これはこれで
「キャロット•ガルム。またの名をゴールデンブラッディローズ。黄金の血薔薇と呼ばれる賞金稼ぎが、まさかこんな子供とはね」
ギャンガルドはニヤリと笑った。
「悪かったわね。みんな絶世の美女とか思うらしいけど、こんなお子様でがっかりしたでしょ」
このやりとりに、海賊たちは開いた口を更に開けた。
「えええええ?!こんなチビがですかい?」
あの、禿げた海賊がキャルを指差した。
「侮るなよ?お嬢さんの剣技をここで披露してもらうか?お前なんかあっさりと真っ二つだ」
ゴールデンブラッディローズ。
海賊たちは一斉にキャルとセインから距離を取った。
「流石ね。あなたの配下だけあるわ。ガラは悪くても、頭は回るのね」
セインの券が届く距離ではないが、懐にはすぐに潜り込める。そんな距離だ。
「さっきも言ったが、俺はお前さんらが気に入った。コイツらの事は気にするな。癖だ」
さらりとそんなことを言われても、にわかには信じ難い。
「…物騒な癖ね。気に入ったって、私が賞金稼ぎである以上、あなたの首を狙うとか、そうは思わない?」
「この船の上でか?不可能だろ。俺の首を取って、それから?海の上でどうする?俺の部下しかいない船上で、危険なのはアンタたちの方だと思うがな」
いくら有名な賞金稼ぎと凄腕剣士の聖剣とはいえ、この船の屈強な男たちを前に、海に出てしまってはそれは不可能だろうと思われた。
「そうなったら、ここにいる全員蹴倒してでも陸に帰らせてもらうわ。それくらいの自信ならあるわよ?」
海賊王の意に反して不敵に微笑むキャルに、ギャンガルドはまた、愉快そうにくつくつと笑った。
「やっぱり気に入った!どうだ?俺の船に乗っておかないか?ここで戦うのも良いが、どうせならタダで島に行った方が良いだろう?」
その申し出に、キャルは少し首を傾げて考えた。
その仕草はどう見ても八歳の少女でしかなく、とても賞金稼ぎには見えない。
お金なら、まだあるから、当分は大丈夫。ここで海賊を押し退けて小舟か何か奪うにしても、場所がよく分からない上に、何しろ面倒くさい。
しかも小舟で行くより大きな船の方が快適だ。
おまけにあの海賊王ギャンガルドの船だ。
見物するのも観光気分で楽しいかもしれない。
「決めた!着いてく!」
なんとなく、そう返事をするであろうと予測していたセインは、諦め気味の笑顔を作った。
「キャル。彼らは僕が目当てだったって忘れているでしょ」
ぼやくセインに、海賊王は答えた。
「お前さんが喉から手が出るほど欲しいことは変わらないが、さっきのアンタら見てからじゃ、諦めるよりないだろ。五百年もの封印が解かれた理由ってのは、是非聞いてみたいがね」
「簡単さ。 キャルが僕を起こした。それだけだよ」
微笑むセインに、ギャンガルドはニヤリと笑った。
「さあ、話はまとまった!野郎ども!この二人は俺たちの客人だ!粗相のねえようにしやがれ!」
「おおう!」
活きの良い声が、あちらこちらから一斉に上がった。
キャルもセインも、とっくに粗相は働かれているものの、それからの忙しさにあれやこれやも流されてしまった。
大変だった。
一気に盛り上がった船の上は、出航の忙しさに嵐のようで、セインなどは有無をいわさずに駆り出され、ロープ張りやら帆を下ろしたりするのを手伝った。
ひと段落すると、今度は無事に船出ができた祝いで、甲板はお祭り騒ぎとなる。
酒樽がいくつも運び出され、コックが腕を奮った自慢の料理が、テーブルから床の上から、所狭しと並ぶ。
柱と柱の間にはランプが吊り下げられ、巨大なイカ釣り漁船のようだ。
セインもキャルも、その騒ぎに呆気に取られて、ただポカンと海賊たちを見ていた。
「…凄いわね」
「うん。僕も何度か船には乗ったけれど、ここまでお祭り好きなのは初めてかな」
なんとなく隅に寄って、並べられた料理をなんとなく摘んでいると、あちらこちらから同じ言葉が聞こえてくる。
「グラート!」
「わあ!」
その言葉が自分の真横から発され、セインはびくりと肩を縮めた。
「な、何?」
キャルはキャルで、セインにしがみ付いている。
「おりゃあ、タカっていうんだ。お嬢ちゃんに挨拶したくってさあ」
よくみれば、酔っ払ったあの禿頭だった。
「主賓がこんなところに居ちゃあ駄目じゃねぇか。向こうへ行こうや!」
そう言って、グイグイと二人を引っ張って、気が付けば甲板の真ん中に連れてこられていた。
そうなると、二人の周りにどんどん人だかりが出来て行く。