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シリアルキラー


 POL(ポーランド)の極悪都市グダニクス。そこには世界中から犯罪者が集まり、最悪の治安となっている。


 1972年、第二次世界大戦で1度滅ぼされたPOLは順調に国力を回復。しかし、その最中に起こった第一次ダンジョン戦争において、POLは大打撃を受けることとなる。


 当時は少なかった能力者の確保が遅れ、更に軍を即座に動かせなかったことが仇となりPOLは再び廃墟の国と化した。


 それでも何とか持ち直した時には時すでに遅し。ダンジョンの被害によって居場所を失った人々が、弱者を食い物にして生き残る過酷な国へと変貌を遂げた。


 そして、悪は悪を引き寄せる。肥大化した悪の塊は既に政府が手に負える範疇を超えており、政府中枢にも悪の手に染まったもの達が鎮座するとなれば手の付けようがない。


 こうして、第二次世界大戦以上の悲劇を持ってPOLは世界有数の治安が最悪の国家として名を連ねる事となった。


 その中でも更に悪人が集う街、グダニクスのバーに真っ黒なローブを被った2人組が現れる。


 それまで酒を飲み騒いでいた悪人達は、2人組の登場によって誰もが口を噤んだ。


「“億超指名手配(シリアルキラー)”と“狂犬(ヘルハウンド)”だ」

「誰ですかい?それは」


 店の奥で飲む下っ端のギャングの1人が、小さく2人の名を呼ぶ。


 まだこの街に来て2日目の若い見習いギャングは、その名に聞き覚えがなった。


「知らねぇのか?........あぁ、この街に来てまだ2日目だもんな。知らないのも当然か。新人という点ではお前と同じ流れ物なんだが、たった二週間でこの街の有名人になったヤバい奴らだ。間違っても喧嘩を売るなよ?死にたくなければな」

「たった二週間で?そいつは凄いですね。ですが、そんな腕の立つ奴らなんですかい?」


 見習いの目には、黒いローブを被った2人組がさほど強そうには見えない。もちろん、筋肉だけで全てが決まる世界では無いという事は分かっているが、それを差し引いても強そうには見えなかった。


「そこが奴らの怖いところだ。いいカモだと思って絡んだ奴らは、皆豚のエサに変わっちまったよ。たまに居るんだよ。この街の均衡を崩す程のイカれた奴が」

「へぇ、名前からしてヤバそうですもんね。“大量殺人鬼(シリアルキラー)”と“地獄の猟犬(ヘルハウンド)”ですかい」

「多分、お前の言っているニュアンスは違うぞ。億超指名手配と狂犬だ。大量殺人鬼でもなければ、地獄の猟犬でもない」

「直訳じゃないんですか?」


 なんでそんな面倒な名前の付け方を。見習いはそう思いつつ、三下のギャングに疑問をぶつける。


 三下のギャングは、酒で喉を潤しながらローブの2人組に聞こえない声量で話した。


「あっちの背の小さい方、あれば一ヶ月前にFRでテロを起こした張本人だ。今じゃ特別国際指名手配をかけられて、懸賞金は2億ゴールド。名前は確か“グレイ”だったか?知ってるだろ?マルセイユダンジョンテロ」

「そりゃ、今でも話題の世界最大規模のテロじゃないですか。マジでその張本人がここに?」


 三下のギャングは小さく頷く。


「そのマジだ。本人も“グレイ”と名乗っているし、何より顔も一致する。だから“億超指名手配(シリアルキラー)”なんだよ。数千万人近くも殺した上に、今でも絡んできたヤツを殺してるんだからな」

「そいつはやべぇですね。もう片方は?」

「そっちはもっとやべぇ........ちょうど馬鹿が絡むみたいだ。この街で生きていくなら見ておけ。あの女はだいぶ頭のネジが緩んでる」


 三下が指を指す方向に視線を向ければ、いかにも悪人と言った顔をした筋骨隆々の男がカウンター席に座るローブの2人組に喧嘩を売るところだった。


 彼はこの街に来てまだ三日目の新人。名を挙げるために、最近勢いのある2人組を見せしめに殺そうと絡んだのだ。


 結果が分かりきっているもの達はその男を憐れむような視線を向け、まだこの街に来て日が浅いものは賭けを始める。


 2人組に絡もうとした男は、ドン、とカウンターを叩くと脅すようにそれでいてこのバーにいる人たちに聞こえるように大きな声で騒ぎ始めた。


「おい、最近調子に乗っている2人組だな?」

「........」

「........」

「何とか言えよ!!ぶち殺すぞ!!」


 ガン無視を決められた大男は、顔を真っ赤にすると背の小さい方が座っていた椅子を思いっきり蹴り飛ばす。


 金属でできているはずのパイプの部分が、へし折れる。


 座っていた背の小さい方は、椅子を蹴り飛ばされると予想していたのであろう。蹴り飛ばされる寸前に立ち上がった為、特に怪我はなかった。


 が、しかし、怪我がなくとも狂犬の逆鱗には触れている。


 次の瞬間、大男の足が曲がってはいけない方向に曲がり、痛々しい悲鳴と共に尻もちを着いた。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!!足が!!俺様の足がぁぁぁ!!」

「テメェ!!グレイちゃんに手を出すとか死ぬ覚悟があるんだろうな?!テメェの脳髄引きずり出して魚の餌にしてやるよ!!」


 目に見えない程の速さで大男の足を蹴り抜いた狂犬は、尻もちを着いた大男に容赦なく追撃を食らわせる。


 折れた足に何度も何度も攻撃をあびせ、最早人の足と認識出来なくなるまでグチャグチャに潰れてしまった。


「うわぁ、見ろよ。ミンチだぜ。ありゃ痛ぇわ」

「周りで見ている人たちもドン引きしてるっすもんね。皆サイコホラーに遭遇した時のように顔が引き攣ってますよ」

「そりゃ引き攣るだろ。一発で殺してやった方が楽なのに、あそこまで必要以上にグチャグチャにするとかサイコホラーと変わんねぇよ。むしろ、現実で起こっている分こっちの方がタチが悪い」


 三下達が話している間も狂犬の攻撃は止まることを知らず、遂には両腕も破壊し始めた。


 両足は既に豚のエサと何ら変わらない肉塊になっており、大男はただただ許しを乞うだけ。どちらが悪いと言われれば一方的に絡んだ大男の方が悪いのだが、だとしてもやりすぎであった。


「リィズ、そこまでにしておけ」


 ようやく静止の声が入る。


 両腕が破壊され、大男は既に泣く力も残っていない。かろうじて息はあるが、今にも死にそうであった。


「えー、もっと徹底的にやろうよ。見せしめになるし」

「もう十分見せしめになっただろ........見ろよ。このバーにいるやつらの顔が引き攣ってんぞ。サイコキラーを目の当たりにしたって顔だ」

「私はサイコキラーじゃないよ?」

「分かってる。バーテンダー、そいつ売るから目を瞑ってくれ」


 そう言ってグレイが指さしたのは、両足と両腕がミンチとなった大男。


 彼は、今目の前でボコボコにした男を売るからこの騒ぎは見なかったことにしてくれと言っているのだ。


 自分から絡みに行っている以上、これは自己責任である。だが、あまりにも無情すぎる仕打ちに、あまり慣れていないもの達は同情してしまった。


「貴方様にはいくらか儲けさせてもらってますからね。このぐらいはいくらでも目を瞑りましょう........おい、回収しろ」


 バーテンダーがそう言うと、後ろからゾロゾロと強面の男達が出てくる。肉だるまになった大男はそのまま闇の中に葬り去られてしまった。


「な?ヤベェだろ?」

「ヤベェっすね。何気に、サラッとあの男を売った“億超指名手配(シリアルキラー)”もヤバイし、少し絡まれただけで相手を肉だるまにする“狂犬(ヘルハウンド)”もヤベェっすわ。そりゃ、こんな調子て来るやつらを叩きのめしてたら有名にもなりますね」

「しかも、絡んできた相手がマフィア、ギャングお構い無しだ。仇討ちしようとライフルブッパなしてきた奴らまで豚のエサとなっちゃぁ、誰も関わりたく無くなるさ」

「そうっすね........」


 見習いはこの時、この街から早々に出ていくことを決意した。その判断は間違っていなかったと言えるだろう。




億超指名手配(シリアルキラー)

 グレイにつけられた二つ名。FRでのテロ事件の首謀者であり、実行犯。その殆どは闇に包まれているのも相まって、この名はグダニクスにおいて恐怖の対象となっている。

 尚、本人は割と普通にしていただけなので、この二つ名があまり好きではない。




 この街に来てから早二週間。俺は厄災の星にでも生まれたのか?


 何もやっていないのにテロリスト扱いされ、懸賞金2億ゴールドとか言う大金をかけられた。


 木偶情報屋のお陰で、あちこちに間違った情報をばら撒き何とか政府からの目を逃れて逃げ延びてきたが、その先でも事ある毎に厄介事に巻き込まれている。


 DEU(ドイツ)からPOLに行くだけで軽く10件以上のイザコザに巻き込まれたとなれば、最早神の天罰と思っても仕方がない。


 時に警察とギャングの抗争に巻き込まれ、時に賞金稼ぎのハンターに追いかけ回され、時によく分からん組織のよく分からん実験に巻き込まれた。


 その絡んできたヤツらの殆どが、今頃畑の肥料になっているだろう。


 元々治安がさほど良くないDEU国内というのも多少はあるだろうが、それでも巻き込まれすぎだ。


 割とマジめに、なにかに取りつかれてるんじゃないかと思ってしまう。


 そんなこんなありつつも、ようやく辿り着いた地はさらなる地獄。悪人が悪人を食い殺すクソよりもクソな薄汚れた街となれば、ため息すら出ない。


 幸い、厄介事に巻き込まれすぎたのと情報屋から色々と教えられたのもあって、裏社会で生きていくために必要な事は分かっている。


 絡まれたら殺れ、舐められたら叩き潰せ、報復しに来たらそれごと喰らい尽くせ。


 とにかく金と力が正義である裏社会では、弱者側に回る事が悪手だった。


 1度だけ下手に出たことがあったが、エライ目にあったしな。


 リィズが居なければ、俺も今頃畑の肥料になっているか豚のエサになっているか、魚相手に道案内をすることになっていただろう。


「あ、椅子がへし折れてやがる」


 俺は隣に置いてある椅子を持ってきて座り直すと、タバコに火をつけながら今後のことを考えていた。


 目的は依然として変わらない。


 攻略不可ダンジョンである“五大ダンジョン”の攻略。神に与えられた試練は乗り越えなくてはならない。


 リィズには既にこのことを話しており、快く彼女は協力を申し出た。


 毒に犯されていた彼女は見た目相応の弱々しい子だったのだが、毒が抜けてからはとても凶暴になっている。


 先程の絡んできたデカブツを肉だるまに変えた様に、リィズはとにかく手が早い。


 それでいて、化け物のように強かった。能力もそうだが、基礎能力が桁違い高い。少なくとも、俺とリィズが本気で殺し合えば彼女に傷一つつけることなく俺は死ぬだろう。


 以前の静かな性格はどこへ行ったのやら、今の彼女は正しく狂犬だった。


「グレイちゃん、これからどうするの?」


 甘く媚びるような声でリィズは俺に話しかけてくる。一ヶ月と半月しか一緒に行動していないとはいえ、お互いに頼れる存在がお互いしかいないとなると自然と距離は近くなる。


 一線も........うんまぁ、うん。心に傷を負った時に甘やかされると人はダメになるな。お陰で、ルーベルトの死を受け入れ乗り越えることが出来た。


 それでも尚、偶に思い出しては鬱になるが。


 俺はタバコの煙を吐き出しながら、今後やるべき事を口に出した。


「仲間集めと資金調達。この2つがメインだな。暫くはここら辺のダンジョンを潜るとしよう」

「さすがに、私とグレイちゃんだけじゃ厳しいもんねぇ。でも、ここで仲間が見つかるの?私達、だいぶ色んなところから恨みを買ってるけど」

「うんうん。基本君が喧嘩を買って恨みを引っ張ってくるんだけど、自覚ある?」

「?」


 可愛らしく首を傾げてもダメだぞ。


 やり過ごせそうな相手も食い殺しやがって。お陰様で小さなギャング2つとやり合う羽目になったんだからな。


 リィズがほぼ1人で全てを殲滅したけど。


 俺は吸い終わったタバコを灰皿に押し付け、度数の低いカクテルを飲みつつグラスを拭くこの店のマスターに話しかけた。


 彼との付き合いは約一週間ちょい。短い期間ではあるが、絡まれた死にかけのゴミをくれてやっているので、関係は良好である。


 俺は後始末に困らないし、マスターはゴミを分解して臓器(使える部分)を売りさばく。win-winの関係だな。


 ちなみに罪悪感なんて欠けらも無い。この1ヶ月程度で死体は山ほど見たし、人殺しも両手では数え切れないほどしてきた為に感覚が麻痺してきている。


 それに、絡んだきたやつ以外には手を出していないから自業自得だ。


「なぁ、マスター。ここら辺に強くて面白いヤツって居ねぇのか?」

「どうでしょうね。強いという点なら、何名か思いつきますが所属無し(フリー)では無いですし。それと、面白いの基準は人それぞれなので」

「確かにそうだな」

「ですが、最近はエボラスファミリーとデックギャングの対立が激しい。それに伴って人の出入りも激しいので、もしかしたらそういう人が来るかもしれませんね」


 エボラスファミリーはこの街の1番デカイマフィアであり、デックギャングはこの街で1番デカイギャングだ。


 昔はエボラスファミリーの方が力を待っていたのだが、先代ボスが死んでからは力が衰退している。


 その代わりに台頭してきたのがデックギャング。ギャングでありながら“闇ダンジョン”を複数所有し、この街の長になり変わろうと画策しているんだとか。


 最近では毎日のようにどこかでこの2勢力が衝突し、死人を出している。実際に俺も巻き込まれかけたしな。


 まだ小競り合いらしいが、いつ爆発してもおかしくない状況だった。


「なら、面白いやつが来たら教えてくれ。会いに行ってみるから」

「貴方には特別にタダで教えてあげますよ。ですから今後ともご贔屓に」


 マスターはそう言うと、“サービスです”と言って軽いおつまみを出してくれた。


 結構美味しかったです。







 本当はグレイの名前を変えたかったけど、読みにくくなるのでそのままに。メタイ理由だけど許してね。

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