海賊王という男
前回更新から時間開きました。色々ありましたが落ち着いてきたのでまた更新続けます。
「何でそう思うの?」
今までセインに剣を出させても、あんな取り出し方をするものだから、手品師くらいには思われても、彼が聖剣であると気が付いた者などいなかった。
大賢者•セインロズドが引き抜かれた噂は耳にすれど、正体を見破られたことはなかったのだ。
「こんな、私みたいなお子様が、聖剣を引き抜けるとでも?」
「聖なる剣なんだろ?だったら、大人だけが引き抜けるとは限らない。むしろ子供の方が引き抜けそうだと思うが?」
キャルは血の気がひいて行くのを感じた。
セインがあの聖剣だと知れてしまったら、大変なことになる。
彼が封印されていた聖堂の周りに集まっていた、頭の悪そうな大人たち。
私利私欲に目が眩んだ権力者や、ただ他人を威圧する力を欲するだけの馬鹿者どもが、寄ってたかって聖剣を我が物にしようとするだろう。
そうなったらセインはどうなる?
自分は?
キャルはゾッとした。
「あいつが聖剣?変な特技はあるけど、ただの人にしか、私には見えないわ。それともけんが人に化けるとでも?」
「大賢者•セインロズド。どれほどの業物であろうが、単なる鉄の塊に、何故賢者の称号が与えられたのか?それを考えたら、聖剣の正体が人間だって不思議じゃねえ。案外、頭の切れる凄腕の剣士に、そんな二つ名が付いただけなのかもしれないしな」
おどけてそんな事を言ってみせ、次の瞬間にはにやりと笑う。
「呆れた。その剣士は一体何歳なのよ?」
睨み返せば
「•••世の中結構、摩訶不思議なもんなんなんだぜ?」
今まで見て来た大人たちとは違う。
キャルの本能が危険信号を発していた。
そんなキャルの警戒などお構いなしに、男はキャルの頭をわしわしと撫でる。
「海賊なんてものをやっているからな。いろんなモンを見て来たのさ。おかげで御伽話までガラにもなく信じられるぜ?」
「•••じゃあ、エルグランド島は?何か見た?」
頭の上にあった手を払い、キャルは身を乗り出させた。この男は色々な意味で警戒の必要はありそうだが、御伽話まで信じられるというのなら、何か手掛かりになる情報を持っているかもしれない。
「なんだ?あの島に用なのか?」
キャルの勢いに気押されて男が目を瞬かせた。
「そうよ!伝説が残るあの島で、何か見た?!」
「そりゃ、残念だな。俺もここにはあんまり来ないんでな」
「そう•••」
がっくりと、キャルは肩を落とした。
「何だ、傷つくな」
顔を覗き込まれたが、不意とそっぽを向いてみせた。
「別にあなたが傷付いたって構わないじゃない。私には関係がないもの」
「そりゃあ、まあ、そうだ」
男はキャルの冷たい反応に、大袈裟に肩を小さくする。
「•••あの島、何かあるのか?」
「さあ?楽園に続く道だか扉だかががあるっていう伝説があるだけよ。そんなことくらい知っているでしょ」
「その割にはご執心だな?」
「だから何?私が何にご執心だろうと、海賊には関係の無い事だわ」
男との会話に、キャルはだんだん腹が立ってきた。先ほどから床の上に座りっぱなしで足が冷たくなってきているのも原因かもしれない。
相手も床に座っているとはいえ、最初からニヤニヤと、どこかしら嬉しそうなところが癪に触る。
今のこの状況を、楽しんでいるのだ。
この男は。
「キャプテン!例のヤツが来ましたぜ!」
またもやノックも無しに、頭のハゲた、初めて見る男がドアから出て来た。
「レディの前だぜ。ノックくらいしろ」
「あ、ハイ!すいやせん!」
禿頭の男はドアを開けたまま引っ込んで、そのまま甲板へ飛び出して行く。
「さあ、騎士のお出ましだ」
そう言って立ち上がると、いよいよ楽しそうに男は部屋から出て行ってしまった。
ドアは開けっぱなしで。
「騎士?って、セインの事よね?騎士?あいつが騎士?似合わな過ぎ!」
残されたキャルは、ドアが開け放たれている事よりも、男の残した台詞の方に気を取られ、先程までの不機嫌も忘れて笑い出した。
そんなふうに自分が笑われているとは露知らず、セインは海賊船の甲板上で、複数の男たちと対峙していた。