相手をする高尚なお仕事頑張ってね。ただ純潔であることを重視するこのレジオンの倫理観には合わないから、あなたに戻って来れる祖国はないけど……。もう会うことは無いけど、せいぜい頑張ってね。」


 アリアの絶望を見て一層機嫌が良くなったジュリアンナが高笑いする。


「うっ」


 アリアは悔しくて涙が止まらなかった。


 その涙を見て、お父様にはあなたがエスメラルダに到着したあと、実態を伝えておくわと付け加えたジュリアンナははしゃぎながら出ていった。



 母が亡くなった時に母の祖国に帰れば良かった。


 母が立て直したこの国の王位継承権を放棄したくなかったから、諦めたのだ。


 ジュリアンナの話が本当なら、王位継承権は不貞を理由に剥奪されてしまう。


 それに子が産めない身体にされたら、不貞どころではない。


 母の形見の古ぼけた手鏡を握りしめた。


 ジュリアンナはアリアから根こそぎ奪っていった。


 それなのに最後に残された尊厳すら奪うのか?


 せめて修道院なら、母の祖国に連絡が取れるのに。尊厳と王位継承権だけは守り抜けるのに。



 鏡台に置いてあったハサミを取り上げ、喉に突き刺す。


 しかし、ハサミは喉に到達する前に叩き落された。


「アリア、駄目よ」


「マリー」


 必死にアリアを止めたのはマリーだった。


 化粧係としてただ一人部屋に残されたメイドの正体に気付かない程、動揺していたんだわ。


 マリーに背中をさすられながら今まで起きた全ての出来事を話したのだった。



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