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楽しい時間は短いので

「食堂って、どこだっけ?」

昨夜は甲板の上で食事を済ませていたので、食堂の場所を知らない事に気がついた。

誰かに聞こうと、キョロキョロしながら歩き始めると。

ジャンジャンジャン!

大きなドラの音が響き渡り、次いで。

「オラ朝飯だ!朝飯!」

そのドラよりも大きなギャンガルドの声が響き渡った。

「あたし達が伝えてあげなくても充分だわね」

呆れ返ったキャルの声に、セインは笑った。

他の海賊達にくっ付いて食堂へと向かうと、大皿に料理が盛り付けられていて、美味しそうな匂いを漂わせていた。

好きなものを自分で小皿に取って食べることが出来るので、キャルはそれが面白いと喜んだ。

「美味しい!」

嬉しそうにあれもこれもと皿に取って頬張るキャルに、タカに頼んで弁当を包んでもらおうとセインは考えていた。

忙しいところに迷惑かもしれないが、彼なら作ってくれるだろう。

そこへタイミング良く、タカ本人が何やら大皿を持って現れた。

「どうだい?俺の腕前は」

「すごく美味しい!」

「そうかいそうかい、へへへ」

キャルの様子に、嬉しそうにタカは笑った。

「で、俺からのプレゼントだ」

そう言って持ってきた大皿を、ドン、とキャルの前に置くと、おもむろに伏せていた巨大な蓋を開けた。

「きゃあ!」

「おお…!」

キャルは飛び上がらんばかりに手を組んで、まわりの男たちは驚きの声をあげた。

「タカ、これ…」

「スゲエだろ?」

セインはタカとキャルの嬉しそうな顔と、目の前の白くて大きくて丸い、華やかな食べ物を交互に見やる。

まるでウェディングケーキのようだ、とは思ったが、口には出さなかった。

「作るの、大変だっただろう?」

「なに、みんなに手伝わせたさ」

三段重ねのケーキは、天辺にピンク色のクリームで作られた薔薇が、大輪の花を咲かせ、その周りには白いクリームで作られた薔薇やリボンが飾り付けられ、美しさに食べてしまうのが勿体無いほどだ。

「朝から何だとは思ったけどよ。朝飯食ったら言っちまうんだろう?」

ほれ、と言って、堤を二つ、さらに渡される、

「弁当だ。昼にでも食ってくれよ」

「ここまでしてもらうなんて、悪いよ」

作ってもらうつもりだった弁当が、こんなもてなしまでしてもらった上では申し訳ない。

タカはそんなセインに、パチリとウィンクをしてみせた。

「へへ、世にも珍しいもの見せてもらったしな!聖剣に芋の皮剥きまでさせちまった海賊なんざ、きっと世界中どこを探したって俺だけだぜ?」

セインは泣きそうになった。

人の親切が、こんなに骨身に染みたのは、いったい何百年ぶりか。

「…ありがとう」

「あんだよ、照れるじゃねぇか」

タカはセインの背中をバシバシと叩いた。

キャルの二つ名にあやかった巨大な薔薇のケーキは、デザートとして振る舞われ、朝だというのに瞬く間にみんなの胃袋に消えて無くなった。

楽しくて美味しい時間はあっという間に過ぎてしまい、セインとキャルは、島に行くためのボートを下ろしてもらっていた。

「もう少し近づけりゃ良かったんだが、こっから向こうは浅瀬になっちまってて、船が乗り上げちまうんでな」

「ボートを用意してくれただけでも充分だわ。第一印象は最悪だったけれど、みんな以外に良い海賊だったし」

「良い海賊、ねえ?」

ギャンガルドは言われ慣れない言葉に、こめかみがむず痒くなる。

「タカ、ちょっと屈んで?」

「?何だい」

キャルに言われるまま、タカは彼女の顔の高さに自分のそれが合うまで屈んでみせた。

ちゅ

軽い、柔らかなキスを頬に受けて、タカは顔から火が出るほど真っ赤になった。

「お。茹蛸一丁あがり」

「キキキ、キャプテン!」

そのやりとりに、どっと笑い声が溢れる。

「お料理とか、いろいろありがと。ケーキ、今まで食べた中で一番美味しかったわ!」

キャルの笑顔に、タカは照れ隠しに自分の頭をつるんと撫でた。

「今日は1日よく晴れるぜ。けど、明日にゃちょいと風向きが変わるかもしれねぇから、気を付けてな」

ラゾワが、キャルに手を差し出した。

「今度またおんなじ事をしたら、スッパリ切ってあげるから、覚悟しときなさいよね」

微笑みながら、今度こそ、キャルは差し出された大きな手を、小さな手で握り返した。

「き、気をつけるよ」

逃げ腰のラゾワに、ギャンガルドが追い打ちをかけた。

「もう、男と女を間違えんじゃねえぞー」

「キャプテェ〜ン…」

再び笑いが起こる。

もう勘弁してくれといった様子のラゾワに、セインが手を差し出した。

「君とは色々あったけど、ここの人たちに会えたのは君のおかげだから、礼を言うよ」

「良いんだぜ、セイン。フォローしてやらなくても」

ギャンガルドがまたそんな事を言うので、ラゾワはセインの手を握り返しながら、先ほどのタカに負けないくらいに顔を真っ赤にして泣きそうになっていた。

周りの海賊達からからかいの口笛やら励ましの声やら笑い声やら、クイーン・フウェイル号の甲板はしばらく賑やかに盛り上がった。

キャルとセインは、用意してもらった小さなボートに乗って漕ぎ出すと、何度も振り返って手を振り、クイーン・フウェイル号を後にした。

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