四十一話 忌まわしき過去
今から10年前の話になるだろうか
その頃の俺と沙耶香は平凡な家庭で幸せに暮らしていた
四人家族で稼ぎこそ良くはなかったが、四人で助け合って生活をしていた
あの事件が起こるまでは
いつも通りの気持ちのいい朝、いつものようにリビングで俺と沙耶香はゆっくりと朝飯にありつきながら、朝のニュース番組を見る。
朝からニュース番組は空き巣やら、傷害事件などやら物騒な事件が報道されていた。
「次に強盗殺人事………」
アナウンサーが次の事件を言い切る前に父の健太郎がテレビを切った
「朝から見るもんじゃないな」
飯を食べた後、沙耶香と俺はそれぞれ支度をした後、玄関に降りる。
「「いってきまーす」」
「行ってらっしゃい♪」
母の啓子に見送られ、俺と沙耶香は元気に家を出た
行きしに今日の給食や今日の時間割について話をふってくれる沙耶香
いつも無邪気に話をふってくれる沙耶香は大切な大切な妹で、この笑顔を託せる男が出るまでは、俺が守ってみせる、そう誓っていた。
「じゃあねお兄ちゃん」
「おう、今日も一日勉強頑張ってこいよ」
「それはお兄ちゃんもだよ」
そう言って沙耶香は小学校へ、俺は中学校へと向かっていく。
途中、沙耶香の方を見るとてくてく歩いているのを見て俺は安心して足を進める
「おいこらシスコン、見とれてないで行こうぜ」
「誰がシスコンだ!!」
俺のことをシスコンと呼んだのは、俺の友人の亀山 光希
ちょうど横路から来て、俺のシスコ………じゃなくて沙耶香を心配してるところを見られたらしい
「まあ行こうぜ、ここで言い争っといても時間の無駄だしな」
「だな」
俺と亀山の二人で中学校へ向かった。
いつものように、普段通り、日常通り、義務教育のため、ただ中学校へと行くのだった。
校門前に着くと、校門にいる先生方や校門を通る生徒達がおはようございますと、声が飛び交う
そんな校門を通り、俺と光希はそれぞれの席に座り、座ってまもなくホームルームが始まるかと思って座っていたが、どうにも担任が来ない。
時間になっても来ない担任に不安になったのか、生徒達が少し騒ぎだしてる中、学年主任の教師がなにやら神妙な面持ちで入って来た。
「皆、今からグラウンドに移動してくれ」
いきなりの教師の言葉に教室はざわめいていた。
“意味わかんねー”“めんどくせー”“何があったの”“何で何で?”などと生徒がざわめく
そりゃそうだ、朝来たら教師の開口一番がグラウンドに出てくれだから仕方がない
「いいから黙って外に出ろ!!」
教師の声で生徒全員が黙り、クラスから生徒達が出ていく
「ヒロ、俺達も出よう」
「ああ」
光希とともに教室を出た俺だが、俺はその時、胸騒ぎがしてしょうがなかった。
グラウンドに出ると、学年別ではなく、何やら不変的な集まりをしていた。
「何だこの集まり方は?」
「ああ、これ多分集団下校の集まりだな」
「集団下校?あの緊急時に集まるあれか?」
「そうそれだ、でもそれ朝にするってことは……」
光希の顔が険しくなる、いろいろと考えられるが、マイナスでしかないだろう
そしとそうこう考えてる内に校長が前へ出てマイクを握る
「えー、皆さん、今日朝集まってもらったのはとある事件がありまして、一時間程前にこの近辺で事件が………ありました」
校長の告白に俺達生徒は衝撃を受ける
そして、生徒達は騒ぎ始める
騒ぎがすぐに伝染し、生徒達の騒ぎが沈む気配はない
「とりあえず静まれ!!」
中学で一番怖いとか言われる体育教員の怒鳴り声でやっと生徒達が静かにし始める。
やっと静かになったところで再び校長がマイクを握る。
「えー、皆さん落ち着いてください!!まず帰る地域それぞれ別れてください、教員が少なくとも3名つきますから安心して皆さんは安心して帰ってください」
(結局事件細部は話さずか……)
だいたいの事件の話しすらしないということは、危険なんだろう
おそらくPTA総会などで説明するのだろう
そのまま帰るグループに別れた後ついた先生を先導して進んで行った。
グループに別れた後、歩く俺はずっとあることを考えていた
「浮かない顔してんな、どうせ沙耶香ちゃんのこと考えてたんだろシスコン」
「だから俺はシスコンじゃねぇよ」
「でも考えてたんだろ?」
小さく頷く俺、くそ、悔しい………
三人の大人と明るい道を集団で歩く、これは犯人にとったら驚異なはずだ
結局、警戒のために行われた集団下校は俺とグループがわかれるまで何も起こらなかったし、怪しい人物像も見なかった。
やはり警戒のしすぎだろうか
「じゃあまたなヒロ」
「ああ、気を付けてな」
同グループのメンツに軽く手を振り、すぐそこの家を目指す
「沙耶香は帰ってるのかな」
ドアに手をかけて開け、家に入った。
「ただいま」
ヒロの声は玄関に響くだけで、誰も返しとこない
嫌な予感がした俺の脳裏に浮かぶのは今日の朝での出来事
玄関を駆けあがり、リビングの扉を開けた。
「ああ…………」
そこにはナイフを刺され、ピクリとも動かない母の啓子と黒装束をまとった男に身にまとった男が父の健太郎に馬乗りになり今にもナイフを突き刺そうとしていた
「止めろぉぉぉ!!」
黒装束に向かって突進し、黒装束の男を突き飛ばした。
すぐさま父親に駆け寄り体を揺らすが、父親は動かない
「てめぇ!!俺家族に何をした!!」
男は無言でナイフを拾い上げ、ナイフを俺に突きつける。
人生で初めてナイフをつきつけられたことによる恐怖で脚がすくむ
徐々に近づいてくる男に対し、俺は動くことができない。
「何なんだよお前は!!」
「……………」
どうしても動かない体、まさに絶体絶命で、もう死ぬと思った時だった。
「ただいま♪」
(沙耶香!!)
沙耶香の声に体が反応し、何とか男の斬撃をかわし、リビングのドアに目をやると沙耶香が入ろうとしてきていた
「沙耶香、見るな!!」
沙耶香を抱き締め、顔を隠す。
しかし、一瞬だけ母を見てしまったのか、抱き締めた沙耶香の体は震えていた。
「沙耶香、走って逃げて助けを呼ぶんだ」
そう言って沙耶香をリビングから出した。
「さて、これであんたも終わりだぜ」
「……………」
黙ったままの男もさすがに焦ったのか、ナイフをたて、俺に向かって突進してくる
俺はナイフの位置を瞬時に見て、心臓じゃないことを確認すると、その突進を受け止めた
「っ!!!!」
「ここは死んでも通さねぇぞ………」
俺はバカな行動にあわてふためいている男をガッチリと掴む
「もうこれ以上俺の家族を傷つかせねぇ!!」
相手の顔面めがけ渾身のストレートを叩き込むが、相手は全く効いていなく、逆に投げ飛ばされ、地面に叩きつけられる。
そして叩きつけられた俺に男はナイフが刺さった場所踏みつける
「があぁぁぁぁ」
「……………」
踏みつける力は内蔵がつぶされる強さ
まるで人間じゃないようだ
そして男はふみつけや蹴りを繰り返し、俺にダメージをあたえていく
もはや抵抗すらできなくなった
だんだんと薄れゆく意識の中で頭に浮かぶのは、やはり沙耶香のことだった。
(まあ、沙耶香が無事なら俺はいいんだけどな)
ただそう思っていただけだった
「離して!!離して!!」
「っ!?沙耶香!!」
「遅かったな………」
「意外にすばしっこくてな」
沙耶香の襟を掴み、俺を殴っていた男と同じような黒装束を着た少しガタイがいい男がいた。
「てめぇ!!沙耶香を離しやがれ!!」
「へぇー、この子、お前の妹さんかぁ、可愛いじゃねぇか」
沙耶香をひょいと持ち上げ、顔を覗き込む
「何してやがる、沙耶香から離れやがれ!!」
「おい、金目の物は見つかったのか?」
「ふむ、まだ7割ってとこだから、まだ探すとするかな」
「じゃあ、お前は楽しんどけよ」
そう言った男は最後に俺を強く踏みつけると、我が物顔でリビングから出ていった。
「さてと俺は沙耶香ちゃんといいことしようかな♪」
「やめて離して!!」
「何やってんだ!!」
さっきまで意識が飛びそうだったが一気に立ち上がり、男に突進をしようとしたが、今の体力では大した威力も出せず、逆に男に殴られ、床に横たわる
かなりの衝撃からか、意識が飛ぶ寸前までいっていた
「お前はそこで見とくんだな…………」
男が言っていることの後半部分を聞き取ることはできなかった
落ち行く意識の中で、俺はただ男に力なく
「や………め…ろ」
と、そう呟くしかなかった。