三十二話 カース再び
本当に4月なのかな、寒すぎる(;´Д⊂)
初めてカースと会ったときは身体能力などいろいろと負けていたが、憑依状態である秀は3匹のカースの動きを上回っていた。
「初めて会ったときとは随分違うな」
〈へー前にも会ったんだカースに〉
「ああ、前に会った時は逃げてた所をラウルって人に助けてもらっ・・・」
〈ちょっと秀後ろ!〉
秀が言い終わる前に後ろからカースが飛びかかってきたが、秀はちゃんとそのカースに気付いていた。
前に屈み、上を跳んだカースに持って来ていた木刀で腹部を突き、一匹目をたおした。
「俺にケンカを売ったことを後悔するんだな」
残った二匹を睨み付けると、二匹は地と足がくっついたように動けなくなっていた。
「そっちが来ないならこっちから行くぜ!」
地を強く蹴り二匹の内の一匹との距離を詰め、木刀を首根っこ目掛けて降り下ろし二匹目を倒す。
「さあ、残るは一匹」
最後に残った一匹は己の命の危機を感じ、尻尾を巻くように逃げていった
「残念だったな、前の俺とは違うんだ」
〈さて、邪魔者も居なくなったし、始めるよ〉
「具体的に俺は何をすればいいんだ?」
〈私の中にある負を受け入れる器を私の中から取り出すとから秀はそれを泉に器を沈めたらいいの、ね、簡単でしょ〉
「うーん、簡単って言ってもなー」
〈はいはい、しのごも言わないで男の子ならやるの〉
後ろから背中を押され、急かされ、器を移し変える準備に入った。
シルフィーが目を閉じ瞑想を始め、二人がいる森に静寂に包まれる。
(始まったか・・・)
〈我が身に宿る器よ、我の想いに応え姿を現せ〉
シルフィーがぶつぶつとそう唱えると体から光の集合体のような物がシルフィーの体から出てきた
「あらまーこりゃ見事なもんだな」
〈さあ秀、この器を泉の底に置いてきてね、私は器を移し変えるまで動けないからよろしくね〉
「はあ、またす潜りか」
おもむろに服を脱ぎ出した秀を見てシルフィーは顔を真っ赤にしてすぐさま体を反転させた。
〈あのね、脱ぐなら脱ぐって言ってよ〉
「ん?悪い悪い、潜るに服は邪魔だったからさ」
森中でパン一の完全な変質者になった秀は泉の中に入り器を沈める為に息を少しだけ吸い潜水を開始した。
〈頑張ってねー〉
(本当にここの泉は綺麗だなー、泉の底が見える泉なんて元の世界じゃなかなかないよな)
一気にスピードを上げて底まで泳ぎ着くと、持っていた器を底にそっと置くと、器は底に吸収されるように入って行った。
(これで完了なのかな・・・)
底を強く蹴りすうーと上がっていき、泉から出てきた。
「ぶはぁ、はぁはぁ、シルフィーこれで完了なのか」
〈うーん、私の体も動く様になったし、器の移し変えは成功したと思うよ〉
「そうか、じゃあ帰りますか、腹も減ってきたことだし」
「あら、もう終わったの早いわねー」
どこかで聞いたことがある声が後方から聞こえた為、シルフィーと同時に後ろを向くと、レーガル城で殺されかけた女の人がいた。
「げっ、あんたはあのときの」
「あら、女性相手にあんたは失礼よ、私にはちゃんとディアって名前があるんだから」
〈なになに、秀この人知ってるの?〉
「シルフィー!有無を言わずに憑依だ!」
突然のことで何がなんだか分からないシルフィーだったが、秀の焦りを見てすぐに憑依状態に入った。
「あら、前会った時とは随分成長したわね、戦闘状態に入っているところ申し訳ないけど、私はあなたと戦うつもりはないわ」
「はぁ?じゃあ何しにここに来たんだよ」
「ここの森はレイラちゃんが好きな場所なのよね、レイラちゃん」
ディアが城で会ったレイラの名前を呼ぶと、ディアの後ろからレイラがひょっこりと出てきた。
「ちっ、何が戦うつもりがないだ、しっかり精霊契約しやがって」
〈待って秀、あの人と戦うつもりなの〉
「当たり前だろ、精霊契約したってことわ、戦う気満々ってことだろ」
〈落ち着いて秀、なにがなんでもあの人と戦っちゃダメ!〉
「はぁ、何でだよ?」
〈とにかく戦っちゃダメだよ逃げて!〉
先程までとはうってかわって、秀と同様シルフィーが焦っていたため、ちっ、と舌打ちしてからゼファの時と同じようにその場から逃げ出した。
「あら、お帰りのようねまあ別にいいけど」
逃げる秀を見ても、ディアとレイラはまったく追おうとはしなかったため、何事もなく、その場から逃げることが出来た。
そのまま逃げ続けた秀は憑依状態であるためか、前来た時より早く宿屋に着いた。
「あ、お帰りなさい秀さん、どこか出掛けてたんですね」
「まあちょっと気晴らしにね」
ラニアと簡単な受け答えをした後、自分部屋に戻った秀は精霊契約をしたせいか疲れて寝てしまった。
―その日の夜―
「なあシルフィー、そろそろ教えてくれないか」
〈あの時ディアと戦っちゃダメって言ったこと?〉
秀はこくりと頷く
〈まず聞くけど、あのレイラって子に違和感を感じなかった〉
「違和感?」
何も感じなかったと受け取ったシルフィーはこりゃダメだという顔してから続けた。
〈精霊契約したならレイラって子にも魔力が感じる筈なのに、レイラって子には全く感じなかったの〉
「確かにゼファの時にはタトゥナスにも魔力が感じたな」
〈感じなかったってことは精霊契約じゃないってこと〉
「ええぇぇ!」
シルフィーから聞かされたことにただただ驚愕していた。
「じゃあ、あのディアとレイラは何だって言うんだ?」
〈ディアがやったのは・・・・・・屍契約だよ〉