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第三十三話 王たる者の意志

 私はポケットから一つの石を取り出すと、それを掌の上に置きました。その石は、私の掌の上で、ほんのりと光を放ってましたわ。


「なによ、その石ころ? お姉様、そんなおもちゃしか持ってないの?」

「これは伝音石。この石を通して、別の拡声石に声を伝える物ですわ」

「伝音石? そんな物を出して、どうするというの?」


 まだ状況がわかってないお義母様とコルエは、私を嘲笑するような笑みで見て来ます。その表情がいつまで続くか、少々見ものかもしれません。


「実は、既にこの石は作動しておりまして。先程の会話を、とある場所へと聞こえるようにしてるのです」

「とある場所ですって?」

「はい。それは……グロース国のスラム全域ですわ」


 そこまで話してようやくご理解いただけたのか、お義母様は玉座から勢いよく立ち上がりました。


 ちなみにですが、民達に知らせる為に、これとは別の石を、屋敷の使用人の方達に、各地へと配置してもらっておりますの。


「この話を聞いた民達は、一体どう思うでしょう? それこそ一致団結し、王を倒そうと思う民が増えるかもしれませんね」

「そ、そんな事は無いわ。もし起こっても、一人残らず殺して――」


 更に酷い事を言おうとするお義母様の言葉は、別の兵士が勢いよく入ってきた音によって遮られました。


 普通ならノックをして、中から入出の許可をもらわなければ入れないのですが、それが待てないくらい、切羽詰まった状況なのですね。


「報告! スラムの住人が、城に向かってきております! 勢いが凄まじすぎて、止めようがありません! その数は……多すぎて把握しきれません!」

「なんですって!?」


 私の思い描いた通りの展開になりましたわね。お義母様の横暴なお考えを聞けば、必ず立ち上がる民がいると思ってましたので。


 とはいえ……数が把握できないほどの民が立ち上がるのは、正直予想外でしたわ。この流れを逃すわけにはいきませんわ。


「皆様、私はマシェリー・グロースです。皆様に伝えなければならない事があります。王と国にとって、民は何物にも代えがたい宝物です。民と共に生き、笑い、泣き、成長するもの。それなのに、お義母様とコルエは私腹を肥やす為、そして欲望を満たす為に民を貧困にし、戦争をして命まで奪おうとしております! 民達よ、今こそ立ち上がり、私達の大切な国を、家族を守る時ですわ!!」


 話している時に、思わず気持ちが声に現れてしまいましたし、伝音石を持つ手に力が入ってしまいました。ですが、民達にはその気持ちが伝わったようで――


『うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』


 外から、地鳴りに近い声が聞こえてきました。私の言葉に賛同して、声を上げてくれたのかもしれません。


「何故こんな事に……貴様のせいよ、ノア! 貴様が余計な事をしなければ!!」

「……僕は今までずっと、あなたの操り人形だった。民を守る宰相になると父と約束をしたのに、なんて情けない。だから……その償いをする。これはその第一歩! 兵達よ、罪人達を捉えよ! 案ずるな、責任は全て僕が持つ!!」

「……はっ!!」


 一瞬の躊躇いの後、兵士達はノア様の指示に従い、すぐにお義母様とコルエを包囲してしまいました。


 いくら国を治めていたお二人とはいえ、カイン様やモコのような特別な力は持ち合わせていません。だから、こうして民が味方に付けば、制圧は簡単というわけです。


「ちょ、ちょっとなにこれ!? どうしてこんな事に!? 怖いよ、お母様!」

「ふざけんじゃないわよ! ここまで順調だったのに……ようやく手に入れた地位を……あんな欠片も興味の無い国王に媚びを売って、大嫌いな王妃と友情ごっこをしてまで得た地位を……失ってたまるものですか!」


 ……信じたくはありませんでしたが、やはりお義母様は、自分の目的の為にお父様と結婚をし、お母様の友人をしていたのですね。なんだか、悲しいような腹立たしいような……複雑な気持ちですわ。


「お母様、今回の発端は全部お姉様のせいよ! あいつが死ねば、きっとみんな目を覚ますよ!」

「……そうね。こんな所で捕まって裁かれるくらいなら、あの疫病神を地獄に送ってやるわ!!」

「かはっ!?」


 全く持って的外れな持論を展開しながら、お義母様は取り囲む兵士の一人に、不意打ちで体当たりをして剣を奪うと、私に向かって剣を突き立てながら、突進してきました。


 まさか、こんな捨て身な行動をしてくるだなんて……! 早く逃げないといけないのに、足がすくんで動きません!


「死になさい!!」

「っ……!!」


 迫りくる恐怖に耐えきれなくなった私は、思わずその場で目を瞑りました。


 せっかくうまくいっていたのに、最後の最後でこんな結末に……あ、あら? どこも痛くないですわ……どうなって……。


「……え……?」


 目を開けた先にあった光景に呆気に取られてしまった私は、声にならない声を絞り出す事しか出来ませんでした。


 だって……カイン様が私の前に出て、お義母様の剣から庇ってくれていたのですから。


「くっ……」


 小さくうめき声をあげるカイン様の背中から、キラリと怪しく光る剣先が突き出ていました。


 刺された……? 鎧を着こんでるのに!? そうだ、今着ているのは、いつもの頑丈な鎧ではなくて、借り物の軽い鎧……だから攻撃が防ぎきれなかったんだわ。


 いくらカイン様がヴァンパイアの力で頑丈とはいえ、この傷は……そんなの嫌……私ならいくらでも犠牲になるから、カイン様を傷つけないで!!


「あはははは! こんな女を庇うだなんて、相当な馬鹿ね! まあいいわ。変な力を使う貴様から排除した方が、この女をやりやす――」

「……マシェリー」

「カイン様!?」

「俺な、ずっと……我慢していたんだ。相手は血が繋がっていないとはいえ、君の家族だ。だから、あまり手荒な真似をしたくなかった。だけど……もう我慢の限界だ」


 そう仰ったカイン様は、力任せに剣を引き抜きました。背中や胸から流れ出る血が痛々しいです……。


 ですが、カイン様は倒れるどころか、至って普通にしておりました。こんな痛々しい傷を負わされたというのに、普通に立っているだなんて……これもヴァンパイアの血のおかげでしょうか?


「馬鹿な、なぜ生きてる!? 胸を貫いたのよ!?」

「あなたは、ヴァンパイアの頑丈な肉体を舐めすぎている。俺を殺したければ、相応の物を用意するのをお勧めする」


 ドスの効いた声で答えながら詰め寄るカイン様。彼から恐れをなして逃げるように、お義母様は這いつくばって逃げました……が、すぐに追いつかれてしまわれましたわ。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」

「ヴァンパイアは、人間の血をわけてもらう事で生きられる。その為に、相手に噛みつく事で血を抜きとれる。その抜き取る量を極限まで増やしたら……どうなると思う?」

「そんなの、死ぬに決まってるじゃない! ほら、私よりも若いコルエの方が、きっとおいしいわよ!?」

「お母様!? あたしを身代わりにするつもり!?」

「案ずるな。もうあなたは俺のエサだ。覚悟しろ」


 最後の最後まで醜くさを存分に発揮したお義母様は、スッと伸びるカイン様の手が触れる前に、恐怖に耐えきれなくなり、泡を吹いて倒れてしまいました。


「……ふん、あなたの汚れきった血なんて、触れるだけでも遠慮するよ。さて、君も吸われたくなければ、大人しくしてた方がいいよ」

「は、はひ……」


 蛇に睨まれた蛙のように、カイン様に睨まれたコルエは、涙を流しながらその場に座り込んだ。


 これで、ようやく解決しましたね……いや、まだでした。私にはやるべき事が残っている。


 そう思った私は、伝音石を取り出すと、大きく息を吸いました。


「これを聞いている民の皆様。全て終わりましたわ。国王のイザベラ、並びに王女のコルエの身柄を確保しました。あなた達の長く、苦しい時代は……幕を下ろしましたわ!!」


 その声を皮切りに、外からは歓喜の声で賑わいました。玉座の間にいた兵士達も、嬉しそうに抱き合っていました。


 ……今度こそ終わったと言っていいでしょう。これで、少しは元王族としての責務を果たせたでしょう……。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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