#19 急襲 序「合わせ鏡」
時は2031年。
第22代江戸幕府将軍の治める太陽の国、日本。
此処はその天領、甲斐国・甲府藩。
豊かな水と緑を湛えるこの地は今…
その一割を「彼岸」に蝕まれている。
序 ~合わせ鏡~
僕は硯桜華。
甲府御庭番衆隊員で、藩校に通う中等部七年生。
甲府藩の藩校である徽典館に急遽編入することが決まった僕は、編入当日早々、学内に侵入した妖魔が、魂を封印する呪物「金瓢箪」を校内の禁庫から盗み出すという事件に遭遇。
蜜柑や目白、そして初対面のクラスメイトたちと協力し、激しい追走劇の末に金瓢箪を取り戻すことに成功した。
侵入者の管狐兄妹が盗もうとした金瓢箪は、殺された両親の魂が封じられたもの。
過去の妖魔迫害の歴史から、兄妹は藩が両親を殺めたと思い込んでいた。
その誤解が解けたは良かったものの…その後の調べで、兄妹の両親を手にかけた犯人は、兄妹を唆して藩校に侵入するよう仕向けたのではないかという疑いが浮上する。
犯人はこの藩校を狙っている…?
事件はこれにて一件落着とはつかなそうだ。
──────
─2031年3月10日 16:00頃─
〔徽典館 本館2F 7-1教室〕
キーンコーンカーンコーン♫
終礼のチャイムが鳴り、挨拶の号令がかかる。
「起立!礼!」
椅子を引く音、暫しの沈黙、そして礼が終わった途端にガヤガヤと沸き立つ喧騒。
当初は藩校のことを厳粛な藩士養成校だと思って身構えていたけど…実際の雰囲気としてはそんなことはなく、むしろ尋常学校よりも自由で伸び伸びとした雰囲気で安心した。
休み時間に買ってきたものを飲食してもいいんだ…とか、授業中にスマホを取り出しても怒られないんだ…とか、色々驚いたことがいっぱいある。
尋常学校と違っていわゆる「グレた人」がほとんど見受けられないのも、結構びっくりしたポイントだ。
流石は将来の藩士として教育されている子供たちの集まりなだけあって、言い方はアレだけど…治安が良い。
男女分け隔てなく仲良くしてるし、今のところ目に見えていじめや嫌がらせの類は見かけてない。
今日は月曜日。
藩校生活も四日目。
クラスの皆んなは騒がしいけれどとても優しくて、僕に初めての藩校生活のイロハを手取り足取り教えてくれた。
前の尋常学校の居心地は特別悪かったわけじゃないけど、ちょっと溶け込みづらい雰囲気があった…それに比べて七年一組では、驚く程早くクラスの皆んなと打ち解けることができたと思う。
本来ならば僕は最初からここに居るべきだったとはいえ、急な編入にここまで迅速かつ丁寧に対応してくれた天貝先生たちにも感謝しないといけない。
天貝先生の思い出話、いまだに長いけど…なにせお父様との思い出話だから、そこに僕の記憶の欠片が埋まっているかもしれないので、決してただの長話と切り捨てることもできないのだ。
そういえば、「硯桜華が生きていた」という大騒ぎを起こすこと間違いなしの大ニュースは、この数日間で夕斎様がパニックを生じずゆっくり広まるよう、蜜樹さんたち藩士団の皆さんと一緒に慎重に情報統制していたらしい。
夕斎様たちの話だと、僕の存在がバレることによって、特に硯家族滅を企んだ石見家が僕の命を狙ってくる危険があるという。
でもそれは御庭番となった今、大きな問題にはならないはず…なぜなら石見家は氏族を問わず、御庭番全員を攻撃対象としているからだ。
夕斎様には「いつ命を狙われてもおかしくない」とも言われたけど、今の僕には聖剣もあるし、任務中に横槍を刺されても応戦できる心構えはあるつもりだ。
それにしても、ハッチとソウカの両親を殺めた犯人のことが気になる。
仙太が割り出した人相はその後奉行所に提出され、蜜樹さんたちも捜査しているらしいけど…今のところそれ以上の手掛かりは得られていないらしい。
このままでは管狐兄妹があまりに浮かばれないけれど、犯人の尻尾を掴めないことには天下の御庭番衆も何もできない…とても歯痒い気持ちだ。
そもそも何が目的でそんな凶行に走ったのか…それすらも何もわかっていない。
机に頬杖をつきながら、ぼーっと天井に向かって目を細めながら思索に耽っていると、蜜柑と目白が顔を覗き込んできた。
「桜華くん!今日も一日お疲れ様です!」
「桜華、何か考え事でもしてるのか?」
初めての藩校生活をクラスの皆んなが支えてくれる…と言ったのは間違いじゃないけど、僕のお世話の半分以上を担っている二人のクラスメイトがいる。
蜜柑と目白だ。
二人は、藩校生活を始めるにあたっての手続きから、藩校の授業に追いつくための自習まで、まさに至れり尽くせりのフォローをしてくれている。
二人のサポートの甲斐あって、藩校の授業にはついて行けているし、土日の間にも勉強を教えに硯邸まで来てくれたおかげで、廿華やゲッコー師匠との交流も深まったみたいだ。
人見知りの廿華は、姉や兄のような友達ができて大層喜んでいた。
その他にも色々と助けてくれて、蜜柑と目白には感謝するばかりだけど…ちょっと困ったこともある。
とにかくどこへ行くにしても、最低でも二人のうち必ずどちらか一人はついて来る。
僕が困っていなくても、休み時間中に自販機や購買に立ち寄ろうとしただけでもついて来る。
お弁当を食べる時は、仙太や琳寧たちも巻き込んでぞろぞろと集まってくる。
蜜柑は姫君だから人気は言わずもがな、目白も一挙手一投足に黄色い悲鳴が上がるものだから、その二人がずっとくっ付いてくる僕は多くの生徒から羨望の眼差しを浴びている。
「桜華くんが迷子にならないように」とか、「桜華が変な奴に絡まれないように」とか、二人とも僕を見守りたい理由があるのはわかったけど…少々過保護じゃないですか…?
急に記憶が戻り環境も大きく変わってしまった、そんな僕を独りにしないための、二人なりの気遣いなのかもしれない。
だから文句を言いづらい。
「大したことじゃないですよ、ぼーっとしてすみません。」
にこっと返す僕に、蜜柑は心配そうな顔を、目白は少し訝しげな顔をする。
「本当だろうな?下手な隠し事はすんなよ。」
「少しでも困ったことがあるなら、気にせず私たちを頼ってください。」
僕は首を横に振る。
「今考えても仕方のないことです。行きましょう?」
首を傾げる二人の肩をポンと叩き、僕は教室を出る。
三人で廊下を歩いていると、徐に目白が尋ねてきた。
「桜華、そういえば部活はどこに入る気だ?」
部活…そういえば学校だから部活があるのは当然だけど、藩校生活に追いつくのがやっとですっかり失念していた。
「そういえば決めてません…オススメとかありますか?」
僕が聞き返すと、蜜柑と目白はニヤリと笑い、声を揃えて答えた。
「「弓剣道部!」」
弓剣道部…全国の各藩校にある、弓道や剣道などの武術をより深く学ぶための部。
徽典館の弓剣道部は、毎年全国大会でトップ3に入る強豪チームで、去年は優勝を飾っている。
何を隠そう、その弓剣道部の主将こそ目白で、蜜柑は選手兼マネージャーだ。
それってつまり…
「ただの勧誘ではありませんか?」
僕の台詞に蜜柑が慌てて両手を振る。
「そ、そんなことありませんよっ!?とってもとーってもオススメです!毎日いっぱい運動できますし、合宿であちこち行けて楽しいですし、運動センス抜群な桜華くんは喉から手が出る程欲しいですし…あたっ。」
目白が軽いチョップを蜜柑の肩に入れる。
「最後に本音が出てんだよ…まあ、設備は充実してるし、藩士見習で実働部隊に入ってる部員も多いから任務や勉強なんかの時間も融通が利くし、ストレートに勧めやすいとこだ。」
純粋に蜜柑や目白と同じ部活に入ってみたいという気持ちもあるけど、気になる部活は他にもあって…
藩校には部活や同好会が発行する学内誌もあって、たとえば今日は怪奇研究部が発行する「月刊ヌー」を読んでみた。
今月のトップは合わせ鏡に関するもので、「無限に続く合わせ鏡の向こうからは魔物がやって来る」という都市伝説について、各地の伝承を調査したという内容。
僕は非科学的なオカルトにも好奇心を掻き立てられてワクワクするタイプなので、そういう部活も気になっている。
仮入部なら今からでもできるけど、本入部は来月から。
まだ時間はあるから、ゆっくり考えよう。
僕たち三人はそのまま階段を降り、一階の購買に立ち寄って買い物をした後、校舎を出て…ある場所へ向かった。
──────
─2031年3月10日 16:10頃─
〔北口二丁目 竜禅寺〕
僕たちが向かった先は竜禅寺。
徽典館東館の藩立図書館から舞鶴通りを挟んで東側にある、無宗派の小さな寺院だ。
境内に入り階段を少し登ると、地面に木の枝で落書きする仙太と、それを呆れ顔で眺める琳寧の姿があった。
仙太は顔を上げると、ニヤニヤと笑って目白と蜜柑を揶揄い出す。
「お!目白に姫様じゃーん!おしどり夫婦うぃーっす!」
目白と蜜柑は、二人とも少し頬を赤くして否定する。
「お、おしどり夫婦って…目白くんはただの幼馴染ですってば!」
「一緒に居るからって適当言ってんじゃねえよ…」
「何だとこらぁ!その歳になっても当然のように休みの日に一緒に映画とか行ったり家に通い合ったりする“ただの幼馴染”がいるかー!羨ましいんだよ目白コノヤロー!あー俺も可愛い女の子の幼馴染が欲しいぜっ!…ぐえっ!」
大袈裟に喚く仙太の頭を、琳寧が思い切り引っ叩く。
「うるっさいわ!あと後ろにいる桜華のことも忘れないでやりなさいよ、可哀想でしょ。」
仙太はいてて…と頭をさすりながら僕の存在にハッと気付くと、すぐに立ち上がって駆け寄ってきた。
「桜華〜!見失っててわりぃわりぃ…」
管狐兄妹との追走劇を通して、特に仙太とは早々に仲良くなることができた。
授業中に教科書を立てて読み込んでいるフリをして寝ようとしたり、クラスの女子で一番おっぱいが大きいのは姫様だと教えてくれたり、くだらない下ネタで盛り上がったり…なにかと天貝先生の言う「お調子者の悪ガキ」という評価が当てはまる男子だけど、根は優しいムードメーカーだ。
見かければ元気な挨拶と一緒に飛んで来てくれる、気持ちの良いクラスメイトである。
「構いませんよ、仙太。そんなことより…随分早い到着ですね?」
僕が尋ねると、仙太は気前よく答える。
「俺たちは午前のうちに購買で必要なものは買っておいたからな!えらいだろ!」
胸を張る仙太に、琳寧はビシッと手の甲を入れる。
「あんたが弁当を買い込んでるのを見かけて、私が今のうちに一緒に買い物しとけば?って提案したんでしょうが…人の手柄を取らないでくれる?」
琳寧は風紀委員長…だけど、その肩書きの割にはやんちゃな女子だ。
先週の管狐兄妹との追走劇の際、仙太が教室から着てきた天狗の繭衣も、もともとは琳寧が汀家から勝手に持ち出してきたものらしい。
もちろん真面目で几帳面なところもあって、特に掃除には物凄く厳しい…
今日の終礼前の清掃時間には、琳寧のスパルタ指南によって、廊下の床を鏡のようにピカピカになるまで掃除させられた。
新しくできた友達の話は、ひとまずここまでにしておこう。
僕らがこの竜禅寺に来た目的、それは…
「これでよし…と。」
蜜柑がビニール袋から花とお菓子を取り出し、それぞれ花筒と供物台に置いて整える。
そして僕たちは、墓石に向かって手を合わせ、しばらく静かに目を閉じる。
暫しの沈黙の中、風の音と鳥の鳴き声だけが聴こえてくる。
墓には「浅利管狐之墓」と銘が刻まれ、さらに二人分の名前が刻まれている。
僕らが竜禅寺に来た目的、それは管狐兄妹の両親の御墓参り。
目白の見つけた二人の御遺体は、遺留品と兄妹の証言から身元を確認。
さらに司法解剖を受けた後、荼毘に付された。
金瓢箪に詰められた二人の魂は浄化後解放され、御骨はここ竜禅寺に納骨されることになったのである。
目白は御遺体のことをかなり気にかけていたらしく、身元が確認され納骨先の目処も立った際には「ちゃんと弔える」と安堵していた。
司法解剖の結果、二人の死因は頸部外傷による失血死と推定。
頸部は何か大型の獣の爪のようなもので、深く斬り刻まれていた。
甲府藩は今、全力を挙げてあなた方を殺めた下手人を探しています。
だから、もう少しだけ待っていてください。
──────
祈りを済ませ、今日はその場で解散。
蜜柑たちに「もう少し御二方にお話ししたいことがある」と伝え、墓前に一人残っていると、傍の藪の茂みがガサゴソと揺れ、中から管狐の姿をしたハッチとソウカが顔を出した。
僕が横目に微笑みかけると、二人はスルスルと藪から出てくる。
そして、花筒に咥えていたタンポポの花を挿すと、僕の両隣に来て人の姿に変わり、手を合わせた。
しばらくして、ハッチが口を開いた。
「タンポポ。小ちゃい頃から、よく摘んで…おっとうとおっかあに見せたら、ありがとうって喜んでくれたんだ。」
「あのさ…ありがとな…いろいろとさ。」
僕は首を横に振る。
「僕は何もしてませんよ。あなたたちのことを夕斎様に伝えただけで、後のことをやってくれたのは夕斎様たちです。」
二人は先週の追走劇の後、事情を聞いた夕斎様の手によってお咎め無しとなり、即座に孤児として甲府藩に保護された。
ここまで悲惨な境遇に置かれた者たち…ましてや子供たちを、夕斎様が放っておける訳がないのである。
それでも夕斎様の為人をよく知らず、人間は妖魔を迫害するものと教えられてきた兄妹にとっては、夕斎様の行動は意外だったみたいだ。
夕斎様は底抜けに人が良過ぎるから、兄妹の警戒心はかえって抜けにくくなるかもなぁ…
ハッチは続ける。
「ふたりとも、おれやソウカのこと、すごく愛してくれたんだ。だから、おれたちが逃げた後、ずっと離れたまま…心配させてたかもなって…」
「おれもソウカも、優しい人たちに拾ってもらったよ、だからもう心配しなくて大丈夫だよ…って、こうして桜華たちのおかげで伝えられるんだ。」
「だから…ありがとう。」
そう言って深く頭を下げるハッチと、一緒に頭を下げてくるソウカ。
「みんなが墓参りに来てくれるのも嬉しいんだ…だけどおれたち、まだ人間のことがちょっと怖くて、お礼を言えてなかったから…」
「(。'-')(。,_,)ウンウン」
二人とも本当は律儀なんだな…
蜜柑のことが誤解とわかった後、すぐ蜜柑や設楽校長たちに謝っていたし…
心優しく良識のある子たちで、やっぱり金瓢箪を盗んだのは、生きる術を失い追い詰められた末の行動だったことがわかる。
「聞いたよ桜華…桜華も親を殺されて、家もなくしたんだって…なのにあんなこと言って、ごめん。」
僕のことも気にしてくれてたんだ…
俯いたまま苦しそうに言葉を漏らすハッチの肩に、そっと手を添える。
「思い出したのは最近だけど、もう十年も前のことです。気にしないでください。」
「それに…こっちこそ、ごめんなさい。御両親を手にかけた犯人を、なかなか見つけられなくて。」
僕の言葉に、ハッチは拳を震わせながらグッと握り込む。
「おれは、おっとうとおっかあを殺した奴を絶対に許さない…必ず見つけて、同じ目に遭わせてやるんだ…!」
「おっとうとおっかあが、どれだけ痛くて、熱くて、苦しい思いをしたか…味わわせてやるんだ…!」
何処にもぶつけようのない、後悔・憤怒・悲哀・憎悪がぐちゃぐちゃに混ざったドス黒いもの。
今のハッチの心の中を支配しているのは、そんな感情だろう。
でも僕は、その匂いや熱を知らない。
だから、ちゃんと理解して寄り添ってはあげられない。
悔しいな…
するとハッチが僕に問い掛けてきた。
「桜華はさ、思わないの?」
「自分の親を殺した奴のこと、同じ目に遭わせてやりたいって…殺してやりたいって思わない?」
胸がドキッとして、一瞬息が止まった。
予想外の質問だったというのもあるけど、それ以上に…びっくりする程、答えが何も思い浮かばない質問だった。
しばらく沈黙が流れ、再び風音と鳥の声だけが響く。
僕は…
「僕は…」
たとえ相手が、お父様とお母様の命を奪った下手人だったとしても…
「殺すのは、嫌かな…」
「なんでだよ…そんな悪人、死んで当然だろ!」
困惑した表情で反論してくるハッチに対し、僕は少し目線を下に逸らす。
「死んで当然…って、何なんでしょうね。」
「腹の底から憎かったとしても、許されざる罪を犯した極悪人だったとしても、僕は…殺すのは嫌です。」
…違うな、そうじゃないな…
僕はそのままハッチに語り続ける。
「…嫌というのは、ちょっと違うかもしれません。」
「怖いんです…憎しみとか、罪とか、そういう問題を解決するための“方法”として、暴力を選ぶのが。」
「一度でもそれを選んでしまったら、色水に黒い絵の具を一滴溶かしたみたいに、日常に暴力が染み込んできて…」
「そうやって、僕にとって“傷付けていいもの”ができた時、本当に大切なものの尊さまで曖昧になっていくのが…」
「それが怖くて仕方ないんです。」
──────
─2031年3月10日 16:45頃─
〔徽典館 本館2F 7-1教室〕
夕陽が差し込み、オレンジと黒の二色刷りになった教室の中。
ハッチたちと別れた僕は、ふと教室の机の中にペンケースを置き忘れたことを思い出し、鍵を借りて取りに戻ってきた。
「…ん、みつけた。」
ペンケースには印鑑も入れているので、持ち歩いていないと困る。
用も済んだのでさっさと鍵を返しに職員室へ戻ろうと思った時のこと、教室の真ん中の机に、不自然に鏡が置かれているのに気付いた。
卓上に置いておくタイプの、小さな立て鏡。
廊下側の窓は差し込む夕陽を反射して、鏡のようになっている。
立て鏡は廊下側の窓と向かい合わせに置いてあって、立て鏡をチラッと覗き込んでみると、僕と窓の像が鏡のずっと奥の方へと何重にも続いて見えた。
絶妙な具合に作られた合わせ鏡。
でも誰がこんな所に立て鏡を置いたんだろう?
教室を出る時には、机に鏡を置いてる人はいなかったし…お化粧や肌のお手入れのために置いたものを、そのまま忘れたとか?
でもそれにしては堂々と置いてあって、誰か気付きそうなものだけど…
そんなことを考えながら、途方もなく続く合わせ鏡の奥をじっと見つめる。
迂闊だった。
無限に続く合わせ鏡の向こうからは、魔物がやって来る。
合わせ鏡の奥の奥、像が見切れる所から、小さな「何か」が顔を出す。
猫のような姿、緑色の炎を纏った黒紫色の毛皮、不気味に長く伸びた四対の脚、前脚から伸びる大きな鉤爪、大きく尖った二つの耳、鼻や口がない代わりに大きな四対の眼で埋まった顔。
そして湧き出る、魂のオーラ。
これは式神…近くにソウル使いがいる!
猫のような式神は僕と目をしっかり合わせ、こちら目がけて勢いよく駆け出す。
危ない!
咄嗟に鏡を投げ捨てて体を反らすも…
ガシュッ!
「あうっ…!」
左頬を掻き切られ、僕は仰向けに床に倒れ込む。
「いつ命を狙われてもおかしくない」
その言葉の意味を、僕はようやく理解する。
任務中だけじゃない…街にいる時も、家にいる時も、学校にいる時も。
いつどこにいても、僕の命は狙われ得る。
そして今の状況を、僕はここで理解する。
あの合わせ鏡は…
僕を“狩る”ための罠だった!
〔つづく〕
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〈tips:ソウル〉
【soul name】水龍奏術
【soul body】硯 桜華
パワー-A
魔力-A
スピード-A
防御力-D
射程-B
持久力-C
精密性-C
成長性-A
【soul profile】
甲府御庭番衆隊員・硯桜華のソウル能力。
自身の掌から水を生成し、生成した水を加圧したり、波動させたりできる。
自分が生成したものでない水は加圧できないが、波動させることはでき、生体内の水分を波動させて防御不能の打撃を放つことも可能。
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