七話 マスター
「……………」
広場に沈黙が流れる中、一番先に口を開いたのは、大男だった。
「マ、マスター………」
さっきの威勢はどこにいったのか、大男の声は震え、その震えが恐怖からきているものなのは確かだった。
「こーら、ギルド間の抗争はダメっていつも言ってるでしょ」
「し、しかし………」
「ダメって言ってるよね♪」
続きを言おうとしていた大男だが、マスターと呼ばれた女性の一言で黙ってしまった。
タッパではあきらかに上の大男
それが黙るほどの人なのだろう
「どうも、お騒がせしました」
丁寧にペコリとこちらに頭を下げる
あまりの丁寧さに、さっきまでの熱が冷めてしまう
「広場の修理代は私たちが出しますので、今日はこれでご勘弁願います」
「別に、構わないけど」
「そうですか♪ありがとうございます、では失礼します」
マスターと呼ばれた女性は再び丁寧に頭を下げると、大男を連れて広場をあとにした。
「さてと、俺達も引き上げるとするか」
物質憑依を解き天つ風を木刀に戻し、腰にさしこむ
そして西脇と一緒に、突っ立てるアスタに
「アスタさん、飛脚の翼の新メンバーの浅村 秀です、こっちの子が」
西脇 茜ですと軽く自己紹介をする
「こりゃどうもご丁寧に、俺はガルム アスタ、助かったよ、どうしても守りたいものがあったからね」
そう言って担いでいるリュックを二回ほど軽く叩く
「守りたいもの?」
首を傾げる俺と西脇
「ここじゃなんだし、ギルドに戻ろうか」
そう言って、アスタを含めた3人で、野次馬達をかき分けつつも、大穴が空いた広場をあとにした
―ギルド(飛脚の翼)―
「「ただいま」」
少し疲れた感じで俺と西脇は戻った。
戻るとすでに全員が朝食を済ませ、部屋にいたのはソフィアと新藤の二人だった
「あ、お帰り、ずいぶんと時間がかかったね」
「なんつーか、一悶着を解決しようとしたら俺自身も一悶着起こしちまってな」
俺の話を聞いていたソフィアは半ば呆れ顔になっている。
「あんたって意外にトラブルメーカー?」
「あながち間違ってないかもな」
冗談をまじえながらも、ソフィアにアスタを連れてきたことを報告
ちょうどアスタが部屋に入ってきて、担いでいたリュックをテーブルにドサッと置いて、ため息を吐きながら椅子に座る。
「任務お疲れアスタ」
アスタの前に水を置き、任務完了を労う
「サンキューソフィア」
「き、気にしないで///」
にっこりと微笑むアスタに、ソフィアは顔を赤らめ、その顔がアスタに見せないかのように、部屋を出ていく
そしてその光景を見ていた俺と西脇と新藤は、もちろん察していた。
「アスタさん、さっき言ってた守りたい物って何なんですか?」
「そうそう、ロスト討伐の依頼先で偶然見つけたんだ」
リュックの中をがさごそと探し、木箱のような物を取り出した。
サイズ的にはテニスボール一個分ほど
「その木箱の所有を争っていたんですか?」
「厳密言えば、この中身なんだけどな、まあ連中が欲しがるのも仕方がないけどな」
そう言って、木箱の蓋を慎重かつ丁寧に開け、中身ををそっと取り出し、アスタは自分の手の平にのせて、俺達に見せてくれた。
「………凄い」
「………奇麗」
アスタの手の平にあるのは、とても澄んだ色をしたクリスタルだった
サイズは入っていた木箱に似合わないほど小さかったが、宝石類に何の興味もない素人の俺でも、クリスタルから目が離れなかった。
それほどまで、他者を引き込む代物であることに違いなかった。
「あのこれは………」
「聞いて驚け、人の手が一切加えられてない、天然のコアだ!!」