1.アリア
レジオン国正妃だった母が亡くなってからアリアの人生は一変した。
父は、政略結婚で帝国から嫁いできた正妃より若い頃から恋人だった側妃をことのほか愛していた。
正妃が生きていた時さえ側妃が産んだジュリアンナへの愛情を隠そうともしなかったが、亡くなった後はさらに正妃の産んだアリアを疎んじるようになった。
そして今アリアは母の形見の品のほとんどを取り上げられ、ジメジメした地下の部屋で使用人同然の暮らしをしている。
いや、清潔な衣食住と仕事に応じた給料が保証された使用人の方がよっぽど恵まれている。
しかし、一番アリアを虐めていた異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダへ留学した今は以前より平和だ。
「ねえアリア、聞いた?」
城の使用人用の食堂で、仲良くなったマリーが話しかけた。
年配の使用人達はアリアの事を腫れ物に触るように接するが、同年代のマリー達は屈託なく話してくれる。
マリーにつられたのか、若い使用人たちはアリアに優しく接してくれるようになったから毎日が楽しくなってきた。
食べ物にも困っていたアリアをこの食堂に誘って毎食きっちり食べれるようにしてくれたのもマリーだ。
「何があったの?」
興味津々で聞くアリアにマリーが声を潜めた。
「ジュリアンナ王女が帰って来るみたいよ。」
「えっ」
アリアの顔に絶望が浮かんだ。留学は最低でも三年の筈だったのに。まだ半年も経っていない。
何があったのかしら?何にせよ。きっとまた、ひどい目に合わされるに違いないわ。
かくしてアリアの平和な日々は終わりを告げた。