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四十二話 刃の矛先

過去を話すヒロからは明らかにとてつもない憎しみが感じとれた


言葉の一言一句が強い憎しみに満ちていた



「そこから先は言うまでもないだろう」



「ヒロ…………」



「俺はあの日、あの忌々しい日に家族を失い、そして沙耶香は心に消えることのないキズを負った!!この気持ちがお前に分かるか!!全てを失った気持ちが!!」



「さあ、失った気持ちなんざ、失った人にしか分からないからな、俺がお前の気持ちを理解するなんて無理な話だ、けどな……」



「けど?」



「お前は少なくとも全てを失ってはないはずだ」

俺はそう言って泉さんを指さした



「ここにいるだろ、誰よりもお前を心配してる大切な妹さんが」



「浅村君……」



「お前は何も分かってないからそう言えるんだ!!」




ヒロの怒鳴り声がさらに大きくなる



「沙耶香はあれ以来から心のそこから笑ったことがない、実の家族が死んで、たった一人の家族が笑わない苦痛がお前に分かってたまるか」



「どんな理由があっても、人の命を奪っていいわけがない」




互いが互いの主張を否定し合う


両者の主張はこのまま平行線をたどっていった。



「結局はこうする他ないんだな」



同調を解いた俺は、グラウンドに投げ捨てた二本の木刀を拾い、物質憑依をする



「天つ風・重か………」



「もう同調を維持して戦うのはキツいからな」



「ふ、正直な奴だ、睦月、如月、皐月、鳴雷月」



ヒロは上空に飛ばず、地上で技を繰り出す


同調で対応していたヒロが繰り出す攻撃を何とかかわしているものの、攻撃に転じることができない。



(一瞬でも中に入り込めたら…………一か八かやってみるか)




できるだけヒロに近づき、天つ風・重を振り上げ、グラウンドを砕くように天つ風・重を降り下ろした。


もちろんかなりの量の土煙を巻き上げ、ヒロと俺、両者の姿が隠れる



「ちっ、目眩ましか」




気配を探るヒロだが、気配を消した俺を探すのは困難なはずだ


予想通り、ヒロは気配を探るのをやめ、あたりをキョロキョロと見渡す



(くそ、一体どこから来るつもりだ)


警戒するヒロ、好機をうかがう俺


そしてその時が来た。




気配を探るのをやめ、あたりをキョロキョロと見渡すヒロだが、背後から出てくる何かには気づいた。


体を捻り目の端でその何かをとらえた


出てきたのは天つ風で体を捻ることでかわした



(勝った!!)



睦月をその方向に向かって振り抜く


天つ風が出てくるということは俺がいるということを確信しているのだ


だが、ヒロが振り抜いた睦月は空振り、勢いあまってか体勢を崩した。


「残念だったなそれはフェイクだ!!」




逆方向から出てきた俺は完全にヒロの隙をつき、空破撃を打ち込んだ


がしかし、空破撃が直撃したとたんにヒロも剣も霧のように消えていた。



「残念それはフェイクだ…………」



(しまっ……)




ヒロは上空にから俺の背後に回っていた。


完璧にやられた、しかも使い手は違うけど、同じやられ方をした。


今まで霜月を一度も使わないことで、俺の頭から霜月は消えていたのだ。


後ろには剣を構えたヒロが突きを繰り出した



(終わりだ!!)



ヒロの剣は無情にも体を貫いた。








俺ではなく、俺の前の飛び出した一人の少女の体を…………










「な、何で…………」



「そ、そんな………」




剣を引き抜いたヒロはおぼつかない足取りで後退する


そして剣を引き抜かれた泉さんは倒れそうになり、俺はあわてて体を支える



「泉さん!!泉さん!!」




ぐったりとしている泉さんを俺は体を揺さぶるが返事はない


その光景を見たヒロは呆然と見ていた。



「……………」



「泉さん!!はやく治癒術を!!」



「無理だ…………沙耶香の治癒は自分には使えないんだ………」



「だったら早く救急車呼べよ!!」



携帯を家に置いてきたため、役目をヒロに託した


しかしヒロは携帯を出すそぶりを見せず、ヒロは攻撃をしてくる



「い、韋駄天!!」




天つ風を腰にさし、泉さんを抱えたまた移動し降ってくる球体をかわした



「くっ、何しやがんたてめぇは!!」



「分からないのか………その傷ではもう助からない」



「勝手に決めつけんなぁ!!」




ぶちギレてる俺に対して何も言わずにただ攻撃してくるヒロ



「待てヒロ!!頼むから泉さんを!!」



「悪いな残念だが俺も急いでるんだ、沙耶香が生きてる内にな」



「どういう意味だ!?」



「おいおい、最初に言わなかったか?種は5つあるんだぜ」



「っ!!」


ヒロが言った意味が俺は分かってしまった。


今カルテット状態のヒロが吸収した種は4つ


つまりは最後の種を吸収するということ


そして今ここにいるメンバーは倒れている真也に俺と泉さん


こうなれば嫌でも分かってしまった


全身が何かに取り憑かれたように、固まってしまう感覚だった。



「まさか………お前」



「察しがついたならなによりだ、説明する手間が省けたというやつだ」




その時、俺の中で何かが切れた音がした。






「泉さんから種を取るつもりか!!てめぇ、どうなるか分かってんのか!!」



「だから言っただろ、その傷じゃ助からない、だから生きてる内に種を取り出さなければな」



じりじりと迫ってくるヒロに対し俺は泉さんを抱える手を強める



「させねぇよ………そんなこと」



「お前にはたしてできるかな?」




くくくっと笑ったヒロに対して沸くのは憎しみというどす黒い感情だった。



「………村君」




手の中で確かに動いたピクリという感触



「泉さん、大丈夫!?」



「うっ…………」




苦痛に顔を歪める泉さん


やはり傷が深いのだろうか、まあ貫かれたのだから痛がらない方がどうかしている


気がついたのはいいが、早くしなければ手遅れになってしまう



「浅村君………」



「大丈夫、すぐに病院に連れていくから」




ニコッと笑い、なんとか元気づける


しかし口で言うことを達成するには正直難しい。


いや、難しいどころじゃない、今の状況では無理だ



「どうだ浅村、沙耶香を渡せ、そうしたらお前を俺の部下として迎えてやろう」



「人の命をもてあそぶような奴の誘いにのるとでも」



「交渉決裂だな………如月」



「くっ!!」




今の状態ではヒロの如月には追いつけず、コンタクトの瞬間に傷を最小限におさえる


泉さんをかばうように抱え込んで戦うのは正直キツい


しかし、この手を離すわけにはいかない



「浅村君………もう……して」



「悪い、ちょっと黙っててくれるか、すぐに終わらせるから」



「浅村君……手を離して………」



「な、何を言ってんだよ、そんなことできるわけないだろ!!」



「でも………」



「黙ってろ………これ以上続けるなら本気で怒るからな!!」




その一言で泉さんは黙る



「如月、鳴雷月」



「ちぃ!」




急いで泉さんを降ろし、泉さんを奪われないように泉さんを守る


帯電した如月に悪戦苦闘する


攻撃される度に体に電流が流れ、大幅に体力が削られていく



〈秀!!〉



「浅村君!!」



「大丈夫だ、たいしたことない」


口では言うものの、正直もうそんなに長くはもたない



「いつまで持つかな?」



「お前があきらめるまでだ!!」



「は、しゃらくせぇなー、決めるか………麒麟!!」




連が戦った奥山が使った最大の技の麒麟、しかし奥山が使った麒麟より一回りデカかった



(やばい!!洒落になって……………)



「があぁぁぁ!!」




麒麟が直撃した俺は体の力が抜けていくように倒れていった。



「浅村君………」




倒れていく俺に向かって叫ぶが、どこか力が弱々しい


泉さんの体力はもう限界に達していた


そしてそれを知ってのことか、ヒロは泉さんのそばまで来ていた。

そして秋山達にやったよう泉さんに手をかざした。


手をかざされたことによる恐怖感、それによって泉さんは震えていた。



「大丈夫だ沙耶香、すぐ終わるよ………」



「………いや」




手をかざしたヒロは、今にも泉さんから種を取ろうとしたが、ピタリとやめた


もちろん情が邪魔したわけでも、思いとどまってるわけでもない。



「しぶといというか、よく生きてるな、麒麟を受けてなお立ってるとはな」



「言ったろ、お前が諦めるまで諦めないと」



「しかし理解に苦しむな、何故そこまで他人を守る、自分の命をかけてまで」








「逃げるわけにはいかないんだよ……」



「何だと?」


「ここで逃げたら………………ここで逃げたら俺の生を否定することになるんだ!!だから逃げるわけにはいかないんだよ!!」




もうすでに体はボロボロで血が滴り落ちる俺


いつ倒れてもおかしくはない状況、というかこんな状況で立っている方がおかしいのだ。


そしてその雰囲気がヒロを困惑させていた。


羽をひろげ、空に飛び空中に両手をかざすと11本の剣が空中に出現した。


中には睦月や如月があるということは、今まで出していた剣なのだろう。



「考えれば簡単なことだったんだ、お前を倒してから種を回収すればよかったんだな」




そういってかざした両手をパンと合わすと、11本の剣が真ん中に集まり、巨大な一本の剣になった。



「七光聖剣!」



そして手を軽く振ると巨大な一本の剣は、俺に向かって飛んでくる



(くっそ………体が動かねぇ)



〈選手交代!!〉




瞬時に俺に憑依したシルフィーは、残りが雀の涙ほどしかない魔力を使い、風を発生させ、その反動で自らと泉さんを抱き上げ後退する


何とか剣の直撃をかわしたが、七光聖剣が刺さった瞬間、パっと光り、とてつもない爆発が起こった。



〈シルフィー!!選手交代!!〉




すぐさま憑依をとき、泉さんの上に覆い被さってから泉さんを爆発から守る



「ぐあぁぁぁぁ!!」


俺はそのまま、泉さんの上に倒れた。



「浅村……君」



「直撃は避けただろうが、さすがに効いただろ」




ヒロは空に飛んだまま、こっちを見ている。


七光聖剣はというと地面から抜け、元の位置に戻りふわふわと浮いていた。



「くっ………」



「ほぉ、有言実行だな」




羽を羽ばたかせながらゆっくりと降りてくる。



(私のせいで、浅村君が………)




倒れている、俺を見てなのか泉さんは罪悪感を感じていた。


そして、ヒロが地面に降りたのを見た泉さんは覚悟を決めた顔をしていた。




(いつも助けられてちゃダメ、私が………私が助けなきゃ!!)



覆い被さっていた俺を起こし、俺を支えるような形になった。



「さあて、沙耶香種を回収させてもらおうか」



10メートルほど離れた所からゆっくりと近づいてくる



「兄さん、私はあなたの計画を絶対に止める、止めてみせる!!」



「一体どうやって?」



「止めるのは私じゃないよ、私じゃ止められないから」




その時の泉さんの顔は、よく覚えている


全く屈託ない笑みを浮かべていた、濁りのない、心の底から笑っている笑みだった。



「まさか!?沙耶香!!」



「泉さん……何を……」



「浅村君、兄さんを止めてくださいね」




それからは一瞬だった




泉さんはゆっくりと顔を近づけた。




そして








泉さんの唇と俺の唇が重なった………キスだった




“一生分の慈愛”



「っ!!!!!!!」




慌てふためく俺だったが、すぐに体の異変に気がついた


体の傷口がみるみる塞がっていた。


塞がるだけではなく、魔力が体に戻ってきた。


いや戻ってきたというより、目の前にいる泉さんからもらった、いや託されたという感じだ。


やがて、泉さんは顔を離し、離した瞬間泉さんは倒れ、倒れてきた泉さんを抱える



「泉さん………一体何をしたんだ?」



「一生分の慈愛………これは、キスした相手の傷や体力の完治、魔力を全快にするんだよ………自分の命と引き換えにね」




時が止まったような感覚がした






泉さんが……死ぬ……



「お願い………兄さんをとめて」




言葉の後半が聞き取りづらくなっていた


今の泉さんの容体は、素人でもわかる、虫の息だった



「泉さん!!泉さん!!」




必死に体を揺さぶる俺に対してヒロは呆然と立ち尽くしていた。



「浅村……君、最後に………聞いてほしいことがあるの………」



「断る!!最後なんて言葉なんて聞きたくない!!」



「聞きたくても、私は喋らせてもらうよ」



はぁ、はぁ、荒い息を吐きながら喋る



「ありがとう浅村君………私、浅村君に会え本当によかった」




そこから泉さんは思い出を語り始める。




俺が実行委員になって、二人で仕事をしたこと


初めて異性(俺)とご飯を食べに行ったこと


俺が泉さんの悪口を言われた時になかなかの行動にでたこと


泉さんから出てくるのは、俺と知り合ってからのことだった。


自分のことなのに、俺は恥ずかしくなかった、むしろ悔しかった。


あれだけ諦めないと言った結末がこれだ、絶対に認めたくなかった結末を認め、目の前の現実を受け入れる自分が悔しくて仕方がない


だから今、泉さんの言葉を唇を噛み締めながら聞く。


しかし物事絶対に終わりをむかえるもの、泉さんの喋りは終わりをむかえる



「ねぇ、浅村君………私が浅村君に会って一番よかったことって何だと思う」



「何だい?」




微笑みながら聞く


泉さんは、言葉を発する前に答えになってないけどねと前置きし、囁く程度の声量俺に言った。









“最後に浅村君を好きになれて本当に良かった………”




それが泉さんの最後の言葉だった。



「泉さん、ありがとう」




回復した魔力で遠くに移動し、泉さんの両目は手で閉じ、両手を組ませて胸にやる



「君の死は絶対に無駄にしない」




そう言って、俺はヒロと向き合う



「死んだのか、沙耶香は」



「ああ、死んだよ、俺なんかの傷を治すためにな」




うつむいたまま、ヒロの問いに答える



「まあそう気を落とすな、あの傷じゃあ助からんさ」


「誰のせいで……」



「ん?」



「誰のせいでその傷を作ったと思ってる!!」




声をあらげる、俺は完全に怒りが頂点に達していた


ヒロが泉さんの傷を作った張本人だということに、妹が死んだことに関し、何も感じてない様子がさらに俺を苛立たせていた。



「くだらん……」



「くだらねぇだと……」



「ああ、くだらんな、お前にとっては一大イベントかもしれないが、俺にとっては種を取り損ねてしまった」



「ヒロ、てめぇそんなこと思ってやがったのか!!」



「ああ、だから深く心が痛んだよ」



〈秀、コイツ!!〉



「バカは死なねぇと治らねぇとは言うが本当みたいだな………シルフィー同調だ!!」



〈了解!!アイツ絶対にぶっ飛ばしてね〉



「任せとけ!!」




同調をした俺を、見たヒロは再び空中に飛ぶ。



「どうせ俺には勝てないさ、七光聖剣!!」



「勝てるさ」



「何?」



「やってみれば分かるさ、お前は俺に勝てないってことがな」



「やってやるさ、七光聖剣!!」



ふわふわと浮いていた七光聖剣がゆっくりと俺に照準を合わせる


七光聖剣の矛先からは禍々しさが感じ取れる



「行くぞシルフィー」



〈うん〉




体の力を抜き、だらーんと体をやる気のなさそうに構えていた。


そして前後に体を揺らし始めた


レインと戦った時、最後に出した構えだった、ゆういつ違う点といったら、目を閉じているところだった。



「ふざけた構え方をぉぉぉ、七光聖剣!!」






飛んでくる七光聖剣に対し、俺は体をギリギリまで揺さぶり続けた


そして七光聖剣が当たる直前で俺は目を見開いた。










「絶空剣・一閃……」











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