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第二十六話 束の間の安らぎ

 翌朝、窓から入ってくる日差しの光で目を覚ますと、そこにはすでに起きていたカイン様のお姿がありました。しかも……上半身裸で。


「きゃあ! か、カイン様!?」

「うん、おはよう。元気そうでなによりだよ。それで、なにを驚いているんだい?」

「だって、起きたら目の前に男の人のは、はだ、はだはだは――」

「そういう事か。でも、昨日たくさん見たし、見られたでしょ?」


 カイン様の仰る通り、お互いの物を見て見られてを繰り返してましたわ。そして、それ以上の事も……あぁぁぁぁもう!!


「~~~~っっっ!! 思い出したら恥ずかしすぎて、顔から火が出そうになるので、これ以上はお許しください!!」

「痛くはなかったか?」

「痛くはなかったですけど! あと優しくて凄く嬉しかったですけど! あまり辱めないでくださいまし!」


 昨日はあの後、二人でベッドの上でイチャイチャしておりましたの。とは言っても、くっついたり、口づけをしたり、お話をしたり……。


 その後、どちらからともなく近寄っていって……その後は……もうこれ以上言うのは野暮ってものでしょう! そもそも思い出させないでー! 嬉しかったし思い出に残ったけど、凄く恥ずかしいんですのー!!


「それじゃ、少し落ち着くといいよ」

「んむっ……」


 悠長に紅茶でも入れてくださるのかと思ったら、カイン様に唇を奪われ、そして口の中に舌が入っていきました。


 今は口の中に血は無いから、これはただ入れたいから入れただけじゃないですか! あっ……もう、駄目ですってば……。


「さて、おはようの口づけはこんなものかな。って、大丈夫か? 顔が赤いし、目もトロンとしているよ」

「だ、だいりょーぶれう……はふぅ」

「そんな君も可愛いな。もう一度してもいいか?」

「ご、ご勘弁を……」


 私がしたくないわけじゃありません。むしろ、昨日の夜からの出来事をすべて含めても、カイン様と色々したいと思えます。


 ですが、今は深い口づけのせいで、頭の中が真っ白なんです……これ、好きなんですけど……ボーっとして、体が熱くなるのが難点ですのよ……。


「そうそう。昨日のおかげで、かなり血がもらえたな。やはり部分によって血の味も変わるのかもしれないな……」

「も、もうやめてくださいぃ~! 恥ずかしすぎて死んじゃいます~!」

「マシェリーには恥ずるべき部分は何も無いから、胸を張ると良いよ」

「そういう問題じゃないんです!!」


 なんだか、朝早くから私らしくないくらい取り乱していますが、それくらい昨日の夜は、初めてな事ばかりでしたの。


「では、こういうのはどうかな」

「あっ……あったかい……」


 カイン様は再び寝転がると、私の事をすっぽりと抱きしめてくれました。


 なんでしょう、この安心感……近くに大切な人がいるという感じと、温もりと、鼓動――それらが私に安心感を与えてくれるのかもしれません。


 でも、やってもらってるばかりではいけませんわ! してもらった事は、しっかりとお返しをしないと!


 そう思い、私はカイン様と一旦離れてから、カイン様をベッドに座らせてました。そして、私は彼の後ろに回り込みました。


「えいっ」

「マシェリー?」

「こういうの、どうかなって……安心しませんか?」


 私がやったのは、後ろから包み込むように抱きしめる事。お母様がまだご存命だった頃、私が好きで良くやってもらった事ですの。


「ああ、良いね……」

「…………」

「何やら視線が……あ、モコ!」

「…………」


 なんでしょうか、凄く何かを言いたそうに私を見つめるモコ。一体何を言いたいのでしょうか? 怒ってる感じではないんですが……。


「お散歩行きたいの?」

「ワンッ」


 なにやら、モコは凄く部屋の扉をガリガリしています。その扉を開けると、モコは凄い勢いで飛び出しました。


 急すぎて、追いかける事もできませんでしたわ……モコは魔犬だから、変な事に巻き込まれても大丈夫でしょうが、少し心配ですわ。後で様子を見に行きましょう。


「さて、朝食の準備をしようか。まだ作り置きがあるはずだ」

「あ、その……よければ私が作ってもよろしいかしら?」

「マシェリーは料理ができるのか?」

「いえ、実は作った事がありませんの。ですが、屋敷の書庫に料理本がありましたから、簡単なものなら作れるかと。それに……愛するカイン様に作って差し上げたいといいますか……」


 愛する人に朝食を作る。それはラブロマンスなどでよく見るシチュエーションですわ。私も一応、そういった類の本を城で読んだ事があるので、密かに憧れていたんですの。


「マシェリー……ありがとう。でも君だけにやらせるのは申し訳ないから、一緒に作らないか?」

「それも楽しそうですわね。是非一緒に――」

「ワンッワンッ!」

「モコ?」

「随分と吠えているな。何かあったのかもしれない」

「行ってみましょう!」


 予定を変更し、手早く身支度を整えてから、モコの声がした玄関に向かうと、そこにはモコとじゃれ合う兵士の方がいらっしゃいました。


「あ、カイン様、マシェリー様、おはようございます!」

「おはよう」

「おはようございます。モコと遊んでくれていたのですか?」

「はい。お二人をお呼びしたら、来てくれたのがこの子でして。喜んでたので、少し遊び相手をさせていただきました」


 なるほど、さっき急に外に出たがったのは、彼の声がモコには聞こえてたのですね。でも、私達がすぐに出れる格好では無かったから、こうして彼の相手をしていたと。


「それで、こんな朝早くにどうしたんだ?」

「はい。情報収集に向かっていた者が、早速戻ってきたので、是非お話を聞いていただきたく、お迎えにあがりました」

「もう戻ってこられたのですか!? それで、怪我とかは!」

「ご心配なく。どこも怪我はしていません」


 彼の報告を聞いて、私は胸を撫で下ろしました。帰ってこられても、怪我をしていては意味がありませんもの。


「今は城で休んでもらってます」

「わかった。すぐに準備をする」

「かしこまりました。私と一緒に城のメイドも来ているので、彼女達に支度の手伝いをさせますよ」

「それは助かるよ。メイドも全員出払ってて、少々時間がかかると思ってたからね。マシェリー、準備をして城に行こう」


 私はカイン様に深く頷いて見せてから、来てくださったメイドと一緒に、自室へと戻りました。


 戻ってきた方は、どんな情報を持ち帰ってきてくれたのでしょう? 聞きたいような、聞きたくないような……いえ、現実から目を背けてはいけませんわね。しっかりしなさい、私!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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