二十二話 一騒ぎ後
「匿っている女をこちらに引き渡して貰おうか」
それが騎士団の要求、飛脚の翼に来た目的
マスターを引き渡すということだ
「どうした?さっさとせぬか」
「さっさとしろと言われても、私達は誰も匿ってなんかいないんだもの、ねぇ」
こっちを向き軽くウインクをして見せるセシリアさん、それだけで十分だった
「ええ、騎士団さんには悪いけど、無駄足だったな」
話を合わせるとのサイン、セシリアさんの意図はわからないが、とにかくこの場はセシリアさんの指示に従う
「おい凡人ども、そんな嘘が通じると思っているのか?」
頭にくる言葉を言うが、そんな安い挑発にのるほどバカじゃない
俺とセシリアさんはお互いに顔を見合わせながら、両手を上げやれやれという仕草を見せる。
「まあ貴様らには承諾を取らずとも中を調べることが私には許されているがな」
「んなっ!?そんな理不尽なこと………」
「それが許されるのよ、パラディンにはわね」
「ぱ、パラディン?」
向こうの男に聞こえない程度のボリュームでセシリアさんにボソリと囁く
聞こえていたら間違いなく、バカにされるだろう
「いくら探したって構わないわ、パラディンの名を剥奪されていいのならね」
どこか勝ち誇った顔をするセシリアさん、そんな顔をするセシリアさんに対し、騎士団の男の表情が曇る
調べられたら匿っていることがわかってしまうというのに
やはり何か策があるのだろうか
「さあ、どうする?パラディンさん♪」
「ぐっ……………ちゅ、中止だ!!撤退するぞ!」
バッと後ろを向いた男は甲冑の兵士達を置いていくように早歩きのスピードで進む。
そして置いてかれた兵士はいきなりのことであっけらかんにとられ男の後を慌てて追いかけて行った。
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「全くもって、ムカつく野郎だぜ!!あのパラディンって奴」
ダン!!と冷えて生ぬるくなったミルクを飲みほし、マグカップを強く置く
「まあまあ、事なきを得たんだからいいでしょ」
熱くなる俺とは正反対に、セシリアさんは冷静沈着で、温めなおしたホットミルクをゆっくりと飲む
「セシリアさん、もしあの時クソパラディンが調べてたらどうするつもりだったんですか」
「大丈夫よ、パラディンはパラディンでも、あのパラディンよ」
「どのパラディンすか…………」
この世界に来て、まだ間もない俺からしたら、さっきの15分の時間全てがしらないことだった。
「あら、ごめんごめん、すっかり忘れてわ、じゃあ今後にもかねて説明するわね………」
セシリアさんはカップをことりと置き、一拍とるとゆったりとした口調で話を始めた。