二十六話 声のする方へ
森の中を走り回ること10分、一向に声の主が見つかるどころか、人一人見当たらなかった。
「おかしいな、確かに聞こえてた筈なんだけど」
半ば諦めて帰ろうとした時に、微かに助けを求める声がして、声の方向を向くと
「はぁ、はぁ、誰か助けて」
秀と同じ位の一人の女の子が見覚えのあるものに追われていた。
「カースかよ!・・・くそっ!」
女の子の体力が底をついたのか、その場でへたりこんでしまった。
もちろんカースがそのチャンスを逃す筈もなく、鋭い爪と牙で女の子に襲いかかった。
「きゃあああ!!」
ヤられると思い目を閉じた女の子だったが、来る筈の痛みが全くこないので、目をゆっくり開けると、目の前では秀がカースを食い止めていた。
「大丈夫かい?」
その問に何故か不思議そうな目で見てくる女の子は、息切れた声で大丈夫だと答える。
持ってきてた木刀を強く振り抜き、カースとの距離を取ると、秀は強い眼差しでじっとカースを見ていた。
(絶対にこの人だけは守り抜く!)
そう胸に誓い、更に強い眼差しでカースを睨んでいると、カースはゆっくりと後ろ足を進めた後、後ろを向いて何処かに走って行った。
緊張が切れたせいか、溜め息を吐き、その場で腰をおろし、女の子の方を向いた。
「何とか助かったみたいですよ」
「はい、ありがとうございます」
「でも良かった、怪我がなさそうで・・・・・・ああ!」
急に大きな声を出した秀に女性はかなりびっくりしていた。
「あの時の声だ・・・もしかして助けを呼んだのは君かな?」
きょとんとした目でいた女の子は秀の質問を聞いたとたんに涙を流し泣き初めてしまった。
(ええぇぇ、嘘だろ!)
「あのー、えーと、何だろう、失礼なことを聞いたんなら謝るよ、だからほら泣かないで・・・ね」
秀が必死に宥めていると女の子は目に涙を浮かべながら笑顔でこう答えた。
「すいません、別に悲しくて泣いてるんじゃないんです、ただ嬉しくて」
嬉しいという感情表現のせいか、いまいち状況の掴めない秀に女の子は続ける。
「あなたが初めてなんだよ私の声を聞いてくれたのは」
「え、じゃああの声は君の声だったんだ」
「そうだよ、助けてもらいたくて助けを呼んだの、だけど、私の声を聞いてくれたのはあなただけだった」
「そりゃ困ってる人が目の前にいるのなら、俺は出来る限りの手伝いはするよ、えーと」
「あ、ごめんなさい私はシルフィーっていいます」
「よろしくシルフィー、俺は浅村 秀っていうんだ、呼び方はシルフィーが呼びやすい名前でいいよ」
軽く握手と会釈を交わした後、いよいよ本題へと入ろうとしたが、何かを察知したシルフィーは秀の腕を取り引っ張って少し大きめの木の後ろに隠れる。
「どうしたんだよいきなり隠れるなんて」
「しっ、静かにして、アイツらが来る」
「アイツら?」
シルフィーが引っ張った方向とは逆の方向からレーガルに侵略してきたガリア帝国の兵士が現れ、何かを探しているように見えた。
「何だアイツら何を探してるんだ、分かるかシルフィー?」
「多分それが・・・」
シルフィーが何かを口にしようとした時に、森の中からなにやら他の兵士とは違う鎧をした大柄で金髪の男が現れて兵士に指示を出しているのを見ると、おそらく幹部と言ったところだろうか。
幹部が指示を出すと兵士は二人がいる所とは別の所へと走って行った。
少しほっとした二人だったが、金髪の男がゆっくりと前に出てきて、二人がいる木に向かって
「そこにいる奴らよ出てこい!わざわざ兵士を減らしてやったんだ」
(コイツ気付いてやがったのか!・・・しょーがない)
「シルフィーじっとしてろよ」
木から出てきた秀はふーと深く息を吐いた。
「何を誤魔化しているんだバレバレだぞ、木の後ろから魔力が漏れてるんだよ」
男がそう言うと、観念したようにシルフィーが木の後ろからゆっくりと出てきた。
(くそっ、最悪だな・・・・・・でも何でシルフィーから魔力が出てるんだ?)
魔力の疑問点を考えていると、男が大口を空けて笑いだして信じられない事を口にした。
「会えて嬉しいよ、この森の精霊シルフィー・・・」
「シルフィーが・・・精霊だって?」
秀が見ると顔伏せたまま黙ったままでシルフィーがそこにはいた。