三十話 精霊契約の力
〈分かってる秀、アイツと戦っちゃダメだよ〉
「分かってる、でもどうすればいいんだ」
〈大丈夫、今の秀には魔力が備わっているけど、使い方なんて分からないでしょ、だから私に任せて〉
「任せてって言われてもどうするんだ?」
〈そ・れ・は♪・・・・・・失礼しま~す♪〉
シルフィーが背後から近づき、秀と重なりあった
「うおっ!!・・・・・・」
秀と重なりあったシルフィーの姿が秀の体に吸収されていった。
しかし秀が次に口を開いた時の口調はシルフィーの口調だった
「選手交代♪」
〈おいおい、どうなってるんだ?〉
「ほう憑依したか」
〈憑依だと?〉
「そうだよ、私が秀の体に取りついてるんだ、秀の体は今は私の物だよ」
〈何でそんなややこしいことをするんだ?〉
「それは秀が魔力の扱い方を知らないから、私が憑依して、使うしかないでしょ」
何も言えない自分が腹立たしいが、実際のところゼファから逃げるにはどのみち一筋縄ではいかないだろうから、今はシルフィーに任せるしかない
緊迫した空気のなか、先に動いたのはゼファだった。
「タトュナス、俺達も憑依するぞ」
〈おう、派手にぶっぱなそうぜ〉
タトュナスがシルフィーと同じように契約者に入り込んだ。
「さあ、始めようか」
〈なあシルフィー、何でアイツ憑依したのに、口調はそのままなんだ?〉
「一口に言えば経験の差だね、何度も精霊契約で戦っていると自分の意志全てが精霊に支配されないようになるの」
〈なるほ・・・うおっ!シルフィー来るぞ!〉
憑依の疑問に納得する間もなく、ゼファはこちらに突進してくる。
「よく見ててね秀、精霊契約の力を」
木を背にしていた自分に迫ってくるゼファの拳を横に飛んでかわしたが、その時の自分の移動距離に驚愕した。
ゼファとの距離が横に飛んだだけで10メートルは離れていて、感覚的にも横に移動したと言うより横にワープしたという感じだった
〈す、スゲー、これが精霊契約の力・・・〉
「これがまだまだ序の口だよ、秀がもっと鍛練すればもっと動けるよ」
シルフィーの言葉に自分の未知なる可能性に胸を踊らせるのもつかの間、ゼファはすぐに自分に向かって走ってくる。
「ふむふむ、ゼファは身体強化が苦手みたいだね、これはラッキー」
どんどん攻撃を繰り出してくるゼファだが、素早く移動してゼファの攻撃を全く喰らわなくなっていた。
「くそっ!ちょこまかと移動しやがって」
「へへん♪追いつけるもんなら追いついてみなさい♪」
(シルフィーって意外に子供っぽいんだな)
それから逃げて追いかけ逃げて追いかけの繰り返しだった。
そしてそんな鬼ごっこの終わりはシルフィーのお気に入りの泉にて迎えることになる。
「ゼファ、そろそろお開きにしましょ」
「ああ、俺がお前達を殺して終わりだな」
笑みを浮かべて、ゼファはゆっくりと距離を縮めてくる。
「その結末は違うよ、本当の結末は・・・」
「あなたの任務が失敗して終わりよ!!」
後ろにある泉に勢いよく飛び込み、一気に潜水を始めた。
「しまった!」
〈しまった!水の中じゃ爆弾も大した威力を発揮しない・・・・・・・・・くそっ逃げられた〉
「・・・タトュナス、信号爆弾で兵士に帰還するよう頼む」
〈了解した・・・ゼファ、気を落とすなよ〉
潜水を初めて2分後―
秀が次に酸素を吸い込んだのは森の泉ではなく、マナマ草原の川だった。
「ぶはぁ、意外にキツかった」
〈まさか、泉がこんな所に繋がってるなんてな〉
「とりあえずは安心だね秀」
〈ああ安心だね・・・ってかシルフィーそろそろ体返せ〉
「はいはい、分かりました、ほいよっと」
秀の体からシルフィーが抜け、やっと自分の意志が効くようになった。
「ふ~、何かどっと疲れたな」
〈そりゃ初めて魔力を使ったんだもん、そりゃ疲れるって〉
「そうなんだ、さてシルフィー、落ち着いたから質問の答えを聞かして貰おうか」
何の質問かを思い出す為にシルフィー少し考え込んだ末ようやく質問を思い出して、その答えを喋り始めた。
〈何故出ることが出来ないかと言うと、私はこの森出ると、私の魔力は減り続けるの〉
「なるほど・・・続けて」
〈精霊は自身の魔力を失うと存在は消えてしまうの、でも出られる方法が一つだけあるの〉
「それが精霊契約」
〈うん、秀と精霊契約した理由はゼファから逃げる為だけど、精霊契約したおかげであの森から出ることが可能にもなったの〉
「ん?ちょっとストップ何で精霊契約したからこの森出られるようになったんだ?」
〈いい秀、精霊は自身の魔力を失うと消えてしまうの、でも私の魔力を秀の魔力と混合させることで、たとえ魔力を使いきってしまっても、混合した魔力だから精霊だけの魔力じゃない〉
なるほどと、ポンッと手を叩く秀に、シルフィー最後に
〈にしても秀は魔力を使いすぎたから、早く休んだ方がいいよ、魔力を回復させるには休養が一番だからね〉
「ははは、でも休む前に仲間と合流しよう、居るか分かんないけど」
笑って答えると、シルフィーが示す方向に向け歩き出すことにした。
マナマ草原に移動する秀だったが、一緒に移動しているシルフィーを見て一つ不安があった。
「なあシルフィー、いきなり精霊のお前と会ってみんなビックリしないかな?」
〈ん?そりゃビックリするでしょ〉
「ははは、だよな」
軽く笑って答えるが、秀こ本当は笑っていないことなどシルフィーにはわかっていた。
〈ゆっくりと明かしていけばいいんじゃないかな、一人づつ、その間私は入れさせてもらうし〉
シルフィーの言っていることが分からない秀は、“入れさせてもらう”についてシルフィーに質問で返した。
「えっ?分かってないの秀がつけてる腕輪のこと」
(この腕輪のこと?)
〈この世界にはを契約をした精霊を入れることができる素材があるの、んで秀のつけてる腕輪がその素材で出来ているってわけ〉
「なるほど、でも何の為に入れるんだ?正直みんなも説明すれば簡単に受け入れてくれると思うけど」
あまいな~と言いながらチッチッチっと指を振ってシルフィーは説明した
〈この世に意味のない物なんてないの、実はその素材で作られた道具に入ると精霊は、微量だけど魔力を蓄えることが出来るの〉
「なるほどね、それでまた精霊契約した時に、その微量分の魔力がプラスされるってわけね」
〈うん、そういうところかな、まあ秀も1日中浮いていられると、しんどいと思うしね〉
「よし、じゃあシルフィーには悪いけど入ってもらいますか」
〈了解♪秀、私に腕輪を向けて、腕輪に入るように念じて〉
シルフィーに言われた通りに、腕輪を向けて入れと念じると、シルフィーは腕輪に吸い込まれるように入って行った。
「ありゃま、世の中も便利になったもんだねー」
〈その言い方じじ臭いからやめてよ秀〉
「冗談だよ、さてと夕日が落ちる前に草原に行きますか」
気合いを入れ直した秀は力強い足取りで、草原へ続く道を歩いて行った。




