ブサイクだから召喚キャンセルされたけど、戻った世界がパラレルワールドで何故か妹がデレた
ブサイク召喚キャンセルシリーズ第二弾——をなんとなく作ってみました。
高評価の場合は連載版も作るかも?
「またここに来ちまったか……。どうせこの先には行けないのに」
真っ白な雲のようにフワフワした地面を踏みしめながら先へ進むと、既に幾度か目にした姿を捉える。
美しい金髪に白く清楚な服を着こなしながらも、怠惰な寝姿で漫画を読みながら菓子を摘まむ美女。
「あん?なんじゃお主、また来たのか。しつこいのぅ」
そして俺を邪険に扱うのも、いつもの事。
どうやら俺の容姿はお気に召さないようで、何度来ても追い返されてしまう。
「いや、俺だって来たくて来てる訳じゃないんですけどね。いつものごとく、通しては貰えないって事ですよね」
「当たり前じゃ。妾の世界でブサイクがチーレムするなんぞ、許さぬわ」
かく言う美女は、異世界の女神様らしい。
自称なので定かでは無いが。
そしてその異世界から、度々俺は召喚されているのだが、この女神が俺を追い返してしまうのである。
俺は別に異世界に行きたい訳じゃないんだが、幾度もの召喚を行うという事は、異世界はかなり重大事にあるのではなかろうか?
女神にとって人の世なんてどうでもいいのかも知れんけど、じゃあ何の為にいるのこの神?
神って元々そういうものなのかね?
「じゃあ俺はまた元の世界に戻されるんですね」
「あぁ。さっさと帰れ」
尻掻きながら、こちらを見向きもしねぇ……。
程なくして目の前の景色が歪む。
結局3度目の召喚もキャンセルされてしまった。
抗う術など無いし、元より抗う気も無いので、別にいいんですけどね。
ブサイクって言われる事以外は……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
俺——剛田武雄は、また元の世界に戻って来た。
実はいつも戻ってくる度に、世界が微妙に変化しているような気がするんだが。
あのクソ女神が適当に戻してるせいで、ちょっとズレたパラレルワールドに戻って来てるんじゃねーの?
まぁ、大まかな部分は変わってないし、生活に支障がある訳じゃないからいいけど。
妹の性格が微妙に変化してるのが一番大きな違いなぐらいで、町並みや世界の概念なんかはそのままだ。
だから、2〜3日もすればすぐに慣れるはず……。
「おかえり……」
妹が俺に「おかえり」なんて言うのは何時以来だろうか?
やはり、また別の世界線に入り込んだようだな。
最初の世界線では口も効いてもらえず、一度目の召喚から戻った世界線では「ブサイク近寄んな!」、次の世界線では「キモい!あっち行って!」だった。
今度の世界線でついにデレたか……。
後日、この事を親友に相談したら「それ、ただ反抗期が収まってきただけじゃね?」とすげなくあしらわれた。
さて、今回は今までと違って、明らかにパラレルワールドであると感じた理由が他にもある。
前のそれぞれの世界では感じなかった『魔力』を感じるようになったからだ。
実は3度の召喚で、本来異世界に渡らないと手に入らないであろう『スキル』が、あの女神のいる場所に行った時点で手に入っていたのである。
そのスキルは、『魔力操作』『無詠唱』『魔力増大』。
異世界に行ってれば魔法のスペシャリストになっていたであろうに、元の世界に戻されてしまったため、今に至るまでこれらは無用のスキルとなっていた。
しかし魔力があれば、それが使えるのだ。
基本は元の現実世界のままで、魔力だけが存在する世界になった。
これって、無双できるんじゃね?
でも魔力云々のスキルがあっても、魔法の使い方を知らんから無理か……。
夜中に自室でこっそり練習したけど、やっぱり魔法は発動しなかった。
魔力は動かせるし、自分の体の中の魔力をブーストして増大も出来るけど、それだけ。
無詠唱はそもそも呪文とか知らないから意味無かった。
イメージが必要なのか?と思って、小さな光が手に集まるイメージをしてみたけど、何も起きなかったし。
この世界の魔力は魔法と関係無いのかな?
それともこの魔力って俺の妄想の産物か?
いや、それは中学三年で完治したはずだ……。
さすがに眠気に勝てなくなってきたので、調べるのは翌日に持ち越しとなった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日学校へ行くと、パラレルワールドとは思えないほど普通だった。
魔力が世界に存在していても、家電等には一切使われていないようだ。
おそらく物理学者が観測できない元素なんだろうな。
幽霊を構成する物質みたいに、物理的な観測では再現性が表れにくいのかも知れない。
なので、この世界は今まで通り、普通に科学が発達した社会なのである。
でも、何故か今日は見たことの無い美少女がクラスに紛れていた。
転校生かと思ったが、教師からの紹介も一切無く、それどころか昔から居るかのようにクラスに馴染んでいる。
あれだけの美少女がクラスメイトであれば、絶対に気付くはずだと思うんだが。
ひょっとして、クラスの地味系の子がイメチェンしたら実は美少女だったとかいうパターンか?
それならありうるのか……。
パラレルワールドに移行しても、今まで周りの人間関係が変化した事は無かったから、その線が濃厚だな。
急に魔力がある世界になっちゃったから、ついついおかしな妄想をしてしまったようだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ねぇ、あなた。昨日まで居なかったわよね?」
その美少女が放課後帰る時に話しかけてきた。
いや、いくら俺がモテなくて地味で存在感無いからって、それは酷くね?
寧ろお前の方が今までいたのかってぐらい、イメチェンしてるやんけ。
そういえば、この子の名前知らんな。
「君の方こそ、昨日まで居なかったよね?名前を教えてくれるかな?」
名前を尋ねると、美少女は少し嫌そうな顔をした。
なんだよ、ブサイクに名前聞かれるのがそんなに嫌なのかよ。
別に惚れたとかじゃなくて、確認だよ、確認。
「私の名前は西園寺静香よ」
おい待て。
そんな雅な名前の奴、絶対クラスに居なかったぞ。
「そんな名前聞いた事ないな。俺は剛田武雄だ」
「あなたの方が聞いた事無い名前じゃない。一体何者?」
これは新手のいじめかな?
存在感無い奴の存在を更に否定するいじめって、酷くない?
美少女だからって何やっても許されると思うなよ!
大体、今日はクラスの友達とも普通に話したし、この美少女以外はちゃんと俺を認知してたぞ。
まぁ、不思議な事に、クラスメイトはこの美少女の事も普通に認知していたんだが?
つまり、俺と彼女だけがお互いに認識できていないという事に……。
まさか、この子もパラレルワールドからこの世界線に来てしまったのか?
美少女はその綺麗な瞳を細めて、俺を鋭い視線で見つめた。
それがあまりにも可愛くて、ちょっと照れてると……
「まさか貴様、魔族か?クラスメイトに催眠を掛けたのか……?」
などと、とても痛い事を宣いましたよ、この人。
俺は関わり合いになりたくなくて少し後ずさる。
西園寺静香と名乗った美少女は、逃がすまいと構えをとって距離を詰めて来た。
「やはりっ!逃がさんっ!!」
急に雰囲気が変わった彼女は、何かを唱えながら両手で奇妙な印を刻んだ。
ちょっと格好いいじゃねーか。
……って、あれ?なんか彼女の手に魔力が集中してね?
「くらえっ!!」
「うわっ!!」
美少女が両手を前に突き出すと、獅子の形をした魔力の塊が俺に向かって放たれた。
俺は咄嗟に魔力を両手に集めて、『魔力増大』で魔力を増やしてガードした。
獅子は噛みつくような動作を見せたが、俺の手の魔力に当たると弾けるようにして消えた。
「う、嘘……。私の術がかき消されるなんて……」
いやいや、驚いてるのは俺の方なんですけどぉ!?
何なの今の!?
彼女が思春期特有の自分で考えた技を披露したのかと思いきや、本当に何か技が出たんだけど……。
「まさか、上位魔族なの?そんな……」
新しい設定追加しなくていいから、今起こった事説明してくれんかね?
まさか、俺以外にも魔力を扱える者がいるなんて……。
しかも、ちゃんと魔法として形になってるし。
俺には効かなかったけど。
「俺は普通の人間だよ。寧ろそっちの方が人間とは思えないような、おかしな技使ってるだろ」
「なっ……!?私だって人間よっ!!」
「じゃあ、お互い普通の人間って事でお終いにしようぜ」
「そ、そうね……って、出来る訳ないでしょうがっ!!」
美少女に乗りツッコミしてもらえると、なんか仲良くなれた気がして嬉しいな。
……じゃなくて、何とかこの場を乗り切る方法は?
「おやぁ?魔力の波動に引かれて来てみれば、魔力が豊富で美味そうな人間が2匹もいるじゃないか」
突然上空から声がしたので、そちらを見ると、翼の生えたサラリーマンが宙に浮かんでいた。
なんでスーツ着てるん?
今時スーツ着てるのなんて、時代についていけない古い会社の営業だけだろうに。
いやその前に、とても重要な事を言ってた。
「なぁ、あの変な鳥人間が今『人間が2匹』って言ってただろ?つまり俺もお前も人間だ。問題解決じゃないか?」
「いや、それどころじゃないからっ!!本物の魔族よっ!!」
「じゃあ、俺の方は偽物だったと認めるんだな」
「認めるからっ!現実に向き合ってっ!!」
よし、解決っと。
「で、あれは何なんだ?」
「だから、魔族だってば!」
「魔族って何?」
「そこからっ!?」
だって知らんもん。
「おいおい、お前らの夫婦漫才を聞いてる暇は無いんだが?」
「「夫婦じゃねーしっ!!」」
ハモってしまって夫婦感満載だった。
美少女と夫婦扱いされて、実は内心嬉しかったりするけどね。
「まぁいいさ。俺は慈悲深いんでな、2人仲良く串刺しにして魔力を吸い取ってやろう」
そう言った魔族の手の爪が2メートル程に瞬時に伸びた。
自分の体より伸びててめっちゃバランス悪いけど、それでいいのか?
「なぁ、さっきの技でやっちゃいなよ」
「さっきので魔力が尽きたわ」
使えねぇ……。
あ、そうだ!
「えっ!?ちょっと!何手を握ってきてるのよ、変態っ!!」
俺は西園寺の手を握って、『魔力操作』で俺の魔力を流し込んでやった。
「えっ?魔力が……」
「こんだけ魔力あれば、さっきの撃てるだろ。はよやれ」
「う、うん……」
何故かちょっと頬を赤らめてる西園寺。
はよやってくれんと、串刺しになっちゃうぞ。
ようやく再起動した西園寺が、片手だけでさっきの微妙に格好いい印を結ぶ。
「ふん、小娘の魔力で何をしようと、俺には効かんわ」
それはどうかな?
俺はまだ繋いだままの西園寺の手から、『魔力増大』を使って印で作られた魔力の塊を巨大化させた。
「撃てっ!!」
「は、はいっ!!」
獅子の形をした魔力の塊は、先程の数倍に膨れ上がり、黄金色に煌めきながら魔族へと向かって行った。
「なぁっ!?ばか……な……」
獅子に飲み込まれて、魔族は塵になるように消滅して行った。
「よしっ!」
「な、何今の……凄い……」
西園寺はそのまま空を眺めて呆けてしまったので、俺はほっといて帰る事にした。
せっかくの美少女だが、あんまり関わり合いにならない方が良さそうだし。
だが、数歩歩いたところで、視界が突然切り替わった。
俺は4度目となる白い世界に降り立った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なんじゃお前、もしかしてストーカーなのか?」
俺だって来たくてこんなとこ来てる訳じゃないんだけど?
「何回来ても、妾の世界には入れてやらんぞ」
あぁ、またすぐ返されちゃうのか。
そっちの世界、何度も俺を召喚しようとしてるけど、本当に大丈夫なの?
いや、俺は別にいいんだけどね。
「あの〜、戻るのはいいんですけど、毎回ちょっとずつ違う世界に帰ってる気がするんですよね。パラレルワールドに渡るのは嫌なんで、ちゃんと元の世界線に戻してもらえません?」
「面倒くさい奴じゃのぅ。隣り合う世界には戻せるが、ずっと離れてしまった世界線には戻れんぞ」
え〜、あんたが手抜きしたせいでどんどん世界線がズレて行ったんじゃん。
まぁ妹がデレたんで、いいけどさ。
「じゃあ、さっきの世界線に戻してもらえます?」
「あぁ分かった分かった。はよ帰れ」
なんとなく適当な事されたような気がするが、今度は元の世界線に帰れるようだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
家に帰ると、妹が何故かドアの隙間から顔を赤らめて、こちらをじっと見て来ていた。
あのクソ女神が鼻ほじりながらやったから、またパラレルワールドに来ちゃったんじゃねーかな?
……と思ったのだが、
「お、おかえり……」
ちゃんと妹はおかえりと言ってくれた。
脅かすなよ……。
どうやらちゃんとさっきの世界線に戻れていたようだ。
顔が赤いのは、風呂上がりか?
家では特に変わった事も無く、翌日も普通に朝起きれた。
あの魔族は何だったんだろう?
同じ世界に戻ったんだし、後で西園寺にでも聞いとくか。
あんまり関わると面倒な事になる気がするけど、知らないままってのは嫌だからな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おはよう、武雄くん!」
登校途中、俺は西園寺に声を掛けられた。
急に名前呼びって、人間関係の距離感どうなってんだよ?
美少女に名前で呼ばれるって、めっちゃ照れるじゃねーか。
昨日の事について聞きたいけど、一応先に、同じ世界線かの確認をする必要があるかな?
「おはよう。君は西園寺静香で間違い無いか?」
「何の確認か良く分からないけど、あなたの婚約者西園寺静香で間違い無いわよ?」
俺はどうやらまた別のパラレルワールドに迷い込んだようだ……。
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現在連載中の『Logic Magic 〜空間収納スキルで魔法世界を物理無双〜』もよろしくお願いします。
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