とある少女と眼鏡の青年
数年ぶりに来てみたら、結構読んでおられる方がいらっしゃるようなので、一度削除してしまいましたが最初に掲載したお話を、もう一度掲載し直すことにしました。びっくりした。
コピペもできないので一から打ち直しになりますので、少しづつ掲載していきます。
連載も途中で終わっているので、どうせなら最後まで書こうかと思います。よろしくお願いします。
「どうしたらこういう状況になるのかしらね?」
金色の、ふわふわの髪を揺らし、白くて細い両の腕を組んだまま、少女は足元の青年を見下ろした。
「ううう、ごめんなさあい」
ズレた眼鏡はそのままに、青年は背中を丸め、うずくまったまま頭を庇うポーズを条件反射的に取って、少女に見下ろされながら謝った。
ちゃんと立てば、二人の身長差は頭三つ分ほどもあるというのに、どうやらこの二人の立場は身長とは関係が無いらしい。
「あんた、歳いくつだっけ?」
「・・・えっと?」
「じゃあ、あたしはいくつ?」
「やっつ?」
少女は額に青筋を立て、げしげしと青年を蹴り付けた。
「アンタ見た目どう見ても二十歳とっくに超えてるわよね!」
「あ痛たたたたた!やめてようっ」
どうやら、年齢差も関係が無いらしかった。
「ちょっと買い物に出掛けたはずなのに、戻って来ないから探しに来てみれば、何をどうしたらこうなるの?!」
「・・・不注意?」
がつん!
「げふう!」
少女は、今度は青年の背中を踏みつけた。
「お嬢ちゃんよ、俺らを無視しないで欲しいんだがな?」
無骨な髭面の男が、二人の会話に割って入る。
「あら、ごめんなさい?でも、あんたたちの欲しいようなもの、悪いけど持っていないのよ」
振り返った少女の先には、数人のガラの悪そうな男たちが、にやにやと下卑た笑いを顔に張り付かせていた。
ここは港町。
大きくもなく、小さくもない、よって物資はそこそこあるが、警備もそこそこ。こういった港には、時々海賊なんてものが立ち寄ることがある。
二人は今、そんな海賊に絡まれている最中なのであった。
「爽快?じゃあしょうがねえな。そこのメガネとお嬢ちゃん、二人に来てもらうか。あんたら二人、良い値で売れそうだ」
髭の男がそう言うと、残りの海賊たちが一斉にゲラゲラと笑いだす。
暇潰しに連れて行って、最後には奴隷商人にでも売ってしまおうという事だ。
「・・・そういう物騒なことを言われて、ハイ・ソウデスカなんて着いて行くわけがないでしょ!セイン!あれ!」
「えー?あれ出すの?この人たち一般人だし、気が引けるんだけど」
ごいん!
変な音が青年の頭から発せられた。
少女に殴られたためだが、彼女は構わず二発目の拳をつくる。
「こいつらのどこが一般人なのかしら?」
「分かりました!ごめんなさい!」
涙目になりながら青年は立ち上がり、両手を合わせた。
その合わせた手の平を、ゆっくりと離して行くと、手と手の間から何かが生まれ始めた。
まず姿を現した柄を左手に握り締め、右手の平から赤ん坊が産まれるかのように、彼のものであろう赤い液体でぬめ光る、鋭く長い刃が引き摺り出されて行く。
やがて、青年の血と体液を滴らせ、ずるりとその身を露わにした。
ずぶずぶと、生々しく出現したそれを、少女はためらいもなく掴み取り、その長く煌めく刀身の切先を海賊たちに向ける。
それは一振りの剣だった。
「何だ?今のは」
人の手から抜き身の刀剣が生まれる異様な光景に、海賊たちは呆然とした。
「あたしたちに目を付けたのが運の尽きね」
少女は不敵に笑う。
「手品か?どうやったかは知らねぇが、その大刀、お嬢ちゃんには重いんじゃねぇのかい?」
男が少女に掴みかかろうとした、その瞬間だった。
シュリン・・・!
軽やかな音色とともに、少女の姿が視界から消えた。
「うわあああ!」
後方から聞こえた仲間の悲鳴に、男が振り返ると、信じられない事が起こっていた。
ベルトを斬られてズボンを押さえる者、頭部のてっぺんにハゲを作られた者や、腕に巻いていたバンダナを半分にされた者と、一人一人が皆一様に、どこかしら切られている。肝心の自分は、いつの間にやら小刀を下げていたホルダーベルトをスッパリと切られていた。
まさに電光石火。
十にも満たない少女の仕業とは思えない。
慌てて振り返れば、少女たちはもう遠くに逃げて行くところだった。
「一体、何者だ・・・」
海賊たちは不本意ながら、少女の言ったとおり、あの二人に目を付けた不運を認め、後を追おうとはしなかった。
「キャ、キャル。もう大丈夫だよ」
「あ?そう?じゃあ、歩きますか」
ズレた眼鏡を掛け直し、ぜいぜいと息を切らせている長身の青年セインとは対照に、スカートの裾さばきも軽やかに、小さな女の子のキャルはケロリとしている。
「若いって良いなあ」
しみじみと呟くセインに、キャルは歩調を合わせた。
海賊相手に先程の立ち回りを演じたとは思えない二人が、のんびりと街中を歩く。
「セインはもう年寄りだもんね。多少は労ってあげるわ。でもね、何であんなのに絡まれてんのよ」
「年寄りって・・・、うう、傷つくなぁ」
わざとらしく胸を押さえる青年を、少女はスッパリと無視をする。
「あたしがいなくたって何とか出来たんじゃないの?」
「だって、僕が手を出すわけにはいかないじゃないか」
「あたしなら良いわけ」
「う。良くないです。ゴメンナサイ」
歩きながら、どちらが年上なのか分からないような会話を、二人は延々と続けていた。
「ほんと、セインなんか引っこ抜くんじゃなかった」
「それはないよキャル!」
眼鏡の青年、セインと出会ってから、すっかり口癖になってしまったふわふわの金髪の少女、キャルはまた口にした。
聖剣・大賢者セインロズド
三ヶ月ほど前、封印されていたこの伝説の剣が、何者かによって数百年ぶりに解放された。
その噂はまことしやかに囁かれてはいるものの、事の重大さの割には、あまり広がりを見せてはいない。
それもそのはず。
その当人たちが、実はコレである。
眼鏡を掛けた背の高い、おっとりした青年が、長い歴史の間、自身を封印し続けていた聖剣の正体であり、また、その封印を解いて、彼を永い眠りから目覚めさせたのが、この幼くも勝気な少女、キャロットであった。
「岩に突き刺さっていたあんたを引き抜いてからというもの、ロクなことが無いわ。聖なる剣っていうなら何かこう、奇跡とか何か起こせないの?」
「む、無理デス…」
「…分かってるわよ。真面目に答えないでよバカ」
二人の会話は宿に着いてからも続いた。
「明日にはこの町を出るんだから、しっかりしてよね」
「うん」
素直なセインにため息をつきつつ、キャルは部屋のドアを開ける。
中は簡素だが清潔に掃除され、換気もされていた。小さな宿屋であるが、安いし快適だし、何より料理が美味しい。
ここを離れるのは何となく惜しかったが、目的のためには仕方がない。
「次はどこへ行くの?」
「そうね。船で海を渡って、ここへ行こうと思うの」
セインが買って来た新しい地図を、キャルがわさわさと広げ、テーブルの上に広げて一点を指差した。