第二十四話 打ち砕かれた平穏
カイン様が倒れてから、しばらくの月日が流れました。カイン様は無事に回復し、騎士団の訓練に無事に復帰する事が出来ましたわ。
そんなある日、私はカイン様とモコと一緒に、エルピス国の国王であるエドワード様に呼び出され、謁見の間へと向かっていました。
「随分急な呼び出しですわよね? 何かあったのでしょうか……」
「わからない。俺も今朝、城からの使者から聞かされたんだ」
「そうだったのですね。でも、どうして私もなんでしょう?」
「それもわからない……ご本人に直接お伺いした方が良いだろうね」
「モコはどう思う?」
「くぅん……」
カイン様とモコと一緒に首を傾げながら謁見の間へと入ると、そこにはとても重苦しい雰囲気に包まれていました。
……明らかに普通ではありませんわ。絶対に何か悪い事が起きたに違いありません。こういう時の私の勘は、変に良く当たるのです。
「失礼致します」
「ごきげんよう、エドワード様」
「ああ、急に呼び出してすまなかった。少々……いや、我が国に関わる重大な事が起きている可能性がある」
「なにがあったのでしょう?」
「最近、隣国のグロース国の様子がおかしいという情報を手に入れた。まるで、戦争の準備をするように、人員や食料、兵器の材料を集め始めている」
戦、争……? どういう事ですの? 戦争なんて、遠い過去に行われて以来、一度も起きていないのに! どうしてそんな事を母国でやろうとしてるのですか!?
「もしかして、マシェリーが呼ばれたのは、追放される前に、母国で何か見聞きしていないかを聞く為ですか?」
「その通りだ。マシェリー、何か知ってたら教えてほしい」
何かと聞かれても……私がグロース国にいた時には、戦争をするなんて話は、微塵も聞いた事がありません……。
「申し訳ございません……私は何も。仮に戦争をする前提のお話ですが、今の国の長はお義母様ですから、彼女が指示をしたのでしょう」
「彼女なら、何をしてもおかしくはないな……もちろん別の輩が仕向けている可能性もあるが。陛下、今は情報が必要です。我が家の使用人達を派遣させるのはいかがでしょう?」
使用人? それってセバス様や、他のメイド達の事を指しているのでしょうか? 彼らは全員コウモリの魔族ですが、そんな危険な事をさせて大丈夫なのでしょうか?
「ああ、それが最適だろう。君の自慢の暗部……いや、使用人達をぜひ貸してほしい」
「御意。話は自分から通させていただきます」
「……あの、一つ疑問なのですが、どうして情報が漏れたのでしょう?」
ポツリと疑問を漏らすと、皆様の視線が私に向きました。は、話の邪魔をしてしまったかもしれませんわ……。
「それはどういう事だい?」
「戦争をした事がないのでわかりませんが、そういう事は極秘でやるものではないのでしょうか? 平穏に暮らしている所に先制攻撃をしたら、壊滅的な被害を与えられると思うのです」
戦争の準備をしているのが知られれば、当然対策をされる。そうすれば、被害も増えてしまうし、侵攻するのに時間もかかってしまいますわ。
素人の私がわかるのですから、他の方だってそれがわかってもおかしくありません。それなのに……どうしてバレるように動いてたのでしょう?
「もしかしたら、彼らに何か思惑がある可能性も……その事も伝えておこう。では陛下、失礼致します」
「あ、カイン様……あの、何か他にお話はございますか?」
「いや、もう大丈夫だ。もし何か思い出した事や意見があったら、是非共有してほしい」
「もちろんですわ。私もグロース国とエルピス国が戦争をするなんて望みません。協力は惜しみませんわ。では私も失礼致します……ごきげんよう」
私はエドワード様にご挨拶をしてから、急いでカイン様の後を追いかけます。すると、廊下の途中でカイン様に追いつく事が出来ましたわ。
「あの、暗部ってどういう事ですか?」
「ヴァンラミア家に仕えるコウモリ達は、古くから国を陰から支えるスペシャリストなんだ。国が表立って出来ない事……小さな体と飛行速度を活かした情報収集や、国に仇名す者を消したり……そういった事をするのが、彼らのもう一つの仕事なんだ」
お、思った以上に物騒なものでしたわ……名前からして、綺麗な仕事ではないのは予想がついていましたが……。
「ぜ、全然知りませんでしたわ……では、カイン様やセバス様も……?」
「セバスは屋敷の中でも、最強の使い手だよ。それと、俺はコウモリではないから、暗部ではない」
確かにカイン様は、ヴァンパイアの血と力があるだけで、コウモリにはなれませんものね。少し安心してる自分がいる事に、少々驚きですわ。
「とにかく、急いで屋敷に戻ろう。俺は一度騎士団の方に事情を話してくるから、先に馬車に戻っててもらえるか? いつもの所に、陛下が用意してくれた馬車がいるはずだ」
「わかりましたわ。モコ、行きましょう」
「ワンッ!」
元気よく返事をしたモコと一緒に、私は早足でいつも馬車を乗り降りしている場所へと向かいます。
カイン様の体調が戻り、私も調子を崩す事が激減して、ようやく平和な日常が過ごせると思っていたのに……こんなとんでもない事になってしまうだなんて……一日でも早く、皆様が平和に暮らせますように……。
****
屋敷に戻って来て事情を説明してから間もなく、屋敷から次々に使用人達が出かけていきました。今残っているのは、私とカイン様、モコにセバス様だけですわ。
「では坊ちゃま、行って参ります」
「ああ。セバス、気を付けて行ってきてくれ。全員の帰還が、最重要命令だからね」
「重々承知しております。マシェリー様、モコ様、坊ちゃまの事をよろしくお願い致しますぞ」
「お任せくださいませ」
「ワンワンッ!」
コウモリの姿になって去っていくサバス様を、私はそのお姿が見えなくなるまで見続けていました。
いくら皆様が凄い方々とはいえ、万が一もあります。無事に帰ってきてください……。
「その、セバス様達は情報収集と一緒に、殺しもするのでしょうか……?」
「それは無いだろう。今回は隠密行動が主だからね。だから、君の国の大切な民が犠牲になる事は無い」
「そうですか。それは良かった……民もセバス様達も、誰も傷ついてほしくないのです……」
戦争なんて、沢山の人達が傷つく悲しい事です。戦争の理由がどうであれ、そんな事が許されてはならないのです。だから……一人でも犠牲になる人が減るのを祈りましょう。
こんな時に、私は何も出来ない……なんて情けない……いえ、何を弱気になっているのですか私。元王女として、きっと何かができるはずですわ。両国と国民の為に、私に出来る事はなんでもしてみせます!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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