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第四話 騎士団長

「そこの君、大丈夫か?」

「あ、はい……」


 突然現れた騎士様に少し警戒しながら見つめていると、彼は剣を鞘に納めてから、私に手を差し伸べてくれた。


 黒い髪と、赤と白の目がとても特徴的な彼は、表情がやや乏しいですが、声色はとても優しいですし、雰囲気もとても穏やかな殿方でした。


 敵意があるようにも見えませんし、少しは信用しても大丈夫そうですわ。


「口から血がこんなに……怪我でもしたのか?」

「ちょっと体調が良くないだけですので、怪我ではありませんわ」

「そうだったのか、それはつらいだろう。俺の水で良ければ飲んでくれ。少しは楽になるかもしれない」

「良いのですか? ではお言葉に甘えさせていただきます」


 私は彼から水の入った水筒を受け取ると、少し口をゆすいでから、ゆっくり喉を潤した。直接的な解決にはなりませんが、少しは気分が楽になったような気がいたします。


「ありがとうございます。私はマシェリー・グロースと申します」

「マシェリー・グロース……まさか、グロース国の王女?」

「ええ。事情があって……元ですが」

「これは大変なご無礼を。カイン・ヴァンラミアと申します。エルピス国騎士団の隊長を務めております」


 先程までの、少し砕けた柔らかい印象から一転して、とても真剣な表情で膝をついたカイン様。私の身分を知ったら、こうなってしまうのも致し方ないでしょうが……。


 ちなみにエルピス国というのは、グロース国の隣に位置する一大王国。私もそこの王族の方とは、社交界で何度もお会いしております。


 もちろん、王族を護衛する騎士団長の方にもお会いした事はあるんですが……もっとご年配の方だったはず。私が幼い頃だったので、更にお歳は召しているはずですわ。


「失礼を承知でお聞きしたいのですが……私、随分前に騎士団長様にお会いした事があるのですが、あなたではなかったですわよね?」

「それは一代前の騎士団長でしょう。私は去年、この任に就いたばかりですので」

「そうだったんですね。それと、そんなかしこまらないでくださいませ。私はあくまで元王女ですので」

「そういうわけには参りません」

「私が良いのだから良いのです。先程までの話し方の方が、私も気軽に話せるので」

「……しかし……うん、そこまで言うなら。よろしく、マシェリー姫」


 少々納得がいっていないようですが、なんとか出会った時のようになってくれましたが、呼び方が少々堅苦しさが残ってますわね……。


「姫はいりませんわ。マシェリーでよろしくてよ」

「じゃあ、マシェリー」

「はい、カイン様」


 カイン様の手を両手で包んで握手をすると、なぜか不服そうな顔をされてしまいましたわ。私、なにか粗相をしてしまったかしら?


「……俺だけ様呼びは変じゃないかな?」

「私はこれがいつもの事なんですの。むしろこれを変える方が、違和感がありますわ」

「そうか。なんだかくすぐったいが……ところで、グロース国の元王女がどうしてこんな森の中に? それに、ここはエルピスの領土だよ」

「…………」

「国境を超える際には、正式な手続きがいるのは、元王族のマシェリーなら知っているよね? ましてや君のような地位の高い人間なら、エルピスに連絡が来てもおかしくない。でも……そのような連絡は聞いた事がない」


 彼の疑問ももっともですわね。まだ信用したわけではありませんが……ここで変に黙秘を続けたら、話がこじれてしまう可能性もある……素直に話しましょう。


「――なるほど、にわかには信じがたい話だけど……俺を騙すメリットは無さそうだ」

「ええ、私も信じたくありませんが……実際にこの数日で起こった事ですの」


 自分の身に起きた事を話すと、カイン様は何かを考えるように腕を組んでおられました。


「事情は分かった。このままここにいても仕方がない。俺達の野営に案内するから、そこで休むといい。歩けるか?」

「ええ。お水のおかげで少し楽になったので、ゆっくりなら歩けるかと」

「それは何よりだ。ここは足元が悪いから、俺の手に捕まって」

「何から何までありがとうございます」


 私は静かにカイン様の手を取ると、静かに歩き始めます。私に合わせてくれているのか、とてもゆっくりした歩みでしたわ。


「ところで、どうして私があそこにいたのがわかったのですか?」

「騎士団の野営訓練をしていたら、突然この犬が出て来て、凄まじい声量で吠え始めてね。何事かと思ってついていったら、ここにたどり着いたんだ。まさか、森の中でボロボロの女性がいるとは、思ってもなかったよ」

「まあ、モコが……あの時逃げなさいって言ったでしょう」

「ワンッワンッ」


 さっきまで奴隷商人に噛みついていた時の顔とは打って変わり、とても嬉しそうに尻尾振りながら返事をするモコ。その顔を見ていると、なんだか怒る気も失せてしまいましたわ。


「随分と信頼し合っているんだね」

「ええ。この子は私の唯一の家族で、唯一の友人でもありますから」

「そうだったのか。俺は家族を亡くしてるし、友もできた事がないから……少々羨ましいよ」


 カイン様も、一人ぼっちだったんですわね。私はお母様が亡くなった後、モコと出会う前はお父様がご存命でしたし、モコと出会ってからは一緒にいましたから、カイン様のお気持ちを完全に理解するのは、おこがましいでしょう。


 ですが、寂しい気持ちはわかります。お父様はお忙しい方でしたので、誕生日といった特別な日以外は、あまりお話しできませんでしたので。


「暗い話はここまでにしよう。さあ、もう少しで拠点、に――」

「カイン様?」


 私より少し先に歩いていたカイン様は、操り人形の糸がプツンと切れたかのように、突然その場で崩れ落ちてしまった。


 い、一体何があったのですか!? どうして突然……いえ、落ち着きなさい私。こういう時こそ冷静に、本人と意思疎通が出来るかの確認からしましょう!


「……さすがにそろそろ限界、か……」

「もしかして、体の具合がよろしくないのですか?」

「……いや、大丈夫。ちょっと眩暈がしただけだよ」

「それは大丈夫とは言いませんわ! なにか私に出来る事はございませんか? 助けていただいた恩返しをさせてくださいませ!」


 反応があった事には一安心ですが、こんな姿を見せられて、大丈夫だなんて思えませんわ。私に何かできるとは思えませんが、もしかしたら出来る事があるかもしれません!


「そうだ、さっき私がいただいたお水――ごほっごほっ!」

「君も調子が悪いんだから、無理をする必要はないよ」

「ですが……!」


 緊張と興奮のせいか、また勢いよく咳き込み、少量の血を出してしまった私は、弱々しい声で反論の意を示しました。


 ……自分の弱い体が情けないですわ。数年前まではこんな症状はなかったのに……どうして急にこんな症状が出るようになってしまったのでしょう?


「そこまで言うなら、協力してほしい事がある」

「なんですか? 私に出来る事ですか?」

「うん。君はそこに立っているだけでいいよ」

「お任せくださいませ!」


 よかった、私にもカイン様の為に出来る事がありましたわ! これで少しでもカイン様の調子が良くなれば――そう思ったのも束の間。


「んむっ……????」


 なんと私は、カイン様に突然唇を奪われた――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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