第二部終幕③ 天文十二年三月下旬『報われぬ男』
「お恥ずかしい姿をお見せしました、忘れてください」
いったいどれほど泣いただろうか。
ぐずっと鼻をすすりつつ、わたしは勝家殿の顔を見ていられずうつむく。
前後不覚になっていたとはいえ、夫でもない男の人にすがりついて泣くなんて、我に帰れば赤面ものである。
他の者たちが来なかったのが、不幸中の幸いだった。
あと今はわたし、子供だしいいよね!
「はて、何のことでしょう?」
勝家殿がすっとぼけた顔で返す。
あまり演技が上手いのは言えないけれど、その気遣いが嬉しかった。
「まあ、何かあれば話して下され。無骨な俺には気の利いた事は言えませんが、話を聞くぐらいは出来ますから。では御免」
言って勝家殿は立ち上がり、くるりと背中を向けそそくさと退室していく。
もうわたしが落ち着いたと判断し、泣き顔を見られバツが悪そうなわたしに、気を遣ったのだろう。
別にいてくれていいのに。
「ふふっ」
そんな彼の後ろ姿を思い、わたしは一人笑みをこぼす。
無骨と自分では言うけど、鬼柴田なんて言われてるけれど、本当に優しく、周りへの気配りをしているひとである。
なのに、どうにも周りからいまいち理解されていない。
どこか遠巻きにされている。
まあ確かに、男子の平均身長が一五五センチぐらいのところで、身長一八〇センチ近くあれば、そりゃ怖いんだろうけどね。
強者独特の雰囲気もまとっているし。
あれほど見た目で損している人もいない。
気は優しくて力持ち。顔立ちだって凛々しく整っている。
将来の出世もほとんど約束されている。
あんな超優良物件、そうそういないと思うんだけどなぁ。
「そうだ! わたしがいいひと紹介してあげよう!」
パンッと手を打ち、わたしはうんうんと頷く。
史実でもずっと独り身だったし。
一五八二年にようやく信長の妹の市姫を妻に娶ったけど、もうその時には六〇近い年だしなぁ。
放っておいたら、今生でも独り身を貫きそうだ。
それはさすがに可哀想である。
ああ、わたしみたいな死神憑きの近くにいるわけだし、どうせなら夫の運勢を挙げる幸運の女神みたいな女性がいいな。
ん~、戦国の良妻と言えば、いの一番に思いつくのはまず秀吉の妻ねねだろう。
よく夫を支え、加藤清正や福島正則など良将を育て上げた賢妻でもある。
秀吉を天下人にしたぐらいだ。縁起のいい福女とも言えよう。
秀吉の浮気にさんざん悩まされてたわけだし、これはけっこうな良縁なのでは!?
……でも、まだそもそも生まれてすらいないんだよなぁ。
さすがに年離れすぎよねぇ。
他に織田家で良妻で有名な子、いたっけ?
山内一豊の妻千代とか、前田利家の妻まつとかか。
でも、この二人とも年齢の問題があるし、なによりおしどり夫婦で有名な二人の仲を裂くのもそれはそれで気が引ける。
「う~ん、難しい。とりあえず年頃の娘をリストアップかな」
ちゃんと面談をして、これはって子を紹介してあげたい。
お節介かもしれないけれど、勝家殿には色々お世話になっているし、ね。
なお後日、早速林秀貞殿にその事を相談したところ、なんとも複雑な顔をされた後、溜め息とともに天を仰がれた。
信秀兄さまにもだ。
ホワイ?
第二部『東海争乱編①」終幕
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて「織田家の悪役令嬢」第二部完でございます。
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