42.あなたの元に自分の足で行きます。
ライト公爵が王宮に出勤して、カールが用事があると公爵邸を出ですぐにサイラス様がやってきた。
「イザベラ、逢いたかった」
ふわっと宝物のように抱きしめられて心が満たされていく。
「サイラス様、ルブリス王子殿下が婚約を解消してくれるそうです」
私は彼の温もりに包まれながら昨晩あった出来事を話した。
「昨日あれ程までにイザベラとの婚約に固執していたルブリス王子を説得するなんて、イザベラはすごいですね。でも、一晩も語り明かすなんて嫉妬してしまいます。氷のライ国への輸出の件は了解しました。イザベラは彼に傷つけられたと思うのですが、彼に復讐をするのではなく彼を助けるのですか?」
「ルブリス王子殿下が自分の意思で、私を断罪したり非難していたのではないと主張しているのです。私はその言葉を信じようと思います。今までの彼の振る舞いは不可解なものばかりです。今、彼は信じていた弟までもが敵だったと気がつき、とても傷ついています。ライ国の長子相続のルールも撤廃するよう、国王陛下に進言すると約束してくれました。正々堂々と王位継承権を争えば、勝っても負けてもルブリス王子とエドワード王子は手を取り合う仲になれると思うのです。今、ルブリス王子殿下には味方がいません。私は他に彼の味方ができるまでは、彼を支えようと思います。サイラス様は半年後には戴冠式があります。当然、準備があるはずです。私は必ずルイ国のあなたの元に自分の足で行きます。先にルイ国まで戻ってください」
物語の強制力があるかどうかは私にも分からない。
でも、私にとってルブリス王子殿下とフローラは同じではない。
フローラは私にとって、前世から私を犯罪まがいの手段で虐め抜いた女で彼女は私に謝罪することもなかった。
ルブリス王子殿下は、私を傷つけたのが強制力によるものだと言いながらも謝罪してくれた。
「イザベラ、現在ルイ国は、レイラ、ライアン、ララアと3人が私の不在を守ってくれています。私は今すぐにでもルイ国にイザベラを連れて帰りたいです。その願いは叶えてもらえないでしょうか」
私を悲しそうな目で見つめてくるサイラス様に心が揺れる。
私は一番大切な人を悲しませてまで、ルブリス王子を助けたいのだろうか。
「サイラス様、わがままを言い申し訳ございません。あなたを傷つけたい訳ではないのです。いつも笑顔でいて欲しいと願っています。でも、今、消えてしまいたいくらい苦しんでいるルブリス王子を放ってはいけないのです」
私は彼の首に思いっきり背伸びをしてしがみつき、頰に軽く口づけをした。
「イザベラは意外とズルい子ですね。そのように頼まれては、私はあなたの言うこと聞かなくてはなりません」
彼が私の頰に手を当てて、顔を近づけてくる。
口づけをされると思ったので、私はゆっくりと目を瞑った。
「姉上、お取り込み中のところ失礼します。卒業パーティーでの出来事を証言してくれる証人を集めてきました。彼らの証言があれば、ルブリス王子と姉上の婚約を破棄し、彼を廃嫡まで追い込むことができます。今、公爵邸の前で待機して頂いているのですが、お呼びして宜しいでしょうか?サイラス王太子殿下にカール・ライがお目にかかります。卒業パーティーの際は姉上を救って頂きありがとうございました。2人が愛を確かめ合っているところ、邪魔をしてしまい申し訳ございません。拝見し続けては失礼かと思いまして、声を掛けさせて頂きました。僕は2人の仲を応援しています。何の憂いもなく姉上がルイ国に旅立てるよう、僕にできることがあれば何でもしたいと思っております」
突然、カールの声が聞こえて私は目を開けた。
すぐ近くにサイラス様の顔があって見たこともないくらい驚いた顔をしている。
「イザベラ、あなたに夢中になりすぎたせいか、まったく人の気配に気がつきませんでした。こんなことは初めてです。彼が暗殺者なら私はここで死んでました。」
サイラス様が耳元で囁いてきて、私は顔が熱くなってしまう。
「私はカールがどこから見ていたのかと思うと、既に恥ずかしくて一度死んだ気がします」
私の言葉に先ほどまで悲しい顔をしていたサイラス様が笑ってくれてホッとした。
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