#36 客塵 急「全力燃焼プリンセス!」
時は2031年。
第22代江戸幕府将軍の治める太陽の国、日本。
此処はその天領、甲斐国・甲府藩。
豊かな水と緑を湛えるこの地は今…
その一割を「彼岸」に蝕まれている。
急 ~全力燃焼プリンセス!~
─2031年3月26日 12:00頃─
〔甲府藩 甲府市 甲府藩立中央病院 1F〕
胸の中が、無数の針で刺されたかのようにズキズキ痛む。
息をしようとする度に痛みは強くなり、肺の中に水が溜まっていくのを感じる。
《姫様…!目白から伝言よ…外にも吐血してた病院スタッフが居たらしいけど、血の色は鮮やかな真っ赤だったって…》
血の色は、含まれている酸素が多ければ多い程、鮮やかな赤色になる。
目白くんの情報とこの苦しさを合わせて考えれば、私の体に何が起きているかは容易に見当がつく。
「蜜樹さ…ごふっ…つまり、これ、肺が…っ…!」
《無理に喋っちゃダメよ姫様!》
すると墺而は私の背から離れ、私の前のへ歩き出す。
「察しいいねー…まあ気付いたところで手遅れなんだけど。」
「僕の『ブレイン・ストーム』は、簡単に言えば自分の体を煤にできる能力。」
「それ以上でもそれ以下でもないけど…煤の一つ一つは割れガラスみたいに硬くて鋭くなってる。」
「だからついうっかり吸い込みでもしたら、呼吸器はズタズタになっちゃうんだよね〜。」
石や金属の粉を吸い込むことで肺に起きる「塵肺」という病気がある。
肺の中には酸素を受け取る「肺胞」という袋がたくさんあって、粉塵が溜まることで肺胞が壊れ、壊れた部分にはかさぶたのような組織ができる。
それが積み重なっていくことで肺は硬くなって弾力が下がり、だんだん呼吸ができなくなっていく。
でもこれは、そんな一般的な塵肺どころじゃない…吸い込んだらすぐに肺胞を損傷・出血させている。
肺には酸素を受け取るため大量の血液が通っている…このまま放っていたら、出血量はどんどん増えていき、私は自分の血で溺れてしまう。
墺而はフクロウのように首を横に大きく倒しながら、喋り続ける。
「息をするということは、動物である以上絶対に避けられない行為だ…息をしなきゃ死ぬわけだからね。」
「でも息をすればする程、僕の『ブレイン・ストーム』は肺の奥深くに届いて、切り裂き、抉っていく…」
「僕の凶器は僕自身、大した得物も必要ない。」
「わかる?僕の能力って、避けようがなくて、どうしようもないんだよ…」
「鏡の間を素早く動けるってだけで、威張ってた上にグチグチ五月蝿かった兄貴なんかよりも、よっぽど暗殺に向いてるよな〜…」
墺而はそう言うと、私に背を向けて歩いていき、2階へ続く階段に足をかける。
「今日の仕事はこれで粗方終わり…っと。」
「流石に甲府の姫君が死んだら大ニュースになるよね、まあダルいしあんまそういう名声に興味はないんだけど。」
「とりあえずあんたはこれからもう死ぬから、諦めて辞世の句でも考えてろよ…じゃあね。」
墺而は気怠げな顔でまたため息を吐くと、コツコツと靴音を立てながら階段を上っていった。
すぐに追いかけたかったけど、息は整わず、足も痛くて思うように動かない。
まずは出血を止めなきゃ…
「『鬼術・四十番』…し、『止朱』…っ…」
鬼術でひとまず出血を止め、残った血を吐き出す。
これ以上あの煤を吸い込むわけにはいかない。
来院時に着けていたマスクは、能力使用時にうっかり燃やしてしまった。
新しいマスクを手に入れないと…そう思っていたら、病院の入口へ逃げようとするスタッフさんの一人が「N95」と書かれた箱を持っているのが目に入った。
痛む左足を引き摺りながら、急いで駆け寄り、声をかける。
「あ、あの…!それ…貸していただけないでしょうか…!」
──────
─2031年3月26日 12:15頃─
〔甲府藩 甲府市 甲府藩立中央病院 2F〕
「院内に不審者が侵入しています。各診察室・病室等のドアに鍵をかけ、警戒してください。」
館内放送が流れる中、2階の廊下をぶらぶらと歩く墺而。
「あ〜めんど…僕の標的は飯石蜜柑だけだし、どこへ行こうと僕は侵入できるんだから…逃げても意味無いんだけどな〜…」
墺而はそう呟いて、待合室の椅子に背筋を伸ばしたまま、うつ伏せに寝転がる。
「あの姫今頃なにしてんだろ、もう死んだかな?」
明後日の方向を見てぼやく墺而に、斜め上から飛び掛かる。
「いい…えっ!」
墺而は驚いた顔で私を見上げると、すぐに椅子から転がり落ちて、私の蹴りを躱した。
「えー、まだ生きてんの…って、は?なにそれ…」
墺而は立ち上がって私の方を睨んだけれど、すぐに唖然とした表情に変わった。
「飯石蜜柑、完全防備ですっ!」
ブラウスとスカートの基本装備に、ゴーグルとN95マスク(医療現場で用いられる微粒子用のマスク)と手袋を装備。
左足首はなるべく負荷なく走れるように鬼術で骨を再補填してもらった上で、さらに固定器具で固めてもらった。
スタッフさんたちの親切心と、蜜樹さんからのアドバイスのおかげだ。
ここで石見墺而を倒せるのも、筵の核を壊してみんなを解放できるのも、私しか居ない。
左足が折れてるくらいで、音を上げるわけにはいかない。
墺而は深くため息を吐く。
「バカでしょ、あんた…それで僕の『ブレイン・ストーム』を防ぎきれると思ってんの?」
「わかりません…でも全力でやってみてます!」
「問答が成立してないんだけど…もういいや、とりあえずさっさと死ねよ。」
「嫌です!あなたを倒して…病院の皆さんを筵から解放します!」
「そういうことはさ…勝てる算段つけてから言えよな…だるっ…」
墺而は一瞬だらんと項垂れると、すぐに姿勢を直して駆け寄り、右脇腹目がけてボディブローを撃ち込んでくる。
私はその場を動かず、墺而の拳を受ける。
ガンッ!
「いって…!こいつ…!」
難しい技の多い十合技の中で、私がすぐに覚えることができたもの。
それは剛躰だった。
墺而は自分のパンチの反動で怯んでいる。
カウンターするなら今だ!
剣を下から斜めに振り抜くと、剣は手応えなく墺而の体を通り抜けた。
バサッ
「っ…!」
そうだ…墺而は体を自由に煤に変えられる…
だから、物理攻撃も受け流せてしまう。
「やっぱバカでしょあんた…だいたいマスクなんて着けてたら、十八番の火炎放射ができないじゃん。だから打撃で…って考えたんだろうけど、それ、無駄だから。」
華奢に見た目に相反して、墺而の打撃は重く速い。
私の攻撃はすり抜け、向こうの攻撃は私に当たる…理不尽な打撃の猛襲を前に、覚えたての剛躰ではだんだんと後ろへ押されていく。
「覚えたてっぽい十合技とかいう小賢しい真似でどうにかなると思った?」
「甲府の姫は戦い方も脳みそも単純なの?」
「もうめんどくさいから早く死んでって言ってるんじゃん…取ってやろうかその邪魔なマスク。」
「とって早く楽になろうよ、もうここのフロアは“死の空間”なわけだからさぁ!」
墺而の言う通り、この階は上ってきた時点で空気が黒っぽく淀んでいた…ブレイン・ストームの煤が充満しているんだ。
だからこそマスクを外すわけには…
いや、ちょっと待って。
ふと思い付いたことがある。
そういえば墺而は、私の炎を避けていた…つまり炎への耐性はそんなに無い。
そして墺而の煤は、ちゃんと炎を上げて燃えていた…つまり煤は可燃性だ。
この階には、その可燃性の煤が充満している…と、いうことは…
墺而も、私が炎を使えないと油断している。
蜜樹さんの呼び掛けのおかげで、この階の避難も既に完了している。
今なら、できるかも…
墺而の前から3歩程飛び退き、マスクを下にずらす。
「は?マスクを外しただと…?」
ぽかんとする墺而。
肺は相変わらず痛いけど…
ゆっくり大きく息を吸って…
両手を合わせてラッパの形にして、口元に当てて…
大きく、息を吹く!
『炎獅子演武・火坑咆炎』!
螺旋を描いて吹き出た炎は、空気中を舞う煤に次々と着火していき…
ブワッ…ドゴオォーン!
大爆発を起こす!
──────
─2031年3月26日 12:18頃─
〔甲府藩 甲府市 甲府藩立中央病院 入口前バスロータリー〕
ドゴオォーン!
轟音とともに病院の壁が大きく揺れる。
蜜柑との最後の通話から20分近く経つ…あいつは大丈夫なのか…?
「御袋、蜜柑の様子はわかるか?」
《わからないわ〜ん…最初はフツーに話せたんだけど、途中から一気に通信状況がバッドになっちゃって…》
「わからねぇか…参ったな…ジャミングなのか、敵の能力に引っ掛かってるのか…」
状況は相当悪い。
俺の重力は未だに真横のまま。
桜華からたまたま借りていた花咲老師の術巻の存在を思い出した俺は、内側から根を張らせて箱を破壊し、どうにか脱出。
さらに植物を生やして足場を作り、その上に立っている。
なんとか足場を作る手段を用意できたのはいいが、氿㞑に翻弄される状況は変わっていない。
俺は足場が無いと碌に動けない一方、氿㞑は足場が無くとも空中を浮遊できる…機動力のアドバンテージが違う。
そして攻撃はあの手この手で阻まれ、今の所一発も届いていない。
「しかし…流石は新閃目黒の息子、といったところですか…」
「真横の重力には、ものの数分で慣れましたねぇ…」
「さて…これはいかがですか?」
車の側面に立つ氿㞑は、高く右手を掲げ、その手の上に赤紫の星模様の光球を作り出す。
光球からは赤紫の光弾が何発も出てきて、俺に向かって飛んで来る。
畜生…逃げるしかねぇ!
光弾の数は合わせて10発、全て避け切れるか…?
空を蹴って車の下を潜り、さらに地面を駆け上がって反対車線の車を盾にし、そのまま空を蹴って病院の西隣の別棟の窓へ突っ込む。
パリイィン!
これで光弾は残り7個か…かなり精密に追ってきやがる。
だがこれでいい…屋内の壁なら、生やした木よりはまだ広い足場になってくれる。
追尾攻撃型の魔法は、攻撃対象の魂の魔力を認識して追跡してくる。
まさに“これ”の使い所だろう。
剣を八の字に振り、最後に真っ向に振り下ろす。
「『シン陰流・円慧之陣』」
割れた窓を潜って顔を出してきた光弾は、俺の方向を向いたものの、そこから曲がることはなく直進してきた。
ちゃんと魂は隠せたらしい。
光弾をすり抜けて壁を一直線に駆けながら、磊盤に術巻を入れて納刀する。
壁を跳び上がり、窓を突き破り、氿㞑の頭上目がけて一直線に飛び降りる。
霆喘に術巻の術式を流し込んでいく…一、ニ、三…四巻!
《め、目白…?ちょっと?何してるの?》
相手はおそらく特種の上の上、下手な搦手は一切通用しないと見ていいだろう。
格上相手に拙策を捏ねくり回しても意味は無い…どうせ何をやっても攻撃を阻まれるくらいなら、最大火力で押し切ってやる…!
《ダメよ目白!無茶はダメ!四巻読了は今の目白には…!》
それでもやらなきゃ…全力出して手が届かない相手なら、死ぬ気でやらなきゃ擦り傷一つも付けられねぇだろ…!
直に応援は来る…少しでもダメージを持ち越して引き継いでもらう!
全力で魔力を練り上げろ!
急いで呪詛を組み上げろ!
「『四巻読了』…『天満雷蜂球』!」
パスッ…
氿㞑の脳天目がけて繰り出した刺突には、ほとんど雷が通っていない。
氿㞑はフッと鼻で笑うと、霆喘の鋒を片手で払い除けた。
うつ伏せの状態で、氿㞑の真ん前に墜落する。
「ぐっ…」
身体が動かねぇ…さっきの四巻読了の術式展開のために、魔力を使い過ぎた…!
笑みを含んだ、木を擦り合わせるような声が、上から聴こえてくる。
「シン陰流ですか…歳の割に蘊蓄はあるようで感心しましたよ。」
「ところがどうした…少し背伸びし過ぎましたねぇ、四巻読了を使い熟すには至っていない、と…」
「悔しそうですねぇ…搦手が通じないと思い、いっそのこと命懸けの手段に出て、次の味方のため少しでも泥を付けようと考えたのでしょう?」
「実に涙ぐましい奮戦だ…でも貴方は勘違いをしている…」
「弱者に死に様を選ぶ権利など無い。」
《目白〜っ!》
畜生、殺られる…こんなところで…!
車の側面を擦るように顔を上げると、真横の空から大剣を振りかぶる人影が見えた。
「『三巻読了』…『大・鎚・尖』!」
ズシイィンッ!
直後、氿㞑が姿を消し、俺の真横の地面に巨大な両剣が突き刺さる。
「晶印…さん…」
「遅くなって悪いな目白!大事ねぇか?」
「無いように…見えますか…」
ようやく来てくれた…強い応援が!
《うわあぁ〜ん!晶印ちゃ〜ん!超ナイスタイミングよ〜ん!》
晶印さんは氿㞑に向かって啖呵を切る。
「おいてめぇ!目白が立ったままうつ伏せになってんぞ!どうやってこんな面白いことしやがった!」
誰が「面白いこと」だ。
氿㞑は地面に垂直に立つと、コツコツと爪先で地面を突っついている。
「盾の筆頭の御登場ですか…そろそろ退き期ですかねぇ。」
「最後に教えて差し上げましょう…今回の筵、展開したのは私です。」
「ですが、筵の核は私ではない…ならば核は何処にあるのか?探してみるといいでしょう。」
次に瞬きをした時には、氿㞑の姿は消えていた。
車から剥がれるように落ちる俺を、晶印さんが抱き止める。
「筵の展開者はアイツなのに、核はアイツじゃねぇだと…?どういうことだ…?」
顔を顰め、首を傾げる晶印さん。
《結界術は基本的に術者を守るためにあるものよ〜ん?だから守られる術者が外に居るっていうのはあり得ないんだけど…》
御袋の言う通りだ…結界術を発動するのが人であろうと機械であろうと、中心はあくまで展開者だ。
その展開者が外に居る状況…そして岩戸神楽が通用しない結界強度の高さ…
「…そうか、そういうことか。」
〈んん?どしたの目白?〉
「御袋、晶印さん、わかったぞ…この筵のカラクリが。」
──────
─2031年3月26日 12:27頃─
〔甲府藩 甲府市 甲府藩立中央病院 2F〕
咄嗟の思い付きで起こした粉塵爆発だったけど、幸い他の周りの病室の扉が壊れるまでには至らなかった。
設備は真っ黒焦げになってしまったけど…
《姫様〜!聴こえる〜!?》
「蜜樹さん!」
2階に上ってから途絶えていた、蜜樹さんとの通信が回復した。
煤が通信を妨害していたのかな…
《そっちの状況はどう?石見墺而はどうなったかしら?》
「えっと…ちょっと派手に爆発を起こして、ですね…倒したっぽいです!」
《よかったわ〜ん!ところでその石見墺而、ポケットとかに何か入ってたりしないかしら〜ん?》
「ポケット…ですか?」
真っ黒焦げになって仰向けに倒れ込んだ墺而に近付くと、ズボンのポケットから赤黒い木製の小さな杭のような物体がはみ出ていた。
「何かありますね…なんでしょう?」
《それが筵の核かもしれないわ!姫様!》
えっ?
「筵の核?これがですか?」
確かに怪魔じゃなくても、結界の核はどこかにあるはずって目白くんは言ってたけど…こんなに小さな物が?
蜜樹さんの話によると、これは目白くんの推理で…
どうやら筵の展開者である人物は、すでにこの場から去っているらしい。
本来ならば結界術では、守られるべき展開者が結界の中に居る必要があるけれど、この筵ではその“守られる者”の役割をこの木杭に託しているらしい。
そうすることで展開者は結界の外に居ることができ、しかも本来守られるべき展開者本人が結界の外に居るというリスクを負うことで、トレードオフの原則により結界強度はさらに増している…とのことだ。
私の感想としては…そこまですぐに推理できる目白くん、やっぱりすごく賢い。
この木杭さえ壊せば、筵は解放できる。
《やっちゃって姫様!バチコーンと!》
「了解です!」
墺而のポケットからはみ出た木杭に手を伸ばすと…
ガシッ
「取らせ…ねぇよ…このクソアマ…」
墺而が突然起き上がり、伸ばした手を掴み返してきた。
《いやあぁ〜!?まだ動けるの〜ん!?》
墺而は顔まで真っ黒で、声も乾涸びきっているけれど…目は真っ赤に血走り、猛烈な怒りに染まっている。
「めんどいなぁ…めんどいよぉ…死に体だったくせに、こんなことまでしやがって…」
「僕はなぁ…そういうのが嫌いなんだよ…殺したくなるんだよ…!」
「ダルいよなぁ…こんなの、死ぬ程ダルいよなぁ!殺してやるよ甲府の姫君ぃ!この病院の連中もろとも!」
《まずいわ姫様!能力からしてダクトに入る気かも!》
椅子に向かって駆け出す墺而。
その真上にはエアコンの排気口がある。
蜜樹さんの言う通り、このままだとエアコンの中に入って、病院内に煤を広げられてしまう。
「それだけは…させませんっ!」
咄嗟に口に印を結んだ指を当て、炎を一気に吹き出す。
「もう食らってやるかよクソアマが!そんなわかりやすい軌道の攻撃、簡単に避け…なっ…!?」
グニョッ
狙ったのは墺而じゃない。
「狙ったのは…貴方が踏み台にしようとした椅子ですよ。」
高火力で一気に加熱された椅子は、樹脂が溶けてドロドロのベタベタになる。
全身を煤に変えながら跳ぼうとした墺而だけど…溶けた椅子に足がはまって体が崩れて、そのまま全身の煤が溶けた樹脂と混ざってしまったようだ。
「あっ…く、くそっ…まじダルいって…やめろって…あぁ…っ!」
グニャグニャの状態で固まり、ジタバタとその場で暴れる墺而。
私は剣を構え、墺而に歩み寄る。
「お医者様、看護師様、その他多くの方々を苦しめ弄んだこと…私は許しません。」
喚き散らす墺而。
「ゆ、許さない…だって…?ふざけんな、僕を下に見るな…っ!許すのも弄ぶのも僕の側っ…」
ゴンッ!
「ぐあっ…!?」
火麟の峰が脳天に直撃し、舌を出しながら白目を剥いて動かなくなる墺而。
今度こそ、完全に気絶したみたいだ。
「ふぅ…っ、ようやく成敗ですっ!」
【石見宗家五男 石見墺而】
─成敗─
──────
─2031年3月26日 13:00頃─
〔甲府藩 甲府市 甲府藩立中央病院 1F〕
その後木杭を壊したら、筵はあっさり消えて無くなった。
壊した木杭の残骸は、分析のために晶印さんが甲府城へ持って帰っていった。
そして私と目白くんは、ギッシャーに乗って再度二の丸病院へ帰されることになった。
中央病院へ行ったケガ人とその付き添い人の2人が、両方とも改めてケガ人となって二の丸病院へ戻って来るのである。
本末転倒というかなんというか…本当は落ち込むべきところなんだけど、帰り道の私は上機嫌だった。
なぜなら…
「う〜んっ♡しゅわしゅわで甘酸っぱくて美味しいです〜!」
「ん…確かに美味いな…」
目白くんとの会話に出てきたあの新開店のレモネード屋さんに、寄り道させてもらったからだ。
「疲れもケガもこれ一杯で吹き飛んじゃいそうです!」
いぇーい!と肩を思い切り伸ばして見せようとすると、胸と左足首に鋭い痛みが走る。
「いだっ…!?」
「はぁ…気を付けろよ、ケガ増えてんだからな。」
「はい…スミマセン…」
調子に乗りすぎました。
《目白も姫様も今回はだいぶ無茶したんだから〜…ちゃんと休むのよ〜ん?》
「そうします…あ、そういえば目白くん?」
「ん?なんだ?」
「炭酸…よかったんですか?」
目白くんだってケガしてるのに…
また私のわがままに付き合わせて、好きでもない炭酸を無理に飲ませてしまっているのでは…?
すると目白くんはため息を吐きながら、少し微笑んで答えてくれた。
「だから別にいいって言っただろ…今回は俺も飲んでみたかったしな。あと…」
「あと?」
微笑んでいた目白くんは一転、照れくさそうにそっぽを向いて、少し小さな声で呟いた。
「お前と一緒がよかった…それだけだよ…」
それって…それって…!
「目白くんもこれで炭酸が好きになってくれたってことですね!やった〜!」
《Oh…姫様…純粋すぎるわ〜ん…》
喜ぶ私の頭を「暴れんなよ」とぽんぽん撫でながら、目白くんは呆れ気味にまたため息を吐いていた。
「まあそれでいいよ…お前らしくてな。」
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
〈tips:人物〉
【石見 墺而】
甲府藩転覆を狙うテロ組織「石見宗家」の五男で、同組織の暗殺部隊「落鳥」の副隊長。
28歳。
何事もめんどくさがるダウナーな性格で、暗殺任務も「めんどくさいからさっさと殺す」という理由で手っ取り早く済ませるのがモットー。
落鳥の隊長である石見三而のことに対しては、自分の怠惰さを口煩く指摘してくるため、目障りな存在と忌み嫌っていた模様。
自分にとって煩わしい存在は徹底的に虐待したがり、繰り返し面倒事に遭わせてきた相手には激しい殺意を覚える性格。
自身の能力によって一度は窮地まで追い詰められたものの食い下がってくる蜜柑に対して激しい殺意を向け、潜伏していた病院の人間ごと抹殺しようと試みたが、怒りから判断力を失ったことが仇となってあっさり敗北・逮捕された。
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